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「ん~。まぁ折角だからお互いを知る為に一方的だけど、私の生い立ちでも語ろうかしら?」
「・・・は?」
急に変わった話題に着いて行けないと感じつつも話し始めた雪乃にとりあえず耳を傾ける。
雪乃の父と母は蒼間の、直系である遥鳴から血の繋がりも全くないような、遥かに遠い一族の家系である。そうなれば一族内でも立場は弱く、恋愛婚だった両親は2人して産まれて来る子を心底待ちわびた。そして産まれて来たのが雪乃。
一族としての立場は弱いが優秀だった雪乃の両親。そのため力ある強い子が産まれて来ると思われた。
しかし期待は裏切られ、物心つき始めた5歳になっても普通の子と変わらない雪乃。どれだけ厳しく鍛えても一向に力の兆しを見せない。
いつの間にか両親の愛情が薄れ、蒼間の孤児院に預けられた。
雪乃は、捨てられたのだ。
鍛え上げられたのは体力だけでなく、精神面も磨かれていた雪乃は両親に捨てられた事を理解していた。二度と迎えに来ない。判っていても願いはあった。
強くなれば、いつかは迎えに来てくれると。その気持ちで自分を鍛えた。
幼いながら遊ぶこともせず。
そんな生活を続け、12になるころには雪乃の実力が本家の方まで知れ渡っていた。
もう一度両親と暮らしたい。
そんな一心で手に入れた力だが、この年にもなると自分を捨てた親に嫌悪と憎悪があった。会いたい。などと思う気持ちは完全に消失していた。
しかし雪乃の噂を聞きつけた両親は、何の前触れも無く引き取りに来たのだった。
「んでとりあえずは一緒に生活してたんだけどね。
直ぐに出て行った訳、色々あったからね。それからは私一人暮らしなのよ。
真は?一人暮らし何でしょう?幸希と元中同じって聞いたから。」
真は頷く。
「あんたも大人ね。私は生活費親に出して貰っているけど真はどうやってるの?親?」
「多分、でも良くわからない。親かもしれないけど連絡取れないし」
「まぁそうだろうね。たとえ親だろうと一族外に言えるものじゃないわ。
何で真は蒼間として今いるわけ?経緯が知りたい、絶対に皆知りたがってる。」
急に真面目な顔になった雪乃。それに真は視線を落とす。
この経緯については遥鳴から固く口止めされているからだ。
「口止めされるよね。当たり前の事だもん。
実際私達一族の者でも知らない事多い。
でも知りたいしー、私にも知る権利はあると思うのよね。」
真へと勝負を持ち掛けて、一撃を与えたら勝ちとの条件で見事鳩尾を突かれた。それにより我を忘れかけたが制され、勝負は付いた。真が意識を失った後、雪乃は吐血した上雪乃までもが追う様にして意識を無くした。
そのまま病院に運ばれて2日間眠ったままだったのだ。
それ程、雪乃に喰らったダメージは酷いものだった。
今、こうしている時も腹部の痛みは波打って襲って来ている。
真を怖い。と感じる反面、その力が何なのかとても知りたかった。野次馬と言われようとも。
「・・・じゃあ交換条件ってのはどう?
今から話す事は誰も知らない。あんたが誰かに話して蒼間の者にでもバレたら即殺される話よ」
「・・・何でそんな話を・・・」
「隠し事ってのは隠し続けてると苦痛なものなの。
1人でも分かち合える者がいれば苦しみは半減するでしょ?」
そう微笑みかける雪乃、それは経験談だった。
真は瞬時に判断する。雪乃は嘘が付けない性格なのだと。
一息つくとまた口を開き始めた。
「さっきの話で親が迎えに来たって言ったでしょ?
