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obsession  作者: 礼央
第一章 変わる世界
17/45

友とは





全身を突き抜けるような痛みに襲われ目を覚ます。

そこは一面闇に覆われていたが、目を慣らす事によって自分の部屋だと言う事は理解出来た。真はベッドの上に眠っていたのだ。

痛みに軋む体に鞭を打って体を起こし、部屋の電気を付け、一息ついて何があったのかと記憶を巡らす。

たしか、雪乃と勝負を強いられていた筈だ。

本気で殺されそうになった。


――――そして―――


真の身体は血の気を失った。

雪乃を突き飛ばしたのだ。

何時の間にか――――。

実感はないが、自分がやったのかと思うと怖さを感じる。

あれから意識を失った。

真は制服のまま、誰かに運ばれたのだろう。検討は付く。

テーブルの上に何か乗っているのに気付く。

―――ペットボトルと、袋。

詳しく確認して見ると病院で貰えるような内服薬の袋。中身を取り出すと錠剤が入っていた。


カサッとした音で足元に二つ折りの紙をも見つける。

[鎮静剤。痛みが酷い時に飲むといい]と、それだけ手書きで書かれていた。きっとそれは遥鳴が書いた物だろう。小さいが丁寧に書かれた文字。

ただその文字を眺めていると、今現在の時刻が気になり、時計を眺めた。時計の針は9時を指していた。

意識を失って2、3時間くらいだろう大して時は過ぎていない事に安堵し、テレビを付ける。

今日は週末の金曜日であって、何となく観たいと思っていた番組があるのだ。

近くに置いてあるリモコンのボタンを点けるのだが違和感を感じた。チャンネルを変えてみるが、金曜日にしては番組が違う。


携帯も新聞もない真にとって日にちを確認する手段はテレビしかない。

そう、今は土曜日。丸一日真は意識を失っていたのだ。


日曜は常に寝ていた。

鎮静剤の効き目は凄いもので、体中の痛みは完全にひいていたが、副作用が酷い。薬が強いぶん、真には相性が悪かったのか吐き気に襲われ、寝ていたと言うよりは寝込んでいた方が正しい。

起き上がろうものなら目眩のせいで感覚は狂い、結局1日は飲まず食わずだった。



翌日。薬を飲まない事により何とか副作用は治まった。薬の効能は幸いまだ完全には切れていないらしく、痺れの痛みがじわじわと波のように襲って来るのみで支障は来さない為に学校へ行く事にした。

問題は痣の方。腕。腹。足雪乃に攻撃を受けた部分全てに痛々しい青あざが出来ており、その色具合には人間の肌とは思えない程濃く、自分の体だと言うのに気持ち悪さを覚えた。

