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obsession  作者: 礼央
第一章 変わる世界
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19/45

3


堂々と学校をサボったのは初めてで、日の高い時間帯を制服で街を闊歩するのは新鮮だった。

意外にも都心部には2人の他に学生が数多く集まっていたのにも驚くが、雪乃に付き合わされた買い物にも度肝を抜かされる事になった。

彼女が平気で入って行ったショップにはブランド物や流行り物が立ち並び、それこそモールなどで済ませていた真の洋服の価格を遥かに超えた商品を、物怖じすることなく購入しているのだ。


「・・・0が・・・1つ多い・・・」


太陽が昼を告げる頃には2人は買い物を済ませ、近くのファーストフード店で空腹を満たしに来ている。


「何言ってんのよ!!半額であの値段よっ安いものじゃない」


今の時期、年始のセールで買い時であるために、雪乃は今朝のストレス解消を兼ねて浪費していた。真にも勧めたりはしたのだが、真は値段を理由に一切購入しない所か、店にすら入ろうとしなかったのだ。呆れるどころか雪乃はそれを楽しんでいたのだが、見てとれる疲労感を哀れみ、せめて昼食こそはと手頃で有名なフード店にいる。まだ物欲が満たされていない雪乃ではあったが、店を諦めて今に至る。


「どんだけ田舎に住んでる訳?店に入れないとか、素晴らしく面白い物を見せて貰ったわよ」


「・・・服はいつも親が適当に買って来たの着てたから自分で買った事が殆どないだけ。田舎なのは否定しないけど・・・あんなに高いなんて・・・」


「は!!!?自分で服買った事ないの?下着も?!そりゃ驚きだわ!!

じゃあ好みとか全然じゃん。今度ちょっと安い店連れてってあげるから服買いなよ!」


田舎者は自分で服を買わない。

そんな間違えた偏見が雪乃に植え付けられてしまっている。

この調子では真の実家から徒歩30分以内の管轄に駅やモール、映画館やゲームセンター。考えられる店は全て揃っていると言った所で都心に住んでいる雪乃からすればそれでも田舎者と一蹴されるであろう。弁解などしない。



―――――違和感を感じた。


何故、啀み合っていた筈の雪乃と平然と会話しているのか。今までは、全ての者に置いて、自ら身を引き、一定以上の距離を置き、干渉されず、侵入を許さず、壁を作っていた筈だ。

遥鳴にも、幸希にも。

それはいくら気丈に振る舞っても傷つくのが怖いから。

一度砕けた心は儚く脆い。それを守る為の壁。

その壁が、雪乃を前にして薄れている。

悪意無く接する雪乃に壁が保てない。

雪乃を信じている訳じゃない。

真はまだ孤独に成りきっていない。

心のどこかで、意志に反して友達を求めているのだ。


一度孕んだ違和感は、簡単には拭いさることが出来ない。

自分の弱さが腹ただしい。


「大丈夫?」


俯き、顔色を落とした真は雪乃の声で我に帰る。幸いな事に雪乃は疲労による所為だと思っている。問題無いと言うが、付き合わせ過ぎたと若干の反省を雪乃は見せる。


「じゃあここらでお開きにしようか。

私どっちにしろ他に用事があるから先に帰らせて貰うねっ。じゃね。」


明日は学校に来るようにと言い残して、雪乃は一方的に去って行った。



――――学校に来い・・・か・・・。



明日も雪乃は今日のように接してくるだろうか。明日は大丈夫でも、きっと何時かはクラスの子と仲直りでもして何時ものクラスに戻るだろう。

そうなればまた独り。

前の学校でも一時期あった。

クラスの中心的メンバーと喧嘩した子が、居場所を無くして真に寄った。

だが三日後にはよりを戻して真には見向きもしなくなったのだ。


それと同じ。

だけど、今日雪乃と居たのは楽しかった。

久々に語る事をしたし、本当の意味で遊んだ。

それには雪乃に感謝している。

どちらにせよ、希望が無いのだから、それまでの間、楽しめれば良い。

元から期待をしなければもし裏切られても苦痛は少ない。

気持ちを切り替えたら心が軽くなった。


そして真ゆっくりと席を立ち、家路に向かった。






翌日の学校。

教室の空気は全体的に淀んでいた。

特に、蒼間の者。昨日の一件の所為か、登校した真にクラス全体の視線が集中し、一時的にざわついていた空気が凍結したかに思われたが、直ぐに視線は散布し、蒼間の空間だけが居辛さを醸し出していた。

