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第二十一話

 キネノが言っていたであろう場所には、難なくたどり着くことができた。

 黒い怪物たちは、復活したりと不気味こそあれ動き自体は緩やかである。倒すから躱すに意識をシフトした瞬間、ルベリアは合間を潜るように進めた。


 問題は、その空間で待ち受けていた光景である。


 見えたのは、黒い大きな球根のようなもの。それが地面から天井にまで伸びている。空間がねじ曲がるかのような気味の悪さから、ルベリアは吐き気を覚えた。しかし、ここでまごまごしている場合ではないと、立て直す。


 いつの間にか黒い怪物たちは襲ってくるような気配はない。まるで、ここには近づきたくない何かがあるかのような。

 そんな風に考えていると、その球根に手を伸ばすジュリアの姿が見えた。


「何してるの?」


 ルベリアは尋ねるが、彼女は振り返らない。ただ、ジッと見つめ続けるだけだ。


「ジュリア、ねぇ、ジュリアってば!」


 大きな声を出しても、彼女は振り返らなかった。

 無視されたことにため息をついて、ルベリアはジュリアの隣に立つ。


「これなんなの?」


 その時初めて、彼女がルベリアのことを見やる。


「本当に何も何も知らないんだね?」

「知るわけないでしょ? 私はこんなのに関わって来たことないわよ」

「だったらだったら、なんでルベリアはリゼットが危険だと言うことを知ってたの? 矛盾……してるよねしてない?」


 ジュリアの言葉に、少し考え込む。

 確かにリゼットの補助魔法は、殺意や一撃の死を跳ね返したり、一度溜め込んでから他の敵意に飛ばしたりとかなり高度な技術の塊だ。しかも彼の恐ろしいところは、それを無意識にやるところである。

 しかし、何故自分はその危険性を詳しく知っているのだろうか。


 幼馴染、だけでは説明つかない。過去に何かしらの事件に巻き込まれた。それが自然な流れなのではないだろうか。だが、ルベリアの記憶では、そんな巻き込まれたことなどなかった。


「──やっぱり」


 そんな困惑したルベリアの様子を見て、ジュリアはどこか納得したように呟いた。


「何よ……何一人で納得してるのよ。そういうの、感じ悪いからやめてくれる?」

「私もさっき、本当についさっき気がついたんだけどね。私たち二人で記憶に偏りがありすぎるんだよね」

「そりゃ、別々の人間だから当たり前でしょ?」

「うんうん、当たり前。当たり前なんだけど──」


 そんな話をしていたときだ。球根が蠢き出した。

 反射的にルベリアは剣の柄を握る。


「ジュリア、下がりなさい! 呑み込まれるわよ!?」

「……下がったらリゼットは助けられないよ」

「なんでそんなことが分かるの?」

「……前にもあったから。あったんだよ実際。多分だけど」


 要領を得ない彼女の言葉に、眉根を寄せた。

 それはジュリアの手を飲み込む。次々と体が沈み込み、顔の半分まで埋まっていってしまう。


「ちょ、ちょっとジュリア!」


 彼女の右手を引っ張ろうとしたが、どんどん沈み込んでいってしまう。

 このままでは自分も巻き込まれる。そう思い手放そうとした。しかし──


 その人間離れしたような力で、ルベリアを引っ張ってくる。


「ジュリア!?」


 なんとか踏みとどまろうとする。だけど、抗うことができずに引きずられていく。

 何故土壇場でこんなことをするのか、ルベリアの頭の中は困惑するばかりだ。


「私たち……“私”がいないとリゼットは助けられないから。助けることができないから」

「何言ってんのよ! まだ別の方法もあるかもしれないでしょ!? わざわざ二次被害に巻き込まれに行くのは、馬鹿げてるわ!?」

「……そうやって、過去も逃げた結果どうなったの? ねぇねぇ、それも覚えてないの?」


 さっきから彼女の言っていることが本当に分からない。


 そんな混乱の中でも、二人の体は中へと吸収されていく。ジュリアの方はもはや一部しか見えなくなっていた。


 ルベリアの足、手と何か生暖かいものが巻き付いてくる。それは柔らかく粘っこく、嫌悪感を増大させたような感覚だ。

 名状しがたいその気持ち悪さに、思わず全身が震え上がった。


 逃げようと、体が無意識に動く。しかし、ガッチリとジュリアに手を掴まれていたため逃げ出すことができない。


「思い出して。ねぇ、思い出すの」


 そんな中でも、彼女の声はハッキリと聞こえた。それは耳元で囁かれるよりもはっきりと──まるで自分の心が訴えかけているかのように。


「私はあなた。あなたは私」

「何を……」

「思い出して、私たちの名前は“ルージュベリア”。それが、それが──本当の名前」


 その言葉を最後に、ルベリアの視界が暗転する。

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