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obsession  作者: 礼央
第二章 狭間
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幸希は一呼吸置くと座ったまま体を伸ばし空を仰いだ。

それに釣られて真も仰ぐ。

季節は6月だと言うのに今年の雨は殆ど降らない。頭上の空は澄み渡った晴れ模様だ。ふぅっと息を吐く。

難しい話しは少し疲れた。


「そう言えば四谷と遥鳴さんは親戚なんだよね?」


「厳密には一族全てが親戚になるんだがな。

遥鳴とは従兄弟の間柄だ。親父の妹が蒼間に嫁いだからな」


「なら、咲妃も遥鳴さんの従妹になるんだ?」


「まあ、血縁上はな」


幸希の言い様に引っ掛かりを覚える。


「血縁上?」


「簡単に言うと階級みたいな感じだな。

蒼間は一族を束ねる家系だからな。特別なんだ。

俺がこうやって遥鳴の近くで普通に接することが出来るのは、柱ってのもあるけど、名家である四谷の長男だからってのが大きいな。咲妃は親父の弟の子供だ。俺が四谷の本家なら咲妃は分家だな。本家と分家じゃ随分と格差がある。だから逢った事はあっても関わった事は殆どないんじゃないか?」


他人事のように話す幸希に成程。と頷く。

前に咲妃が言ってた意味が理解出来た気がした。



「四谷は聞けば色々教えてくれるんだね」


「別に隠す様なものでもないしな」


幸希はぶっきらぼうに答えた。

心なしか、幸希は睡魔と格闘している様に見える。無理もないかもしれない。既に太陽は真上に差し掛かっており、気候も穏やかだ。昨日充分に睡眠を摂った真でさえ心地良い眠気を感じて来る。

ろくに睡眠を摂ってない幸希には応えるだろう。

真はゆっくりと腰を持ち上げると、幸希の腕を持ち上げた。幸希を立ちあがらせようとしているのだが、如何せん体力が無いのか、女子が男子を腕だけで立ちあがらせるのは至難の業のようで、幸希の腕しか上がらない。

幸希は真のしようとする事を察してか、疑問符を浮かべつつ、腰を上げる。


「どうした?」


「保健室行こう」


突拍の無い真の発言に幸希は訝しる。


「どうせ寝てないんだから授業受けても意味無いでしょ?

それなら布団のある保健室で寝た方がいい」



そう言うと、返事も聞かずに幸希の腕を引っ張ったまま歩き出した。







「いや・・・なんて言うか・・・」


「世渡り上手になったんじゃない?」


幸希が言おうとせんことをしれっと代弁する。

先までの流れはこうだ。

2人は保健室に足を運び、養護教員の姿を視界に入れるや否や、こう説明した。

登校すると靴箱で幸希が体調悪そうに座り込んでいた。だから休ませて欲しい。と。

2人とも1月近く休んでいただけあって、疑われる事無くベットを提供してくれた。その養護教員は今は居ない。これをいい事に幸希の隣のベットには真が座っている。


「別にあと15分で昼休みだから少ししたら教室に戻るよ。それより早く寝たら?」


「嗚呼・・・」


居心地が悪そうに幸希は布団に潜る。

しかし相当幸希は疲れが溜まっていたようで、眠りに就くのに時間は掛からなかった。





昼休みに教室に戻った真は雪乃に散々と説教され、放課後まで陰鬱な気持ちで過ごした。

幸希も放課後まで十分に睡眠を摂っていたようで、教室に戻った時には先程よりかしっかりとした、晴れやかな表情になっていた。

軽く会話を済ませると、明日からまた通学する旨を伝え、幸希は足早に学校から去って行った。咲妃と奈々絵もまた、用事があるとの事で学校を去り、残された真は雪乃に付き合わされる事になった。

