表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/24

第十九話

 まず最初に狙ったのは足だった。動きを阻害して、これ以上邪魔しないようにするため。

 次に狙ったのは腕だった。剣を後ろから投げつけられたら困るから。


「……な、なんでなんだよ?」


 赤い血溜まりの上に這いつくばるエバルは、心底訳がわからないと言った顔でルベリアを見上げていた。


「……俺が何したってんだよ? 上を目指そうとしただけだろ?」


 彼は地面を転がりながら、こちらに手を伸ばしてくる。

 その姿は、あまりにも悲しかった。


「お前の世界に、他の人間はいたの?」


 ルベリアが静かに聞いた問いに、彼は答えない。まるで呪詛のようにブツブツと呟いている。


「俺がこんなことになる謂れはない……。何もしてねぇだろ……。邪魔する奴が悪いんだ……。俺は上に立つべき存在だ……」


 一言一句が、独りよがりなものであった。馬鹿は死ななきゃ治らないというが、その通りだろう。エバルは、どんだけ痛い目に遭ったとしても、決して自分を顧みない。


 這いつくばり、こちらに近寄ってくる彼の姿に、心の底から気持ち悪さがこみ上げてくる。人間はこんなにも、周りが見えなくなるのか。


──こいつは、ここで殺しておかなくてはダメだ。


 ルベリアの感情が引いていく。


 エバルを冷たい瞳で見下ろすと、ルベリアはゆっくりと剣を振り上げた。


「……おい、おいおいおい」


 彼女を見上げるエバルの顔は、血の気が引いていくのが見て取れる。


 木々の隙間から漏れる太陽の光は、ルベリアの持つ剣先を鈍く照らしていた。


「俺を殺すのか!? なんでだ!? 俺は最善の方法を──」

「最後の最後まで……──」


 ただ一言。悪かった。

 それすらも言えないのか。


 剣を容赦なく振り下ろした。


──カチン。


 ルベリアの耳に張り付いたのは、何かの蓋を閉める音。

 眼前の光景に、彼女は目を見開いた。


 剣先は、エバルの首元ギリギリで止まっていた。いくら押し込んでも、動かない。まるでその空間に固定されているかのように。

  

「俺を、俺を本気で殺す気だったな!?」


 エバルが吠える。その瞳には、怒りの炎が込められていた。


「お前も俺の邪魔者だ!」


 ここでこいつを放っておくのはダメだ。

 何が何でもその怒りの目を摘み取らなければ、後々に足を引っ張ってくる可能性がある。


「──だから、邪魔をするなぁ!」


 力いっぱいだった。しかし、ミリとして動かなかった。


「は、ははは! やっぱり、神は俺の味方だ! 俺に生きろと言っている!」


 彼は地面を這いずりながら離れていく。


「絶対、絶対絶対に許さないからな! お前の命も奪ってやる!」

「……その話は聞き捨てならないですね?」


──カチン。


 再びあの音が響く。ルベリアの固定されていた剣が動き、体勢を崩した。

 剣先はエバルに当たることなく、地面に突き刺さる。


 ここでようやく、誰が止めたのか理解する。顔を上げると、エバルのすぐ近くにローセントが立っていた。


「こんな男のために、リゼットを見殺しにするんですか? ルベリア嬢」

「お、おおお前は……『赤星の剣』の副長か!? た、たた助けてくれ、あの女がいきなり襲ってきたんだ!」


 ローセントの足元に張り付くエバルの姿は、情けないを通り越してもはや何の感情も湧いてこない。

 今は、殺すのを邪魔された怒りのほうが勝っている。


 しかし、ローセントは冷静な口調で続ける。


「ここに、黒ローブの仲間たちが向かっています。ギルド長が──」

「おーーい! 俺を無視するな!」

「うるさいですね!」


 ローセントがそう言うと、エバルの頬を蹴り飛ばした。

 彼の体は、地面を数メートルほど転がる。こちらを見つめる目は、白目を剥いていた。


「あなた程度に構ってる暇はないんですよ」


 それだけ言うと、モノクルをかけ直した。彼が手に持っている懐中時計の蓋を閉じる。

 すると、転がったエバルの周りに半透明な時計盤のようなものが浮かぶ。どうやらローセントの魔法が発動したようだ。


「あなたはそこで大人しくしておいてください。いずれ、適切な裁きがくだるでしょう。それよりも──」


 ローセントはルベリアへと向き直る。


「黒ローブの仲間たちが向かって来ています。それをサミュエルが、ギルド員を統率して止めています。私も拘束役としてそれに加わらなければなりません」


 彼が冷静に淡々と現状を告げる。

 その間に、洞窟から大きな声が聞こえてくる。それはこの世のものとは思えないほど、不気味な叫び声だった。


「あなたは、リゼットを助けるのでしょう?」


 ローセントの問いに、ルベリアは頷く。


「だったら、ここでこんな男のために立ち止まっている暇はないはずですが?」


 その言葉に、ルベリアは頷くしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