第二話
この世界は魔物のいるのが当たり前となり、魔物を倒して生計を立てる職業──冒険者で生計を立てている者たちがいる。
様々な人間がパーティを組み、ギルドを作る。その中でも、『赤星の剣』というギルドはこの街の中心になるほどの巨大である。
ギルドマスターは一人でS級ダンジョンから生還できると言われているほどの強者だ。
「ムリムリムリムリムリ! 僕なんかが認められるわけがないだろ!? そもそも、ここを目指して何人の冒険者が試験に落ちると思ってるんだよ!?」
「年に二百人程度かしら?」
「二百人もだろ! 逆にここ数年ではジュリア以外で入団できた人間はいないだろ!」
お昼過ぎ。昼食時で人が繁華街に出始めた。その中で騒ぐものだから、注目が集まってくる。
しかし、今は連行されたくないという気持ちのほうが大きく出ていた。
襟首を掴まれながら引きずられ、リゼットは手をバタバタさせる。
しかし、ジュリアの腕力が抜け出すのを許さない。細い腕などこにそんな力があるのかと思うほどだ。抵抗すればするほど、自分の非力さを思い知らされる。
「疑問の疑問なんだけど、なんでリゼットは試験が通らない前提で言ってくるの?」
「そんなの考えなくてもわかるからだろ!」
「そもそもだよ? そもそも、受けてみないと何事も分からないじゃん? やる前から諦めるくせやめよ?」
「生き恥さらすくらいなら受けない!」
駄々っ子のように暴れるリゼットに対してついに痺れを切らしたのか、ジュリアが舌打ちをした。
そのままぐいっと体がさらに強く引っ張られる。
気がつけば、体が宙に浮いている。彼女に持ち上げられているのだと気づいた頃には、投げ飛ばされたあとだった。
「な、なにするんだよおおおおおおぉぉぉおお!?」
物理法則を無視して空を飛ぶリゼット。その彼に聞こえるか聞こえないかで──
「舌を噛まないように気をつけてねぇ!」
ジュリアの声が耳を掠める。
風を全身で受けて飛んでいく中で、リゼットは涙目になりながらふざけんなよと心の中で叫んだ。
※※※※※※※※※※
「……それでそれで?」
ジュリアの表情は先ほどとは打って変わって、明らかに不機嫌そうに歪んでいた。
その視界の先には、太陽光を反射する燃えるような赤髪を持った少女が立っている。
「一体一体何の用? ルベリア・ローゼンバル?」
「人のフルネームを気安く呼ばないでくれるかしら?」
ルベリアは腕を組み、口元を曲げた。つま先で地面を何回も鳴らしている。
説明されなくてもわかる。彼女は明らかに不機嫌だ。
「リゼットをどこに飛ばしたの? 怪力女?」
「そんなそんな無礼な態度で教えると思う?」
「ふん、どうせあんたの考えることだからリゼットを私から引き剥がそうとする魂胆なんでしょ?」
「違うよ? 違う違う。全然違う」
彼女の言葉に、ジュリアは首を横に振る。そのまま近づく──顔を突き合わせると言えるほどに。
ルベリアは右眉を上げる。明らかに不快そうで嫌悪感を隠そうともしない。
「お前が、リゼットを勝手に手放したんだよ? そんな彼を勧誘しようが何しようが、私の自由。……違う? 違う?」
「違う、私は認めてない!」
その言葉に、すぐ近くにいた冒険者が振り返る。ルベリアを目にして、彼女から距離を開けた。
そうやっていつの間にか野次馬が形成されていく。
ギルド『赤星の剣』期待の新人ジュリアと強パーティーのリーダーであるルベリアが言い合いをしているのだから当たり前である。
「だったら、だったらさぁ、ここで宣言できるの? リゼットの必要性を?」
「そんなのできるに決まって──」
「日常的に暴力を振るってたくせに?」
「……は?」
ルベリアの言葉が止まる。ここだとジュリアは嗅ぎつけて、畳み掛けた。
「いつもいつもリゼットは傷だらけになって帰ってきてたの知ってた? 彼の疲れが取れないうちに次の依頼に駆り出して、殺す気? 殺す気なの? 実際、依頼中に倒れたこともあったよね? それなのに、ルベリアは彼を労った?」
「違う! 私はリゼットが力をつけないと危険だから──」
「そういうの……そういうのなんていうか知ってる? パ・ワ・ハ・ラ」
「違う!!」
ルベリアは否定した。しかし反論はない。肩で息をしているだけだった。
ジュリアはふんと鼻を鳴らすと、彼女の横を通り過ぎる。
肩にかけてこようとしたルベリアの手を、彼女はひらりと避ける。そのまま振り返ることなく、ギルドへと向かう。
「私はまだリゼットを手放してないから!」
その言葉にジュリアは答えない。




