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obsession  作者: 礼央
第一章 変わる世界
13/45

新しい場所で


転校初日。

空は真を祝うかのように澄み渡り、真は雨天の心持ちだった。

これから通う学校は小学校から大学まで成る一貫の付属中学。

県内でも有数の進学校であり、有名校だった。

名前だけは真も知っていた。


―――まさか自分がこんな所に来るなんて・・・・・


その学校もが、蒼間の所有物。影であの人が操っている。

改めて、蒼間の大きさを思い知った。




「今日からこのクラスに転入する相模真だ。」


壇上に立って教師の紹介を受けている時。

普通なら緊張して恐縮する筈だ。

このクラスで仲良くやって行けるか。友達は出来るか。

そんな期待と不安が込められる壇上。

だがここでは違う。

友達なんて出来る筈が無いのだ。


虚ろな瞳には誰が蒼間の者か一目で理解出来た。隣で教師が長々と説明をしているが、耳には入らない。


―――何でこのクラスはこんなにも蒼間が多いんだよ―――


なんて、内心舌打ちをした位だ。

蒼間と思わしき人達は、物珍しい転校生に目もくれず、細々と会話をしたり、伏せったり、故意にでも目を合わそうとしていない。

その幼稚な行動は「自分が蒼間の一族です!」と言っているかのように主張していた。だが、蒼間の半数並に瞳を輝かせて転校生という物珍しい真を見つめている生徒もいるのは確かだ。それが、少しだけ嬉しかったりもしている。

残り少ない中学生活も、幸か不幸かの紙一重なのだろう。


「では相模は後ろの空いてる右側の席に座りなさい。」


長い話に漸く区切りが付いたようで、担任は真に席を言い与える。

空席の場所は2つあった。一番後ろ、窓際の隣の席2つ。窓側寄りの席。


―――せっかくなら窓際が良かったな―――


大抵こんな場合、受け入れて貰えない転校生は足を掛けられたりするもので、そんな事を考えながら与えられた席に座った。

周りの視線を浴びるように受けているのが何とも気持ちが悪い。


「宜しく」


その言葉に少しでもの好印象をと引きつり気味で笑顔を作り、言葉を掛けてきた窓際の人物に返そうと、視線を向けたが、笑顔が歪み、固まってしまった。



「・・・四谷・・・」


隣の席に居たのは紛れもなく幸希。


―――何故?