だがそれもハイソックスを履けば難無く痣は隠れた為に冬である事に多少のありがたみを感じつつ家を後にする。



――――雪乃は来るのだろうか。


門を過ぎた所で浮かび上がった疑問。

周囲に目を配らせてはみるものの、それらしい人物は見当たらず、会話を楽しみながら登校する者。眠そうな者。

少なくとも、知った顔は一人も居なかった。

いや、この学校で知った顔なんて幸希か雪乃それか担任程度。それ以外のクラスの連中なんて名前はおろか顔すら知らない事に自嘲してしまった。

教室は三階なのだがその階段も今回は息を切らした。ただの筋肉痛なのではないか?そんな事も思う。

クラスのドアを開けると、騒がしかった教室が一斉に静まり、視線が一気に集まった。それには何事かと冷や汗をかいたが、その行動で理解出来た。

知ってるのだ。

あの話を。


登校している蒼間の者が雪乃の席に群れている。

肝心の雪乃は見当たらない。

クラスのほぼ半数が蒼間の一族である為に、朝の光景にしては違和感がある。

視線に不快感を感じつつも、気丈な素振りでその集団を通り過ぎた。

が。自分の席まであと少しだと言うのに―――足をかけられ、バランスを崩し倒れ込んだ。

体を支えようと自分の机に手を伸ばすのも虚しく、上手く支える事が出来ずにそのまま押し倒す形になり、机と椅子も音を立てて倒れた。


その音に驚き、教室全体が沈黙し、注目した。


「・・・っ・・・。」


体を叩きつけた事により、先日の痛みが体中を襲う。体中を再び襲う激痛により立ち上がる事が出来ず、何とか歯を食い縛り、上半身のみを起こして振り返る。

そこには、軽蔑の眼で真を見下す蒼間の一族の者等が取り巻いていた。

一人の少年が一歩歩み出て、口を開く。


「聞いたぜ・・・。お前雪乃に勝ったんだってな。」


「あたしその場にいたけどさ、・・・殺そうとしたんでしょ?雪乃を。」


「雪乃は蒼間屈指の実力者なんだよ。やっぱりお前。狭間の間者だろ・・・。」



――――この人たちは危ない―――。


言葉に殺気めいたものが込められている。この場から去った方が懸命かもしれない。かと言って、この体では逃げる事が出来ない。

今何を言ったって奴等が受け入れるとは思わない。ただ歯を食いしばって睨み付けるだけ。



――――ヒュッ―ー。


頬に風を切る感覚。堅く刺さる音。

背後を振りかえると床に刺さっていた小ぶりのナイフ。左の頬が熱を持ち、滴る生温い感覚。深くはないが、頬を切られていた。

傷を付けられた事よりも、報道などで見られる本格的なナイフを持ち歩いていたことに驚いた。

対狭間用として、常に持ち歩いているのだろうが、公に出すことは許されない。

例えどんな危機に陥ろうとも、『蒼間』の漏洩は回避しなければならない筈だ。彼等は感情的に成りすぎているのだ。皆。掟も忘れ。

一族の者は誰一人、クラスの数人が教師に知らせに出た事にも気付かない。


「・・・・・・ねぇ。

この中で死者が出る前に私たちが殺った方が良くない?」


「・・・この人数なら、仕留めれるしな。」



その言葉に現実味を感じる事が出来なかった。


―――この人達は何を言っているの?


真を見下す彼等の瞳は人間を見ているものではない。それ以下、害虫でも、ゴミでも眺めている様な。

殺すと言う単語に関して躊躇いを持っていないのだ。


一刻も早く逃げるべきだと頭が訴えても、この人数で逃げ切れるとは思えない

目の前に居た他の男子が、新たに隠し持っていたナイフを取り出す。

折りたたみ式のそれは小さく音を立て、鋭い刃を露わにした。


男子は真へとゆっくりと距離を詰めて来る。

今のこの状況を楽しむように、わざとゆっくりと。


「雪乃も可哀想にな。こんな奴に負けるなんて。」



そう、真を囲っていたうちの1人がそう口にした時。


鈍い破壊音が教室に響いた。

蒼間の者だけが何事かと振り返る。

そこには物凄い形相で連絡用の黒板を叩き割っている雪乃が彼等の直ぐ後ろに立っていた。破壊された黒板は、パラパラと破片が崩れ落ちている。

他の者は気付いていたようだが、蒼間の方は真に気を取られすぎて居たために、後ろの雪乃に驚きを隠せない。

真は真で蒼間の人だかりに隠されて雪乃の姿は見えて居ない。



「・・・・・あんた達は・・・私のプライドに傷を付けたいの?」


こみ上げてくる怒りを抑えたような声は、地響きすら起こしそうなもので、普段の雪乃を知っている者は顔を強ばらせる。

ズカズカと歩む雪乃に真を囲んでいた蒼間の者は道を開く。

真にはこの時初めて雪乃の姿を確認する事が出来た。立ち上がる事の出来ない真は雪乃を見上げるだけ。雪乃は不機嫌さを眉間のシワに表したまま、真を見下している。


だが直ぐに雪乃は真の制服のリボンを引っ張り、無理矢理立ち上がらせる。


雪乃の引っ張り上げる力が強く、その反動で簡単に立ち上がる事が出来たが、この学校の制服はセーラー服。中高一貫であり、高校生はスカーフであるが、中学生である真等はスカーフよりも遥かに幅の狭いリボンなので首の食い込みが痛かった。

リボンを放すことのないまま雪乃は教室から出て行こうと足を進める。

引っ張られる形で真はなされるがまま、転ばないように気を付けるしか方法がない。



「あんたたち。自分がした事わかってるんでしょうね」


振り向きざま投げ捨てられたその言葉に彼等は今頃気付いたかのような顔をする。それに気にする事もなく、雪乃は真を連れて教室を後にした。

無言で引かれたまま連れられたのは無人の教室。まだ朝礼すら始まっていない時間帯な為、人通りも無い。

教室に入るやいなや突き放された真は足がもつれ、膝を付く。


――――また何かされるのか―――


そう諦めながら振り返った真。

だが掛けられた言葉は思いに反していた。




「・・・大丈夫・・・な訳ないわよねぇ・・・」



朝方の気温により血が渇ききった真の傷口を見ながら雪乃は深い溜め息を吐いた。真の身を案ずる台詞。それは真を酷く戸惑わせた。

無理もない。何せ雪乃は初対面から真に悪い印象。最悪な態度でしか接触していないのだから。

取り敢えず教壇に真を座らせると雪乃も隣に座り込む。


「・・・・色々と悪かったわね・・・・」


沈黙を破ったその言葉に 、俯いていた真は弾かれたかのように雪乃を見る。


「・・・蒼間ってね。凄い歴史があるでしょ?

