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obsession  作者: 礼央
第一章 変わる世界
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試される力



この日も変わらず学業の為に学校に居る。幸希は居ない。

雪乃も・・・あの日以来見ていない。

それ程真が気に入らないのか、敢えて気にはしないが、迫害の重みを知る。

朝方は寒さが耐えきれずに相当着込んで来た。それが災いして、暖房の効いたこの教室に居ると遠慮無く押し寄せてくる睡魔。

そして殆どの時間。怒られる事もなく1日中睡眠につぎ込んでいた。


「・・・ん・・・」


自分の声に目を覚ます。

重い頭をゆっくりと持ち上げると教室には誰一人居なかった。

夕日を浴びる教室。それは幻想的だったが、時計を見ると終礼が終わっている時間より30分も過ぎていたのだ。


「どんだけ寝たんだよ・・・」

溜め息混じりに自嘲した。


「本当にね。」


自分の呟きに答えが帰って来たのだ。

驚いて声の聞こえた方向を振り向くと、そこには思いもよらぬ人物が教室のドアに寄りかかっていた。雪乃だ。

眉間にしわを寄せ、不快感を漂わせ真へと近づいて来た。


「・・・ちょっと付いて来てくれる?」





―――嗚呼―――

この日が来たのだと。


拒絶はしない。ただ、いつかこんな日が来ると思っていた。

一体何をされるのか自身に危機が迫っているかもしれない。

だが真はあまりにも冷静で客観的だった。


支度をすると無言で雪乃に付いて行く。

雪乃もまた振り返る事も無くスタスタと歩いていく。足音だけが大きく響いていた。門まで来て待っていたのは黒塗りの、それも高級そうな車。

それが目に入った真は足が竦んで歩みを止めてしまった。嫌な汗が背中を掠める。それに気づいた雪乃は「早く」と言い真の腕を引き車内へと誘う。

真を座らせると雪乃はドアを閉め、助手席へと自ら座る。

助手席のドアが閉まるのを確認すると車は静かに動き始めた。

ふと運転席へと目を向けると、運転しているのは大して真と変わらないような若い青年だった。免許取ってそう経っていないと思える。

服装も服装で。車とのあまりの不釣り合いさに真の張り詰めた緊張は解け、一瞬でどうでもどうでもよい気持ちになっていた。


車に揺られながら、数十分。

高層ビルを眺めていたが、車が止まった先には見覚えがあった。

もっと違う場所に連れて行かれると思っていた為、呆然としてしまう。

着いた先はここひと月近く通っていないジム。雪乃は当たり前のように地下へと向かう。これにも無言で付いては行くが、あの時の情景が脳裏に浮かぶ。


行きたくない。進みたくない。心はそう訴える。


それに反して体は進み、雪乃は、あの修練場への扉を開けた。



「相模?!」



雪乃と共に入って来た人物に、幸希は驚き、真もまた驚く。

修練場に居たのは数人の、今まで己を磨いていたのであろう同世代の少年少女と幸希、それに遥鳴。


遥鳴も少なからずとも驚きの表情を見せる。



「・・・雪乃・・・相手って・・・」


「この人よ。」



その言葉に場に居た全ての人間が驚愕の表情に包まれた。



「ふざけるなっ!!!相模を相手になんてさせられるわけないだろっ。」



焦りにも似た幸希の怒声に雪乃は眉一つ動かさない。そんな幸希を初めて見る真だったが、話に全く付いて行けない。

自分が大変関与していると判りつつも、当の本人には説明一つない。

それには痺れもすぐ切らす。


「何の話?」


その低い声に幸希は何とも気まずそうな表情になり言葉を詰まらせる。

その問いにに口を開いたのは遥鳴だった。



「蒼間には権力争いを防ぐ為に当主立ち会いのもとで行われる試合があるんだ。

生死をも賭けたね。

それにより蒼間での位置付けが決まる。

雪乃はその相手に真を選んだんだよ。」



至極簡潔かつ端的な説明。


それには真も言葉が出なかった。

馬鹿げてる。自分が何の力を持っていない上。格闘など出来る訳がない。



「雪乃。何でそれを急に行う必要があるんだよ。

裁犠さいぎはこの時代じじい等の許可を得て正式に行われるはずだ。

・・・それに相手が相模だなんて許される訳ないだろ」


「じゃあなんでそんなのが今までの歴史や掟無視して蒼間にいるのっ!!!

説明してみせてよ!!

何か力があるからでしょうっそれなら私が確かめる!!

何の力も無しに蒼間の存在を知られるなんて許せないっ!!

いいでしょ!?遥鳴さんっ」


雪乃は狂ったように叫び、喚いた。そこまでしてまで[蒼間]の存在に執着するものなのか。


遥鳴は暫く沈黙を守っていた。

そして出した答えは―――


「わかった。いいだろう」



だった。


「遥鳴っっ」


今すぐにでも飛びついて胸ぐらを掴もうかと思ったが、止めた。

遥鳴が複雑な表情をしていたから。幸希は読んだ。

これで、遥鳴は真を見定めるつもりだ。

真の能力を。真のこれからの方向性を決めるつもりなのだ。

幸希は渋面を作る。


「・・・相模は、いいのかよ・・・」


「・・・」


憂色の表情は真の心情をありありと表していた。無理もない。いや、本当に無理だ。武道や格闘技など生まれてこの方無縁だったのだ。心得や相手の倒し方さえ知らない。

それが、蒼間と言う組織の、そしてクラスの中でだけでも一番強いと言う雪乃に挑めと言うのか。勝つどころか指一本触れられる気がしない。

それを知ってる筈なのに・・・


「・・・手段は問わない。真・・・君は雪乃に殺す気で挑むんだ。

危険だと判断した時は止めに入るから命の心配はしなくていい。

・・・出来るね・・・。」


否。と言う言葉は出なかった。―――違う。出すことが出来なかった。

真を見つめる遥鳴の瞳は物言わぬ力があり、蒼間家当主としての威厳と冷淡さが口調にも込められていた。

遥鳴の言葉は真の胸にチクリとする何かを残した。

今まで見た遥鳴とはそれは別人だった。

真は諦めたかのように俯き、哀愁の瞳を漂わせて小さく頷いた。


「お前ら制服だろ。着替えなくていいのか?」



「問題ないわ。・・・あなたは?」


それに真はかぶりを振って答えた。

元々、学校の方針でスカートの下にスパッツやら短パンやらを履いているので問題はないのだ。

それを合図かのように幸希と遥鳴は二人から距離を置き、場に居た蒼間の者は隅へと動いた。二人は見つめ合う形になり、雪乃は自然と間合いを取っている。


暫くして口を開いた。


「あんたが強いとは到底思えない。だから、私に一撃でも当てられたら勝ちにしてあげる。

命の保証もする。・・・でも・・・全くやる気を見せない気なら本当に殺すから。」




語尾を強める雪乃の声は低く、冗談に聞こえない。それが怖い。



―――無理だ―――。



手足が微かに震えているのがわかる。開始の合図をする遥鳴の声も全く聞こえてはいなかった。

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