これが幻想と思いたい。きっと夢だと。



「同じ中学同士!!運命みたいで心強いだろ。四谷!出来る限り相模に教えてやれ!」


それを教師が現実へと引き戻した。幸希は教師に手を振って答えていた。

真は人生で何度目かの絶望を味わっていた。

朝の朝礼から3時間。転校の紹介があってから、何事も無かったように授業が行われていた。

かと言えここは有名な進学校。

県立の道を歩んで来た真にとって、レベルも違うし、授業内容も地域によって全く違う。それは十分理解していた。

ただ、今は時期的に学ぶ事は無く、受験による復習が主な授業だった。


それだけだったら何とかなる筈だった。

何せあれだけクラスから逃げる為に勉強に没頭していたのだから。


―――時が長すぎた。

約3ヶ月と言う期間はとても大きかった。短期間で詰め込んだ物。

それは蒼間の異様な出来事で完全に忘却するには十分な期間だった。

あんなにも得意とした教科も、出来た問題も、初めて習う感覚だった。

報われなかった努力。それは真を追い詰めた。

いたたまれなくなった真は、昼休みまで後一限はあるというのに、教室から抜け出し、さ迷った挙げ句施錠もされていない屋上までやって来たのだ。


今までの学校では屋上など何の為にあるのか解らない程出入りを禁止されていた為、新鮮な気持ちでいた。

だが今季節は真冬。

しかも屋上。

風の強さは激しく素肌や服の上からでも遠慮なく突き刺さり、冷たい風は体温を挙って奪う。

それでも真は屋上に居る。手すりが丁度良い高さにあって、体も疲れない。

建物ばかりの景色だが、濁り果てた心を癒やすには丁度良かった。


―――こんなに寒いんだから、誰も来ないよね―――。


次からはコートを持って行こう。そんな事を考えていた時。




「うおっさぶっっ!!!!」



自分の世界をこの声が遮った。

何となく声の主は解っていた。



「四谷・・・」


何とも不愉快な表情で呟いた。

風の声が強くて、幸希がすぐ近くまで来るのに気が付かなかった。そのことも真の不快さを煽ってく。そんな事を気にする様子も無く、幸希は真の隣にやって来た。


「・・・この不良っ」


「は?!」


思いもよらない幸希の悪態は無視をし通そうとした真を反応させるには十分な言葉だった。


「は?じゃねぇよ。お前今何限だと思ってるんだよ。

急に居なくなったから、俺が機転を利かせて保健室行ったって事にして様子見するって言って探して来てやってんのに。」


「・・・別に頼んでないんだけど」


真の冷たい態度に言葉を詰まらせる。


「大体何で四谷が此処に居る意味がわからない。」


「それは・・・なぁ・・・。話せば長くなるけど・・・」


幸希は小学校途中までこの学校で過ごしていた。それが、家庭や蒼間の関係で向こうに移り住んだのだ。元の家はあちらなので地元に帰ったとも言える。

この学校も蒼間が所有するもの。

だから真とは違い簡単な手続きで転入する事が可能であり、エスカレーター式の中学なのでクラスの皆が顔馴染みで何も違和感を持たれない。転校生と言うよりも戻って来た。と言った感じか。

それに比べて真は蒼間の一族でもないし、学力試験も無く転入している。

そのことで手続きが多く、幸希の方が先に転入しているのだ。


遥鳴が真の不安を少しでも取り除く為。

といった囁かな裏事情もあったのだ。

ただそれは幸希も知らない事。


視線は景色のみを捉えていたが、とりあえずは話を聞いていた。

幸希と先日再会してから解ってはいた。

解ってはいたが会いたくなかったのだ。本当に。


今は無い恋心―――

それが揺らいでしまうかもしれない。思いを伝えては居ないが・・・気まずい・・・。

本来なら、聞きたい事が沢山ある。まだ、この蒼間と言う組織は解らない。

それに、本当に自分が此処に居る理由。

遥鳴が言う保護の他にも複雑な理由がありそうな気がしているのだ。

翌々考えれば幸希は真の為にわざわざこちらに赴いたのかもしれない。

そうすれば、真の態度は悲しいものだ。

だが、そんなのはただの感でしかない。

下らない事を考えていると、先ほどまでの思いを捨て去った。


そして、最も気にしていた事を口にした。


「・・・四谷は・・

私が蒼間の一族に踏み込んで・・・嫌とか思わないの?