向かった先はショッピングモール。

雪乃曰く、ノートを貸した分、買い物に付き合えとの事。予定も無かったので、真は文句なく付き合う事にした。


久々の雪乃との買い物は、雪乃がお洒落と言うのか金遣いが荒いと言うか、服の購入する量と金額が真に比べて半端なく違った。

放課後からの短時間であっという間に大きな袋を下げた雪乃に改めて感心しながらも何も言う事無く歩き進む。


「これから何処にいくの?」


「うーん。欲しい物は手に入れたし、ご飯でも食べない?真食べたい物でもある?」


「特にないかな。

この辺のご飯所は一切知らないから任せるよ」


そう、雪乃の隣を歩きながら会話していると、雪乃の脚が止まった。


「莉緒姉‼」


そう、名を呼び駆けた。

莉緒姉と呼ばれた人物は振り向き、雪乃を確認すると驚きの表情を浮かべていた。


「雪乃じゃん。久しぶりだね。どうしたの?」


「偶然だね。丁度買い物してたの。元気だった?」


雪乃とは親しい友人なのだろう。

滅多に見た事が無い様な嬉々の表情を浮かべている。

2人の弾む会話を他所に、真は莉緒と言う人物を眺めていた。

とても派手な、真が、最も苦手とする雰囲気を持っているが、清潔感もありとてもスタイルの良い、可愛い顔をしている。

雪乃の話が一段落するまで何処かで座ってでもいようかとしていた所で雪乃は此方を振りむいた。


「ごめん真。ついつい話し込んじゃって・・・取敢えず紹介しとくね。

私の従姉の御先莉緒みさきりお


従姉・・・と言うことはやはり蒼間か。

内心で溜息を吐きながらも顔には出さず軽く会釈する。


「で莉緒姉。こっちが友達の相模真」



「嗚呼・・・例の・・・」


てっきり、怪訝な表情でも見せるものと思っていたが、莉緒は関心なさげに答えた。


「噂では軽く聞いてたけど、あんた仲良かったのね」


「そうなの。色々あって仲良くなったの。

私を一度打ち負かしたことだってあるんだからびっくりよ」


自慢げに喋る雪乃だが、正直辞めて欲しい。

あまり関わりの無い人に自分の事を知られるのは好きではないのだが・・・。


「真、莉緒姉はモデルやってんだよ。

んで、四柱の一人なの」


「へぇ・・・」


真自身、芸能などに一切疎いので、芸能人と言われても分からない。ただ単純に凄いと思う。モデルとか、違う世界の人間だと思っていたのだが、こう目の前で拝めるなんて・・・。小さな感動を覚える。

更には四柱・・・。

天命を受け、力が強い者が持つと言う称号らしいが、幸希がいるせいか、なにぶん実感が沸かない。

莉緒と視線を交えていたのだが、莉緒は大袈裟かと言えるほど肩を落とした。


「私あんまり関わりたくないのよね。役職がてら無理だろうけど」


そう言うと軽く別れを告げ、莉緒は去って行った。何と言うか、読めない人である。


「莉緒姉すっごくさっぱりしてる人だから、変に捉えたらごめんね」


「あの人も学生?」


制服を着てたから、年は変わらないはずだ。


「一個上かな。確か」


「悪意を向けられ無かった事に驚きかな」


「良かったじゃない。

私莉緒姉は敵にしたくないもん。

気が強いから変に敵を作っちゃう様な人ではあるけど・・・」


その点では、真に似ているかもしれない。

真の方は、望んでないにせよ、知らぬ間に敵を多く作ってしまっている。

こうも早く、幸希以外の柱と顔見知ってしまったのは、蒼間と言う世界が、狭いせいだろうか。





雨の臭いが鼻腔を擽る。

漸く梅雨らしく雨が降り出して来たと、気象予報士はテレビ越しに語っていたが、真にとっては心底鬱陶しいものでしかない。

湿気で髪の毛は纏まらないし、足元もどれだけ注意しようと濡れる。安物のビニール傘を使ってはいるが、視界は悪いし、片手が塞がる。

憂鬱だ。

雨の日はどうしても感傷に浸ってしまう。

最近授業で習った地獄変のサンチマンタリスムとはこんなものかもしれない。1度濡れた足は、靴下と、靴に水分をしっかりと染み込ませており、これ以上濡れても不快なものに越したことはないので、水たまりをも気にせず歩く。

向かうのは本屋。

何故こんな雨の日に、と自問するが、何となく本が読みたい衝動に駆られてしまったのだ。傘をたたみ、店内へ入る。

ビル全体が書店として展開されているこの店は、広く、品ぞろえも多いので好きだ。

ぐっしゃりと濡れた不快な足の感覚と闘いながらも目的の階へ進もうとしたが、レジの前に大量に積まれた月間の雑誌に目が行ってしまった。


―――――――あれ?


