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第十八話

 目の前の男を見やる。

 彼は、数ヶ月前、ルベリアに勝負を挑んで負けた男だ。それから、パーティに無理やり加入して、あれやこれや指図してくるようになった。

 正直な話、ルベリアはエバルを一度も認めていない。放っておいたのも、話が通じないのが面倒くさかっただけだ。


 でも、その面倒くさがりが、リゼットをさらに追い詰めることになった。自分の不器用さも相まって、彼に嫌な思いをさせてしまった。


「ルベリア、よかった。また、俺とパーティ組もう! もう、他の邪魔者はいない。俺たちなら、冒険者で一番強くだって慣れる!」


 彼の言葉はほとんど聞いていない。代わりに、剣を握り直した。


「自分一人でなればいい。私やリゼットを巻き込まないでくれる?」

「何言ってんだ? 栄誉がすぐそこにあるんだぞ? 俺たちは組むために出会ったんだ。俺と仲間になるのはメリットしかないだろ?」


 この男は何を言っているのだ。話が通じないどころではない。

 これほどまでに気味の悪い人間がいただろうか?


「残念だけど、もうあんたとは金輪際関わらない」


 血のついた剣を払い、ルベリアは鞘にしまった。

 エバルの顔から視線を外し、そのまま洞窟に向かって歩き出そうとした。


「何言ってんだ? は? なんで、拒否るんだよ?」


 彼の困惑した言葉には答えない。立ち尽くすエバルの横をすり抜けた。

 

「そんなこと、許されると思ってんのか!?」


 後方から殺意を感じた。ルベリアは鞘から剣を抜きながら振り返る。

 金属音が鳴る。火花が散る。

 彼女の握る剣と、エバルが振り下ろした剣が甲高い音を鳴らす。


 振動は、そのままルベリアの手を伝って肩へと到達した。


「……私は、最後のチャンスを与えたつもりだったんだけど?」

「最後のチャンスだ? 与えてんのは、俺だ! 一緒に上を目指せるっていうのに、なんでそれを棒に振るんだ!?」

「……どうやって上を目指すの? リゼットを追い出したくせに」

「ここでなんであの雑魚の話になんだ!? あいつが足を引っ張ってるから、俺らのパーティーはてっぺんを取れなかったんだろ!」


 ルベリアが剣を弾き返す。大きくため息をついて、エバルを見やった。


「本気で言ってるの?」


 眉根を寄せて、エバルの愚かさにはほとほと呆れる。この男は、根本的に何も見ていない。自分のことしか。


「あんた……──お前の実力は精々Bランクが良いところ。私だってAに届くか届かないくらいだわ」

「……頭おかしくなったか?」

「おかしくなってない。おかしくなったのはあんたよ。リゼットの補助魔法にどれだけ助けられたか分かってるの? すべて、自分の力と勘違いしてたの? してなかったら、リゼットを追い出すなんて発想にはならないもんね」

「……違う違う違う! お前、何言ってんだ!? 俺の力がリゼットの力なわけ無いだろ!」


 まだ気がつかないのか。

 しばらくパーティを抜けて、いつものように戦えなかったりしなかったのだろうか。


 いや、彼のことだ。きっと、リゼットに心を乱されたからおかしくなったと他責で納得していたのだろう。


 洞窟の奥から響く奇妙な叫び声に、ルベリアの心の焦りが増す。一刻も早く、リゼットの様子を見に行きたいのだ。しかし、それは目の前の男が簡単にさせてくれるとは思えない。


 初め、ルベリアが彼に手を下すつもりはなかった。

 自分も悪かったから。裁く権利がないと思っていたから。『赤星の剣』や治安局が彼を裁けばそれでいいと思っていた。


 しかし、邪魔をするというのなら、仕方ない。


 心頭滅却。すべての音が遠のく。焦りは心の奥底に沈んだ。


 エバルが体勢を立て直した。彼の顔には、力付くでも言うことを聞かせてやると書いてあった。

 他人の力を借りずとも、自分で上を目指すという考えに至らないのだろうか。


 ……考えても仕方ない。終わらせる。


「俺の言うことさえ聞いておけば、良かったんだ!」


 その声は、ルベリアの耳を掠めた。そして、変動することはない。


 エバルは下から斬り上げる動きだ。それに合わせて、ルベリアは剣を振る。

 打ち合い、甲高い音が反響する。ギチギチとなる金属音は、まるで悲鳴のようだった。


 力押しのエバル。一方、ルベリアは体勢を後ろに引いた。

 彼の持つ剣の上を滑るように、剣身を掠めていく。


 懐に入る。エバルの体は隙だらけだ。


「はぁっ!」


 ルベリアが短い掛け声を出した。相手の脇腹を深く抉る。

 血が飛んだ彼は、低いうめき声を漏らした。


 しかし、ルベリアの攻勢は終わらなかった──苦渋の表情を見せるエバルに向かってさらに剣を振る。

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