・・・他の人達は、凄く反対してるみたいだし・・

遥鳴さんから頼まれてるから、仕方なく一緒に居るだけなの?」


真のその言葉は、はっきりとしていたが、表情の曇りは隠し切れては居なかった。


「・・・そりゃあ・・・普通の人間が蒼間と言う組織に入り込むのは反対だな。蒼間は狭間との対立がある以上危険なものでしかない。

・・・だけど。

俺はあの時見たからな。お前の訳わかんねー力を。あれを見た以上。ほおっておけるものじゃない。それに奴らはこだわり過ぎるんだよ。

相模は暗鬼から狙われているのを保護されているに過ぎない。

お前は俺ら蒼間の事をそんなには知らないだろ?深く考えるなよ。

暗鬼がお前を狙っていると解った以上、守らなければならない。

・・・・・嫌な事だとは思うけど、暗鬼の目的も探らなければならない。

その為にも、お前は必要なんだよ」


幸希の言葉はありのままだった。

認めたくはないが。思いは伝わった。幸希は自分の居場所を保とうとしてくれている。それが嬉しかった。

張り詰めた空気が少しだけ和んだ気がした。


「相模さぁ。何で遥鳴には敬語な訳?さり気無くあいつへこんでるぜ?」


「何で?・・・・あたり前じゃん」


行き成り振られた話題に少々驚くが、遥鳴は年上だし世話にもなっている。何故それがいけないのか。


「年上だからか?あいつへこむぜ?唯でさえ一族の連中はあいつを崇拝してるからな。

お前はやめとけよ。・・・・あとさん付けも。」


「・・・でも・・・・。」


「そうした方がきっと喜ぶって!!絶対!!!」



何故そう言い切れるのかわからない。遥鳴の考えも読めない。

・・だが・・・少しでも喜ぶなら・・・


「・・・・頑張ってみる。」


その瞬間真の顔から微笑みが漏れたのを幸希は見逃さなかった。


「相模今笑ったな。昔よりすっごい無愛想になったと思ったけど、ちゃんと笑うんだな。うんうん。良いことだ。」


「!!!何いってんの?!笑ってなんかないし!!!!」


その真の顔は赤らんでいた。

二人の溝が狭まってきた頃、空には太陽が真上に射し。風も弱まり、そこは快適な空間になっていた。

真は幸希の昔のままの変わぬ態度に少しの安心も感じていた。

気がつくと昼休みを告げるチャイムが学校全体に響き渡っていた。

それと共に動きだす生徒の気配。

自分たちの居る屋上にもドアを開ける音と笑い声が向かって来た。

笑い声からして女子生徒と言うのが解った。・・・が。

急に笑い声が途切れてしまった。


何事かと振り返ってみると。

そこには見たことのある姿があった。


途端。真の表情も凍ってしまった。

汚物でも見てしまったかのような顔。三人組の少女達は、クラスメイトなのだ。記憶が正しければ、あの時ジムにも居た、紛れもなく蒼間の人物。



「おう。もう昼休み?」


三人の存在に気づくと幸希は問いかけた。


「幸ちゃん!もう終わったよ~全く帰って来ないから心配したよ」


「でも戻らなくて正解かもよ。今日の授業森じぃの自慢話だけだったし」


「マジで!!あいつ話つまらんし長い割に寝ると起こされるからな!!ラッキーじゃん!!!」


真など気にしないと言うように進む会話。真も真で4人の話に耳を傾けることなく景色を眺めていた。名前も知らない者の会話に入ろうとは思わないし、自分を拒んだ蒼間の連中に仲良くしようとも思わなかった。

だが真の思いとは反して、彼女等は先ほどの盛り上がった会話を一転、真の話へと転化させる。


「…幸ちゃんさぁ。

何であんなのと一緒にいるの?」


その言葉にピクリと体を反応させる。


「何者か解らないのにさぁ~蒼間の掟破っちゃって」

「そうそう!よくに力もないくせにさ!!」

「実は狭間の間者なんじゃないの?」


くすくすと真をよそ目に繰り広げられる卑劣な言葉。相手にはしないものの、その言葉は確実に真の心を蝕んでいく。



「止めろって・・・」


軽く御する幸希に構わず彼女達の言葉は止まない。


「大体、私達の学校。しかもクラスにに堂々と転入までして来るなんて図々しいにもほどがあるよね~。」


やはり女は陰湿だ。中傷する事を楽しみ、相手の気持ちなど考えもしない。


「遥鳴さんも何を考えてるのかしら?

こんな菌をわざわざ入れ込むなんて・・・」



「・・・いい加減にしろよ・・・」


「!!」


抑揚のない冷たい声に空気が変わった。

それと共に彼女達は呼吸する術を忘れ、息を詰まらせる。

真のような人間には分かり得ない気迫。彼女らは幸希の[気]に恐れの表情を見せる。

―――怒らせてしまった。

普段幸希とは分け隔てなく接しているし、昔からの付き合いは長い。

だが、力の差は圧倒的なのだ。彼女等に比べたら。

そして先程までの勢いは余所に、今度は怯えた様子で逃げる様に屋上から去っていった。


「・・・大丈夫か?」


「何が?」


何事も無かったように心配した幸希の問い掛けを真はバッサリと斬り捨てる。

全てもう馴れてしまった事。一々気にしてなんかいられないのだ。


「一言で追いやるなんて四谷も大したものだね・・・見かけによらず・・・」


そう、誉めと毒舌を幸希に捧げると、いい加減戻る。と伝え、教室に戻っていった。幸希と彼女等のやりとりはそこまで気づいていないようだった。


さっきは真の事よりも、遥鳴の事で感情を荒げてしまった。

遥鳴の苦労を知っているからこそ、彼女等の軽率な発言が許せなかったのだ。それに、いくら真が気に入らないからといって、まさか本人の目の前で卑劣な言葉を繰り出すとは思わなかった。

初めて女が陰湿と言われる怖さを知って、又、それでも気丈に接していられる真の強さを知った。

幸希は、真が出て行った扉を見つめながら思った。

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