第二十話
「おっ先、お先!」
ルベリアの横を駆け抜けて洞窟に入っていったのは、ジュリアだった。彼女はあっという間に暗闇の中に姿を消してしまう。
「このままだと、ジュリアさんが先にリゼットを助けることになりそうですが……それで良いのですか? ルベリア嬢」
「いいわけないでしょ!」
ローセントに言われるまでもなく、ルベリアは駆け出した。
不気味な叫び声が反響する洞窟内に足を踏み入れる。躊躇は微塵もなかった。
「暗視!」
ルベリアは岩の地面を転ばないように気をつけながら進んでいく。目に暗視魔法をかけ、視界を確保する。
しかし、やはりというかかなり見えにくい。油断すると、足を引っかけかねない。
リゼットの暗視魔法ならば、外と同じくらいの明るさを保てるのに。
歯噛みするが、ないものねだりをしても意味がない。今は兎にも角にも、彼を助けるのが先決だ。ただでさえ、時間を食ってしまったのだから。
「とおりゃ! とりゃとりゃとりゃとりゃとりゃ!」
聞こえてくるジュリアの声。彼女は洞窟の奥からやってくる黒い気味の悪い人型を素手で殴りつけていた。
「……あんた、よくこんなのを素手で倒せるわね?」
「リゼットの生死を確認するほうが先だもん!
こんなのこんなの、気持ち悪がってる暇なんてない!」
「……一理あるわね」
「むしろむしろ、理しかないと思うけど!」
ジュリアの言葉に、心の中だけで肯定する。口に出すのは癪だったからだ。
襲いかかる黒い怪物たち──多分、呪術によって産まれた怪物たちを斬っていく。
手応えはない。倒しても倒しても立ち上がってくる。この不死身さは、呪術が禁止されるだけはあった。
「……くっ!」
動きは緩慢だが、それでも死なないというのがこれほど苦しいものだとは知らなかった。いつもの魔物ならば、倒せばそれで終わりだったからだ。
突破口を見つけようとするが、そんな隙は中々見つからない。
「どうやらどうやら、核となるものを潰さないとダメみたいだね」
「あんたなんでそんなこと知ってるのよ?」
戦い、躱しながら、ルベリアはジュリアの言葉に耳を傾ける。
「むしろ、なんでなんで、ルベリアは呪術のことを知らないの?」
「こんなの初めて目にしたからに決まってるでしょ!?」
その言葉に、ジュリアの手が止まる。隙を見つけたからか、黒い怪物たちは一斉に彼女に向かって襲いかかった。
なんとかそれをルベリアが剣で阻止する。斬りつけて牽制しながら、ジュリアの方に視線を送った。
「何止まってんのよ! 手を煩わせるなら、帰ってくれないかしら!」
「……ごめんごめん。驚いちゃって……なるほどなるほど、そういうことか」
「一人で納得してないで、手を動かすの! じゃないと巻き込まれるよ!」
「分かってる。分かってるよ」
しかし、彼女の攻撃に先ほどまでのキレがない。
この数秒で一体何があったのか、ルベリアにはわからなかった。
「もしかして、もしかして──」
ジュリアが何か言おうとした。しかし、
「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」
それをかき消すほどの聞いたことのある声が聞こえてくる。
洞窟の奥からごろごろと転がってくる人型。尻尾と耳がついた獣人だ。
「キネノ!」
ルベリアには見覚えがあった。かつてのパーティメンバーであった人間だ。
彼女のことを追いかけてきている怪物を、ルベリアは斬った。しかし、それだけではすぐに再生してしまう。
顔を歪めながらも仕方ないと、怪物の体を蹴る。そして全体重をかけるように突撃して、なんとか押し返した。
「キネノ大丈夫!?」
振り返ると、目を回していた彼女が親指を立てる。
「なんであんたがこんなところに!?」
「わ、私は……エバルと一緒に行動してたにゃ」
「あんた、それって……」
「罰はあとでいくらでも受けるにゃ! でも、今はこれを止めてほしいにゃ!」
彼女は洞窟の奥を指さした。
「少し行ったところに大きな空間があるのにゃ。そこで、リゼットが呪術の儀式を受けてたにゃ」
「……やっぱりこれは、リゼットの力が作用したのね?」
「く、詳しくは知らないにゃ! でも、リゼットが関係してるのは間違いないにゃ」
その話を聞いた瞬間、いち早く走り出したのはジュリアだった。ルベリアの止める声は、彼女には届かない。
そのまま黒い怪物たちの隙間を縫うように、行ってしまった。
「あぁ、もう!」
次から次へと。ルベリアは頭を掻きながら、足を大きく鳴らす。
「キネノ、あんたは一緒に来るの?」
「わ、私はいかないにゃ……」
「あんた──」
「ち、違うにゃ! 私はエバルに足の腱を斬られたから、足手まといになるにゃ! 元気だったら行ってたにゃ!」
その言葉に大きくため息をついて、剣を構え直す。
「外に『赤星の剣』のメンバーたちがいる。そこに自首しなさい。逃げたら、あんたを追い回してやるから」
キネノの頷く気配を、ルベリアは感じた。