自分を一度捨てた親なのに、結局は私戻って、一緒に住み始めたの。
でも年頃の子供がいる理想の家庭とは程遠くて、会話なんてまるでなし。
コミュニケーションなんて言えば厳しい稽古くらい。
その頃、私の噂を聞いた遥鳴さんが会いに来たの。初めて会話したんだけど。
子供を兵器みたいに育て上げてる蒼間の当主なんて許せなかったの。
まともな会話もしないで別れの時が来たんだけどその時遥鳴さんが謝って来たの。
『巻き込んでごめんね』って。
凄い悲しそうな笑顔で。
この人から蒼間を変えられるかも知れないって思ったの。
現に真の例があるし。それ以来か、兄弟も居なかったし、凄い懐いちゃって。
・・・でもね。まだ知らなかったんだよ。両親が私を連れ戻した訳がさ」
「・・・何かあったの?」
雪乃はこれ以上を口にするのが辛そうに思えた。自分なんかが秘匿している事を聞く価値があるのだろうか。
そんな真の思いとは裏腹に自嘲ぎみで明るい声で続けてきた。表情は刹那さを帯びたまま。
「両親と、会ったこともない親族に呼び出されてね。命令されたの。
――当主を殺せ――と。
驚くでしょ?でも蒼間では有り得る事なの。遥鳴さんみたいな若い当主を気に入らない一族は多い。その中の一部が私の親。
反発勢力はどんな時にも存在するの」
困惑を隠せないまま、決断も出来ずにその日がやって来てしまった。遥鳴に会える日は限られている。一派はその日を逃す訳にはいかないのだ。
指導を受けて、他愛のない話をして。
何度かは決意したが、遥鳴に接する度、心は揺らぐ。
人を殺める行為など経験した事も無い。その恐怖が雪乃を更に苦しめる。だが、当時の雪乃は親に洗脳されるに近かった。人殺しを命じられても実の親。殺せずに見捨てられることを愛情も知らない雪乃は何処か何よりも恐れていた。
・・・そして、懐に隠し持っていた小刀を取り出し、雪乃に背を向けている遥鳴へと駆けた。
遥鳴は全ての『蒼間』の頂点に立つ当主。
雪乃よりも遥かに強い。
そう。雪乃がどんなに全力を出しても彼には敵う訳が無い。
・・・・・ならば・・・・・
自分が殺されればいい。
それが雪乃の出した答え。
渾身の力を込めて刀を心臓に向けて遥鳴へと突き刺す。
が。刃が皮膚を突く寸前で動きを止めた。
遥鳴が一寸たりとも動じなかったから。
こちらを振り向きもしない遥鳴に雪乃は戸惑う。
静寂の時が流れ、漸く遥鳴が口を開いた。
「どうして 刺さないの」と。
「遥鳴さんはねぇ。知ってたんだよ。私の両親等が反発派って事も。
そしてね、きっと死を望んでる。・・・わかるでしょ?
あんたなら・・・遥鳴さんが何時も向けている笑顔は本当の笑顔じゃない。」
それに真は静かに頷く、あの人の笑顔は何処か悲しい。
「きっと終わらせたいんじゃないかな。この『蒼間』の歴史・・・・。
あれからね、遥鳴さんは私を助けてくれた。命を狙ったと知れればそれは蒼間なりの処刑を受ける。
だけど遥鳴さんはどこにも報告せずに無かった事にしてくれている。
ただ、両親と親族は私の事を考えて海外に飛ばしてる暗殺に失敗してるからね。
それからまた施設で生活して、高校入学を機にアパートで一人暮らしを始めたの。
それ以来ね、私遥鳴さんに付いて行こうと思ったの、命を一度助けられたんだもん。既に死んでるも当然。それならこの命。遥鳴さんに捧げたい。」
その瞳には決意は見え、表情は何とも朗らかで、幸せそうで・・・きっと雪乃は遥鳴の事が
「・・・・好きなんだ・・・」
思わず漏れてしまった言葉。
雪乃は頬を赤らめながらも小さく頷いた。
その感情が羨ましいと思った。
その表情がとても美しく見えた。
その笑顔は本物で。
恋は人を綺麗にすると言うのは本当なのかもしれない。
・・・ならば。
真にもそんな顔した日があったのかもしれない。幸希に思いを寄せていたあの頃は、本物の笑顔を向ける事が出来ていたのだろうか。
「遥鳴さんって強い上に美形!!しかも優しいし、何たって当主!!!嫁いだとなりゃあ蒼間の全権を手中に出来る上に玉の輿じゃん?
