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obsession  作者: 礼央
第二章 狭間
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一日が経ち、軽い検査をした後、真は自宅へ帰った。那穂の家では無く、蒼間のアパートへ。

彼女の負担を考えればやはり身を引くしかないのだ。戻るのは辛いが那穂に迷惑をかけるのは更に辛い。

久々のアパートは半年も住んでいるだけあって多少の安心感と懐かしさを生みだしてくれる。4月には止められてしまっていた電気もガスも水道も全て問題なく使えるようになっていた。

この家にいる限り、暗鬼には襲われない――――。

脳裏に過る遥鳴の台詞。

考えない様にしても身体が恐怖を植え付けてしまっている。

仕方のない事なのかもしれない。

それを覚悟で今ここに要るのだから。

受け入れなければ・・・・。




翌日、真は昼過ぎ頃に家を出た。

人に会う為。休日なだけあって人が多く何時もの如く人に酔うが、なんとか待ち合わせのファミレスに着いた。

早めの時間に来た筈だったのだが、真より先に相手が揃い、既に談笑を始めていた。


「久しぶり」


「あら。やっと来た。久しぶり」


まだ時間前なのだが。嫌みを含めた台詞に少しばかり顔が綻ぶ。テーブルに座っていた人物は雪乃、咲妃、奈々絵。

雪乃は連日メールか電話で連絡を取ってはいるのだが、こうやって顔を会わせるのは一月ぶりに近い。


「変わってなくて安心した」


「あんたは痩せたね」


「前よりは戻ったんだよ」


席につくなり始まる会話。

咲妃と奈々絵は以前と変わらず隔たりなく接してくれる。

始めのうちは学校の話題。真には耳の痛い授業。クラス。行事の話になり、どうでも良いような世間話になり、そして最後は真自身の話。

雪乃と事前に相談していたこともあり、咲妃と奈々絵には今迄の経緯を全て話した。

暗鬼の事も、狭間達の事も。

一通り話し終えた真は注文していたジュースで喉を潤し、二人の様子を眺めていた。

雪乃も黙って二人の発言を待っていた。

二人は真をまじまじと深刻な、信じられないと言った面持ちで見つめていた。


「・・・ありえない・・・」


絞り出した様に発せられた言葉。


「・・・そんな事があってたなんて・・・」


二人とも、当初雪乃にも話した時と似たような反応。


「そんなに凄いことなの?」


「凄いって事じゃないよ!!!

人生で暗鬼に何度も会う所か生き延びてんのよ?前例が無いわ!!!

暗鬼なんてうちらの間じゃ噂にしか過ぎない伝説の粋。暗鬼の報告件数は確かにあるけど年に数件。出くわした人は殆ど死んでんのよ?

更に?こっちが血眼で探してる一族敵である狭間の?しかも当主に会って。争う事なく手ぇ組んだ?

何か次元が違いすぎて私等下っ腹にはついて行けない話だわ」


そう言って頭を抱え込む咲妃に俯く奈々絵。


「・・・でもさ。

それなら尚更真ちゃんの身を守らなきゃいけないよ。その・・・力の根源を知るためにも。

それで、蒼間と狭間が手を組んで双家の蟠りが少しでも溶けてくれると嬉しい・・・」


ポツリと控えめに言う奈々絵に雪乃ははっとする。


「・・・そうか。奈々絵の父親は狭間との抗争で亡くなったんだっけ?」


「抗争とかあったの?」


「知らなかった?蒼間と狭間の抗争は戦後から数年前まで酷かったのよ。

とは言ってもお互いに素性は知らない。どこの誰が蒼間か~何て解らないの。大体はね。でも稀に波長が合うって言うのかな?よく知らないけど分かっちゃうらしいの。この人が蒼間だ狭間だって。

そうなれば生かしておく訳にはいかない。逃せば自分達が危ない。

そこで抗争が始まる」


「最後にあった大きな争いが十数年前。

私のお父さんもそれで亡くなったの。まだ私が小さかったからお父さんの記憶もあやふやで何ともいえないけど」


奈々絵の発言に悲しみの色は見えない。本当に幼い頃だった為父親と言うものが解らないのだろう。悲しさが無い分皮肉なものである。

奈々絵の回りにもそう言った親が居ない知人も少なくない。

皆、蒼間である為に死んだのだ。



「でも・・・何かおかしくない?」



何が?と蒼間の3人は首を傾げる。


「もしそれで相手を殺して、自分が生き残って・・・相手の身元とか知らないの?調べようと思えば簡単に可能なんじゃない?」



言われればそうかもしれない。


「それは・・・詳しくは解らないけど、危ない橋を渡らない為じゃない?

これ以上の干渉は良くない。そう、隠密辺りが判断してると思う。お互いにね。隠密は基本、外の者には関わらない。つい深く関われば危ないのは目に見えているもの。

自分だけじゃなく、組織全体にも」


咲妃の言葉に一同は納得する。

争っている割に詳しくは詮索しない。矛盾もしているが、考えられなくは無い。組織がどの様なものなのか、詳しくは解らない、しかし、そのトップが真とたいして年の変わらない少年と言う事自体異様なのだ。


「それで。真はこれからどうするの?」


「一応、あのアパートに戻って来週から学校には通うつもり。まだそれだけかな」


そう肩をすくめる。

学校に戻る。そうなると真にはやらなければならない事がある。気に病むべきは彼の事である。

真の考えを察してか、雪乃は彼の話題を口にする。


「幸希はね、あの日以来一度も学校には来てないの」


あの日。とは真が狭間へと渡った日だ。遥鳴以上に、幸希には謝らなければならない。

八つ当たりを含め、1番傷つけてしまったのは確かなのだから。


「もう・・・学校には来ないのかな・・・」


出来る事なら謝りたい。幸希が学校に来ないのに、自分なんかが通ってもいいものか。

罪悪感からか、胸が痛い。


「真がまた学校に通うのは知ってるとは思うから、私らが改めて伝えておくよ。幸希も来るようにって」


咲妃の言葉に小さく頷く。


「私少し前に幸希に会ったんだけど、今実家にいるんでしょ?」


実家といえば、真の以前両親と住んでいた地元になる。


「本家の事は私は知らない。

けど蒼間についで2.3に地位のある名家の長男だもの。

まだ伯父さんから継いで無いとはいえ、こんな状態だし、真の事もあるからそれなりに忙しいと思う」


憶測でしか無いのだが、きっと間違いでは無い。幼少の頃から咲妃は其れなりに見てきたのだから。

咲妃の答えに雪乃は小さく溜息を吐く。


「一族の下っ端は下っ端で大変だと思ってたけど・・・改めて聞くと中枢の方が比べものにならない位大変ね。

私達は家に縛られる事なく其れなりに不自由なく学校へ通えるんだもの。幸せな方だわ」


そう、肘をついたまま空になったグラスの氷をストローでつつく。

それには咲妃も奈々絵も同調する。


「本当。幸希には申し訳無いけど、本家の人間じゃなくて心の底から良かったって思えるわ・・・」


そんな三人を眺めながら、真は自分とは生きた世界が全く違うと改めて感じる。暗鬼の件が無ければ、真はただの虐めにあっていた女子学生に過ぎなかったのだから。

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