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obsession  作者: 礼央
第二章 狭間
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テストを一週間前に控えた土日の休日。

以前話にあった勉強会と言う名のお泊りに真は心踊っていた。

いくら勉強とは言え、友達の家に泊まる事が初めての経験なのだから。

待ち合わせ場所の駅で雪乃に逢って早々、指摘された。

顔には出してない筈なのだが、体のほうがそわそわしていたらしい。

正直に初めてだと伝えると、雪乃は呆れながらも出来るかぎりのもてなしをしてくれると言ってくれた。

駅から歩いて15分。

お洒落な外観のマンションの5階が雪乃の部屋。女性限定のマンションらしいが、普通に考えても高校生が住む家では無い。十分な広さで対面キッチンのある1LDK。

自分の部屋に充分満足しているので羨ましさは無いが、雪乃の金遣いの荒さが理解出来た気がした。

一人暮らしにしては無駄に大きすぎるソファーに腰掛ける。


「何か色々と感動した・・・」


溜息を吐きながら感想を零した真に雪乃は首を傾げたが、さほど気にする様子も無く途中スーパーで購入した食材を冷蔵庫へ仕舞いに行った。

軽く荷物を片づけてお茶をそこそこに本来の目的である勉強を早々に開始する。そういう所を雪乃はしっかりしているのかもしれない。女の子同士のお喋り会をしては意味が無いのだから。

雪乃曰く、暗記物は家で覚えると良い、との事。なので今回は問題集に徹している。そして問題に躓く度に雪乃に聞く。それを夕方まで続けた。

夕方からは少し休憩して、雪乃の作った夕食を御馳走になった。自分より独り暮らし経験が長い為かとても美味しかった。

それから風呂に入り、また少しゆっくりして再度勉強に取り掛かる。

真はただただ問題に取り掛かり、雪乃は自分なりの勉強法を行っているのか、勉強する必要も無いのか教科書に目を通している。

ある程度数日前から勉強をしていたせいか、以前より強制をされたりと言うのは無かった。

本日何度目かの集中力も切れ、目にも肩にも疲れを感じて来た頃、ふと視線を感じると雪乃は教科書から視線を暫く自分に向けていた様で、肘を付いた気怠げな体制で唐突に疑問を投げかけて来た。


「真ってさ、幸希と何かあったの?」


「は?」


自分が一生懸命勉強に励んでいるというのに一体何を言い出すのか。

幸希と言う単語に少し反応してしまったが、質問の意図が理解できず、自然と訝しげな表情になる。


「何?いきなり」


「いやさ、前々から思ってたんだよね。

転校前は同じ学校でクラスメートだったんでしょ?暗鬼の件があったからと言っても真の幸希に対する態度は何か変だなって」


「別に・・・」


きっと幸希の単語に反応してしまったのを雪乃の観察眼は見逃さなかっただろう。誰にも話さず、絶ち切ってしまおうと誓った筈なのだが、雪乃は大切な友人だ。隠し事は極力無くしたいし、雪乃なら話しても良いのかもしれない。しかし正直言いにくい。

少し、時間を置いて言葉を紡ぐ。


「・・・初恋だった・・・・」


怒っている訳ではないのだが、恥ずかしさも含め、不貞腐れた様な低い声となって発せられた。

途端、雪乃の目が光り、嬉々としてテーブルに体重を掛け乗り出して来た。


「やっぱり!!!何で?いつから?詳しく教えてっ!!!」


興奮しているのか、雪乃らしく無い言動で真に詰め寄る。


「嫌だよ恥ずかしい」


「えー良いじゃない。私だって遥鳴さんの事散々話したでしょ?自分ばっかり話したってフェアじゃないじゃない」


想像していた以上の楽しそうな反応を見せる雪乃に若干の後悔をしつつ、折角なので改めて気持ちの整理を兼ねる事に、昔の記憶を手繰り寄せる。


「大したことじゃないよ。

1年の頃の委員会活動で知り合いが居なくてね、不安だった時話しかけてくれたのが四谷だったんだよ。単純でしょ?

人当たりが良かったから委員会の時色々話ししてくれて、で、気が付いたら好きになってたっぽい」


「告白とか考えなかったの?」


「うん。女の子の噂とか絶えなかったし、2年で同じクラスになって片思いし続けて、あまり会話する事は無くなったんだけど3年でも同じクラスだったから卒業の時に告白をって考えてたんだけど・・・

その頃から四谷は学校に休みがちになったし、私はクラスで嫌われ始めたからいつの間にか冷めちゃったって感じかな?」


「今は?」



雪乃も年頃の女の子と言う奴だ。

予想していたその質問に肩をすくめる。


「そんな気があるように見える?

完全に冷めてるよ。正直今は黒歴史と言うか、消したい過去だよ。

きつく当たっちゃうのはそれが原因かな。まあむかつく事も多いし」


頷きながらも雪乃は教科書をたたみ、テーブルの四隅に追いやった事から勉強する気が無くなったのだろう。

真はまだ、やろうと思う気持ちがあったにも関わらず。


「あははっ

其れにしても良かった~。真も普通に恋した事あったんだね。

そう言う話一切聞かないし、クラスじゃ幸希以外と会話した事見た事無いから全然そういうの興味無いかと思っちゃった」


そう言う雪乃は自分の事の様に喜んで答えた。自分がどれほど心配されていたか、少しは自惚れてもいいかもしれない。

しかし、言い方は自分が普通じゃ無い。そんな意味合いにも取れてしまう。


「まあ・・・クラスじゃ四谷以外の男子とは会話しないね、苦手だし。後は蒼間じゃないクラスの子数人とかかな?