だからライバル本当に多いのよ。
縁談は数知れず下は5から上は50まで!!」
「・・・・」
自慢げに言う雪乃だが、それには流石に引いてしまう。
「だからさっ、もっと強くなりたいの。
本当に支えられるような。力になりたい。
今のままじゃ遥鳴さんは私を見てもくれないの。
私は四柱になって遥鳴さんの隣で支えたい。」
「四柱?」
初めて聞く言葉に首を傾げる。
「幸希から聞かなかった?
四柱って言うのは当主を支える4人の柱。
限られた力と当主に並ぶ優れた能力を持った人物。
当主の絶対的な信頼の下でいられるの。
今は4人しか居ない。憧れを込めて四天王とか言う人もいるわ。
私はそれになりたいんだけど。
四柱になるには1つだけ、絶対的な条件があるらしいの」
「・・・どんな?」
「それが判らないの。これくらいなら出来るんだけど。」
そう言うなり、雪乃は真の頬に触れてきた。
触れた部分は、先程生徒に切られた箇所。
この冷え込んだ空気で血は乾ききり、寒さで麻痺した部位は完全に痛みを無くしていた。傷口に触れた雪乃の手も、寒さによって体温と言うものが感じ取れない程に冷たく、傷口を隠すように優しく覆う。
ふわり感じる違和感。
じわじわとその手が温もりを発し、真へとそれを与える。
雪乃はそっと手を離す。何があったのか理解できずに自らの頬に触れてみると、ぱっくりと皮膚を裂いた傷が無くなっていた。
残っているのは乾燥して肌にこびり着いた血の感触のみ。
それには驚きを隠せない。
「治癒法よ」
真のリアクションを見ながら誇った様な優越感を見せる雪乃。
「治癒法は使える者は殆どいないの。
私はこんな軽い傷しか出来ないけど、それでも再生能力を使える者は周りにもいない。稀に使える大人は大体が医者だけど、私程度の再生法しか持たない。条件はそれじゃあないの。
幸希に訊いた事もあるんだけど、口止めされてるみたいでだし。」
「・・・何で四谷が・・・?」
それには雪乃も軽く眼を見開く。
「あんた本当に知らないのねぇ。幸希も四柱なのよ。
まぁ訊いてないから答えてないだけだと思うけどね。自分から僕強いでーす。なんて事は言わないだろうしね。」
その言葉に、真は胸が締め付けられた。
何故だか判らない。確かに、幸希は解らないことは答えてくれた。
だが・・・前々から感じていた[何か]が疼いている。
「でもー。結構屈辱的なのよね、あの幸希が自分よりも上の存在なんて。
なんてゆーか・・・腹立つ?」
「それはわかる。」
湧き出るような吐き気にも襲われたが、雪乃に同調する。
あまり実感はないが、微かな屈辱感はある。
雪乃とは、考え方が似ているのかもしれない。
気が付けば朝礼の時間はとっくに過ぎていた。
「なーんか時間が経つのは早いのねぇ。
もう朝礼過ぎてる。」
ずっと同じ体勢でいたためか、雪乃は大きく体を伸ばす。そして暫く時計を眺めている。何をする訳でも無く、真も雪乃を眺めていると。ちょっとまっててと言って雪乃はすくっと立ち上がり、教室から出て行った。
1分もしないうちに彼女は戻って来、両手には雪乃の物と思える鞄と、真の鞄を持っていた。
「何で鞄を?」
「これからさぼって遊びいかない?」
「はっ?」
あっさりと答える雪乃に思考がついていかない。今まで仮病やらで学校を休んだ事はあるが、一度登校して帰った事は全くない。
軽々しく口にしていることから常連であるのが伺える。
「でも、授業は・・・・」
「そんな堅い事言わないの!
どうせ朝礼サボったんだし、まだいっぱい話したい。
それに、あんな事あって顔なんか見たくないっての」
雪乃の言い分は最もである。
確かに今教室に戻っては居辛い上に気が重い。
「大丈夫よ!!!
私のプライドと、乙女の肌を傷付けたあいつ等にはそれ相応の天誅ってものを喰らわせてやるんだから。ほらっ早く!!!」
そう言うなり、真の返事も聞かずに雪乃は真の腕を引っ張り、半ば強制的に学校を後にした。