ティーンズ物の、絶対に真が購入しないであろうファッション雑誌の目の前で、真の足は止まってしまった。

でかでかと表紙を飾った女の子。

これはもしかして・・・


「御先、莉緒?」


つい数日前に、出会った雪乃の従姉じゃないだろうか?雑誌越しにほほ笑む莉緒を眺めながら、そう言えばモデルをしてると言うのを雪乃が話していた気がする。

モデルと言えどピンからキリまで存在するが、雑誌の表紙を飾ると言う事はだいぶん凄い方なのではなかろうか。

蒼間とは無関係なクラスメートの女子に名前を聞いたら知っているのだろうか。

そんな事を、雑誌の前で立ち尽くしたまま表紙の莉緒を眺めていた。



「そんなに気になるなら買えば?」


「っ!!!!」


そう、横手から声を掛けられた。

雑誌の方に集中していたため、近付いて来た気配にも気が付かなかった真の心臓は飛びあがり、もう少しで声を出してしまう程であった。

胸を手で押さえ、心を落ち着かせながら振り向くと、眺めていた雑誌と同じ顔。

莉緒が、怪訝そうに立っていた。



「・・・莉緒・・・さん?」


「あんたこの間雪乃と一緒に居た子でしょ?

何してるの?

傍から見たらだいぶ怪しい人なんだけど」


頭には疑問符しか出てこない。


「いや、あの・・・どうして此処に?」


「本を買いに来ただけよ。

そしたら見た顔が私の雑誌を真剣に眺めてるんだもの。声も掛けたくなるわ」


呆れた物言いの莉緒に、顔が火照ってくるのを感じた。恥ずかしいことこの上ない。


「えっと、すいません・・・。

あの、たまたま雑誌が目に入って、気になっちゃって・・・」


しどろもどろになりながらも雑誌と本物を見比べてしまう。顔が小さいなぁ。そんな事を思いながら。

何処に行く訳でもない莉緒に早く何処かへ行ってはくれないか。と願いながらもその様子の無い莉緒に為す術も無くただただ戸惑ってしまう。


「・・・雪乃に訊いたのだけど、暗鬼に狙われてるって本当?」


「え・・・」


知らなかったのか?仮にも柱である人物が。

そう思ったが、口には出せなかった。


「私あまり関わりたくなかったから、蒼間との連絡絶ってたのよ。

何だか最近そうも言ってられないみたいだから仕方無く情報だけでも知っておこうと思って」


「莉緒・・・さんは、私を疎ましく思わないんですか?」


この人と話すのは色々と怖いが、それでも訊かずにはいられない。


「私は馬鹿な身内の所為で遥鳴には借りがあるからね。思う所があっても遥鳴には逆らわないわ。雪乃の事もあるしね」


「・・・」


馬鹿な身内と言うのは、雪乃を利用して遥鳴の暗殺を企てた人物達の事だろう。

他人事の様に話している莉緒だが、やはり蒼間と言うのもあってそれなりの境遇を受けてきたのだろう。


「まぁそういう事。私はあまり表舞台には立ちたくないのだけど、必要とあればそれなりの仕事はするつもり」



気を付けて。そう言って、莉緒は別れを告げた。


莉緒が去った後、緊張していた所為か、どっと疲れが押し寄せて来た。

やはり人と会話するのは苦手だ。

幸希の他に四柱である人物に悪意を向けられなかったのは心底有難いと思う。


だが、心強いと思う反面蒼間や、狭間の人物に一人、また一人と出会って行くうちにもう後戻りはできないのだと思い知らされる。

そして、言葉では表せ様の無い何とも言えない不安が、少しずつ、真を蝕んでいた。

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