そもそも引っ越してからは遥鳴さんか四谷か凪砂としか異性と会話しないもん。あとは教師か店員か・・・」


「なんか・・・それだけ聞くと可哀想な人みたいね」


「そうかもね」


雪乃の憐れむ発言に素直に同意する。

確かに年頃の女の子としては花の無い、勿体無い青春をを送っているのかもしれない。

しかし自分の事ばかり聞かれっぱなしなのは癪なので、似たような問いを投げかける。


「雪乃は?遥鳴さんとは何か進展あった?」


その質問に、雪乃は大袈裟にため息を吐き首を下げた。


「あるわけないでしょ?

あんたが狭間に去った時軽く接点は出来たけど、それだけよ。

あんたの事がなかったら大いに喜んでたんだけどね」


それは、申し訳ない事をしたのか?疑問符を自身に投げ掛けながらも真は質問を続ける。


「雪乃は告白とか考えないの?」


「まぁ、今の段階で告白なんて愚かな事はしないわよ。どっちにしたって丁重に断られるのが目に見えてるわ。身分も違うしね。

ただ、狭間やら暗鬼の事が無くなって色々と落ち着いたらアピールしてアピールして、何れ想いは伝えようとは思ってる。結果はどうであれね」


いい加減彼氏くらい欲しいもの。そう付け加えて。

真以上に年頃の雪乃は色々考えているのだろう。自分の事も蒼間の事も、真にとっても色々と考えて行かなければならないのだ。生き抜くために、だがその為の考えを巡らせても一切解決案が浮かばないのだから真の頭の出来は精々その程度なのだろう。


「にしてもさ、もし遥鳴さんに振られたとして他に人を探すとしてもあの人以外に魅力的な男って存在しないと思うのよね~」


「そんなもん?」


真は首をかしげる。異性をほぼ知らない真にとって比べる相手が少ないので理解に困る発言だ。


「だってさ、遥鳴さんて見た目も素敵だし背も高いし、人格だって問題ないじゃない?一族を統べる器だもの。

蒼間以外の男って何だか幼く感じるのよね。私たちみたいに切羽詰まった人生送ってないでしょ?気楽な感じがして」


それには頷いてしまう。

蒼間に産まれた定めとして幼い頃より訓練を受け、将来も家によっては自分の意思を通せず、更には命の危機をも常に感じてなければいけない。

その分、愚かだと若干見下していた真と関わりのない蒼間のクラスメート達も同年代の子よりかは大人びているのかもしれない。

更に雪乃は続ける。


「かといって自分より弱い一族の人間には興味無いし、そうなると周りには幸希位しか居ないし、だからって幸希はそんな対象じゃないし・・・

狭間の当主さん?も会って見ないと解らないし、それ以前に蟠りが無くならない限り無理な話だし・・・」


雪乃は落胆の表情を見せながら天井を仰ぐ。

いつもより饒舌な雪乃に真は返事が追いつかない。


「あーもういっそ挫折して莉緒姉に顔だけ良い男紹介して貰おうかなー」


仕方なげに嘆く。

そこまでして彼氏が欲しいのだろうか?真には理解しかねる。高校生なのだから、彼氏くらい居ても可笑しく無い年齢なのだが、どうも真にはまだ関心すらなく、まだ早いとさえ感じている。

雪乃は雪乃で焦って居た。

見込みの無い片想いをこのまま続けても良いのだろうか?中学の頃から、女子の会話には恋愛話は付きものだった。その度に相手は言わず片想いだと言うのを述べてやり過ごしていたのだが、流石に高校生にもなってそれは無理があると思う。

真が学校を休んでいる間、咲妃と奈々絵を外した蒼間以外の女子とそう言う話をする位にはなかよくなった。

自分の容姿がある程度整っていると言うのは自意識が高いと言われても思うところはあった。その分、美容には努力を惜しまない。

そのせいか、彼氏が居ないと知らせると、心底驚かれた。

そう言う話をした全ての女子に。

真が話題に上らないのは、真には失礼だがそう思われて居ないのだろう。

だけど雪乃は違うのだ。

居ない方が変なのだ。

そう思われている事もあり、人知れず悩んでいたのだ。


ある程度そんな会話が続いた後に、雪乃はまた違った話題を口にした。


「ねぇ、夏休みになったら皆で旅行にでも行かない?」


「旅行?」


「そう。私達高校生になったんだし出来ない事は無いでしょう?

学生の内に出来る事は楽しまないと。

私温泉行きたいのよね。真は行きたい所ある?」


高校生・・・そう言えば自分はそんな年頃なのだと改めて実感する。色々な所に出かけても可笑しくない年齢だと。

少し考え込む。


「・・・遊園地かな・・・」


「え・・・真行った事無いの?」


嘘。そう言わんばかりの雪乃に頷く。

良く考えたら家族で何処かに行った記憶もないし、昔それなりに仲の良かった友人と遊びに行くのは必ず近くのショッピングモールだった気がする。


「仕方ないよ、近くに遊園地なんてなかったから」


自分で言って納得する。

別に可笑しな話しではない筈だ。


「ふーん。

なら夏休みは4人の女子旅ね。

期間はあるんだから温泉旅館と遊園地に行きましょ。勿論、テストで赤点回避は前提でね」

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