勿論そんな光景には慣れきっているので気にはしない。

男子の中では顔に痣を作っているものも見受けられた。きっと両親に殴られたりしたのだろう。自業自得。同情などはしない。

不思議な事に、蒼間と見受けられないクラスメート達はいつもと何ら変わりない。平然としている様子から、きっと蒼間方が何らか手を掛けたのだろう。

視線を受け流しつつ席に着くと珍しく幸希が登校していて、机に伏せっていた。眠っているものと思っていた幸希は真の席に着く物音に気付き、ムクリと起き上がると一言挨拶を交わし、再び伏せる。

後ろを振り向くと、丁度、幸希と真の間辺り、床に昨日の痕跡がはっきりと残されている。


「・・・・蒼間・・・」


誰にも聞き取れない程の小さな声で囁いた時。



バンッッ


後頭部を衝撃が襲う。何事かと痛みをこらえて振り返る。



「おはよー」


すると後ろには雪乃が笑顔で立っていた。

響き渡る頭の痛みを片手で押さえている真。


「アラッ。痛かった?ごめーん。」


悪びれた様子も無く雪乃は自分の席に座るなり話題を持ちかける。


「昨日服買ったから要らない服が増えたの。

処分するつもりだから、真欲しかったらあげようか?」


「好みに合えば・・・貰える物なら有り難く頂く。」


そのやり取りにはクラスの注目を浴びていた。幸希もいつの間にか起き上がっており、その光景を眺めている。


「お前等いつの間にか仲良くなった訳?」


「昨日よっ。文句ある?」


「誰も悪いとは言ってねぇよ。お互いこの間あんな事やってんのに・・・

仲良いのに越した事ねーけどさ、女ってやっぱ訳わかんねー。」


「乙女心は複雑なのよ。」






長い授業が昼の休みに入り、真、雪乃、そして幸希の3人は昼食を取りに屋上にいる。


「へぇー。屋上って穴場なんだね。

寒いと思ってたから来なかったけど、意外に温かい、人も居ないし。

あんたら何時も此処で食べてたんだ。」


「好きで一緒に居るわけじゃないんだけどね。」


その棘のある一言に幸希は軽く溜め息をつく。


「元々は俺が教えてやった場所だろーが。」


「だから嫌とは言ってないでしょ。」


幸希に対して悪態を付く真の様子を雪乃は微笑ましく見つめる。

その怪しげな視線に気付いた真は訝しげに眉を潜めるが、ある事を思い出す。


「飲み物忘れてたから買って来るよ。」


そう言うと食べかけていたパンをしまい、ドアへと消えた。

2人は真が出て行くのを見つめ、そのまま暫く沈黙した後、雪乃が口を開いた。



「昨日のどーなった?」


軽い口調。景色を眺めながら我関せずといった感じだが、それに幸希は呆れてしまう。


「どーなった?じゃねぇよ。大変だったんだぞ。

情報入ったのが昼過ぎで、何か噂になってたら困るんで学校中の生徒集めて処理させて。問題起こした人数が人数だから処分も出来ない。

その所為でジジイ達の耳に入り遥鳴が呼び出し喰らった。」


「げっ。まじで?」


思っていた以上に事態は深刻な物だったらしい。

遥鳴が呼ばれた・・・雪乃はクラスの連中を出来るものなら今すぐにでも抹殺してやりたい。軽く腸が煮えたぎる強い念に駆られる。


「相模が関してるからな。

・・・お前、アイツの事何処まで知ってんだ?」


「暗鬼に狙われてる。って位。

本気で狭間の奴と思ってたけど、あの子は自分の正体を一番知りたがってるっぽいね。

幸希も遥鳴さん手伝ったりで忙しいでしょ。

安心して。もう真を敵だとか思ってないし、これからは私が守ってあげるよ。

また何されるかわかんないしね。」


「そりゃー心強いわ。」


昨日のうちに2人の間に何が遭ったのかは判らないが、一番厄介だと思っていた雪乃が味方に付いた事は何とも有り難いものである。

クラスでの蒼間の連中が真を完全に敵視した事により、暗鬼以外での危険が増えるものとなる。

幸希1人では手に負えない状況にまで来てしまっているのだ。

そうこうしているうちに真は手に飲み物を持って戻って来た為に、その会話は無いものとされた。

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