本当に堅くて掟とか厳しくて。

婚姻も全部一族内で決められるし、狭間との諍いの為だけに物心ついた頃から厳しい訓練させられて、自由なんて無いに近いの。

逃げる場所も頼るあても、私達には蒼間しかなくて。

・・・それでも我慢して・・・守るために、生きるために力を付けて来た。

そんな中あんたがやって来て、歴史も掟も全部破った。

・・・狭間の間者かもしれないのに・・・

だから・・・・許せなかった・・・・」




「・・・でも。遥鳴さんには逆らえないし、決めた事だから。

自分の強さにはある程度の自信があった。

だから確かめようかと思ったの。わざわざ蒼間の一族として迎え入れた理由を知りたくて。加減はしてたけど、隙は見せなかった。

けど負けた。言い訳はしない。これが実力なんだから。

だから私は認める。あんたも。力も。

そして聞く。

・・・あんたは・・・・・何者?」



その口調は、強く、はっきりとしていた。

真も、雪乃の話は真剣に聞いていた。

一つの表情も逃さずに。

瞳が合っても逸らしたくは無かった。


だが。[何者]か。

その問いに真は瞳を逸らし、俯く。



「・・・そんなの・・・私が知りたい・・・」


小さく呟いた言葉。




その言葉に嘘は見られない。長年の修行で身に付けた感。拭えなかった間者の疑惑が、今、消えた。

真も「自分が何者なのか」。

それが知りたくて、わざわざ危険な目にあってまで此の場所に居るのだ。


「まぁ。負けた事は悔しいし、相当酷い事したと思う。

でも認めたんだし!!!

受け入れられないかも知れないけどさ。

良かったら仲良くしよ。てゆーか友達になろ?」


そう言って雪乃は笑顔で手を差し出した。

握手の手を求めているのだ。

急に何を言い出すのか。そんな事も思ったが、改めてまじまじと見る雪乃の笑顔はとても可愛いと思えたのだが。


果たして雪乃を信じていいものか。

雪乃の言葉は突拍子もないが、正直嬉しい。今までの経験上、人を信じるのを拒絶してしまう。


雪乃の差し出した手を見つめながら動揺する。


―――怖い――――。


裏切られるのが。

決められぬまま時間だけが過ぎて行く。

それでも雪乃は待っている。



心が、揺らいだ。

人は信用出来ない。

裏切るものだ。


そう、わかっているのに、雪乃はそうではないと願ってしまう。

自分はまだ、心の底から友達を欲しているのだ。


恐る恐る進む手。

見切った雪乃は強引に真の手をとってしまった。



「よし!!!

言っとくけど私、友達は裏切らないからねっ。

よろしく。真っ」


願ってもないその言葉。

気を緩めば泣いてしまいそうだった。

仏頂面な真が一瞬見せた綻びを雪乃は見逃さなかった。


無意識だったのか直ぐに訝しげな表情になると雪乃に対して初めて口を開いた。


「・・・でも。

私なんかと仲良くして言い訳?」



それはさっきまでの空気を壊すかのようなものだったが、真にとっては大切な事なのだ。

言いたい事は直ぐに理解出来た。


「大丈夫よ。

わたしなんかと仲良くしたら雪乃ちゃんがいじめられちゃうんじゃないかしらぁ~。とかなんとか思ってるんでしょ?

気にしないで。

元々私あいつら友達とか思ってないから。」


「えっ?」


その発言には驚きを隠せない。雪乃の周りには常に人が集まっていたからだ。羨ましさを隠せないくらい。


「私からみたらあんなの金魚の糞よ。

自分で言うのもなんだけど。私学校では強い方なのよ。

・・・負けたけど・・・

友達と思わせておけば自分の危機を助けて貰える。いつ出会うか判らない狭間にも私がそばにいたら勝てるかもしれない。

あいつらからしたら私はその程度の存在なのよ。

誰も私を友達とか思ってもいないし、私からも思ってない。

何人かは友達かと思える子はいたけど・・・

今日でいなくなっちゃったかな?」


笑顔で話す雪乃だが、雪乃も孤独だったのかもしれない。

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