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第十五話

「おいおいおいおい、奇遇だなぁ〜!」


 その半笑いの男の声に、リゼットは肩を震わせた。宿屋の前で待っていたのは、見知った顔である。

 エバル──リゼットに対して、ルベリア以上に辛辣だった男だ。

 そして、彼の後ろからひょこっと顔を出したのは、キネノである。彼女もエバル並ではないにしろ、リゼットのことを嫌っているだろう。


 今さら何をしに来たのだ。久しぶりと言っているが、彼がこの宿にリゼットが泊まっていることは知っているはずだ。

 つまり、たまたまを装って、待っていたのだ。


 ルベリアにはある程度言い返せたリゼットも、彼の前では縮こまってしまう。エバルは気にすることもなく肩に手を置いてくる。

 

「今から魔物討伐にいかねぇか?」


 どういうことだ。彼が依頼に誘ってくるなんて──


 エバルの後ろにいたキネノの方に視線を向けた。彼女はふいと顔をそらす。


 絶対何かある。それは察することができた。

 何故、ルベリアといいエバルといい、方って置いてくれないのだろうか。もうパーティ抜けたのだから関係ないというのに。


 ビクビクしていると、彼が肩を擦るように触ってくる。そのヤラシイ手つきは、背筋に虫が這うようだった。


「な、俺たちも追い出されたんだよ」


 そういえば、ルベリアはパーティを解散したと言っていた。つまり、彼らも根無し草になったということだ。

 

「追い出された者同士、仲良くしようぜ?」


 よく言うよ。どこに数日やそこらで態度を反転させるやつがいるのか。

 エバルの言葉は嘘だと警鐘を鳴らしていたが、体は逃げることができない。


 掴まれている肩に感じる力が、リゼットの心の奥底まで握られているような感覚だ。


「だったらさぁ、ルベリアを俺たちで見返さないか? よく考えたら、お前も補助魔法使いとしてそれなりには役立っていたからさ」

「あ、あはは……ありがとう」

「一からメンバーを集めるより、見知った顔で組んだほうが安心感もあるだろ?」


 足の裏がジリっと音がする。

 体が動かない。ただ、目の前の宿屋に入ってしまえばいいだけなのに。


「ほら、今からでも行こうぜ。依頼は俺たちで見繕って来てやったから」


 まごまごしているうちに、エバルに連れられていく。どんどん離れていく宿屋を、リゼットはチラチラと振り返っていた。


「アホにゃ」


 少し間をおいて歩いてくるキネノが、ぼそっとつぶやく。彼女は耳を垂らし、尻尾を垂らしていた。

 キネノは興味なさそうに大きな欠伸をすると、気怠そうに後ろをついてきていた。



「いやぁ数日ぶりくらいなのに、久しぶりな気がするなぁ」


 街を出て東の森。その奥に、ゴブリンキングが住み着いた洞窟があるらしい。

 それを倒してこいという、簡単な依頼だとエバルは言っていた。


 ゴブリンキングはリゼット自身も何回も見たことがある。確かに通常のゴブリンよりも強力な個体ではあるが、危機感を覚えるほどではない。

 ゴブリンの群れの長となったものは魔力の巡りが良くなるということで、定期的に現れる魔物だ。

 変異種、という扱いにはなっているが、条件が条件なために希少性も薄い。


「ま、新始動ってことで、簡単な依頼にしといたぜ」


 森の入口で、エバルは親指を立てた。その胡散臭い笑顔からリゼットは視線をそらす。


「なんだよ、俺がお前のためを思って選んでやったんだから、感謝くらいしろよな」


 そう言って、馴れ馴れしく肩に手を回してくる。


 距離感の近さに鳥肌が立ち、杖を握る手に力がこもる。それでも、リゼットは愛想笑いを浮かべることしかできない。


 森の中から聞こえてくるのは、動物や葉擦れの音。それに混じって、魔物の声も聞こえてくる。鬱蒼という言葉が、これほど似合うところはないだろう。

 しかし、そんな森に恐怖感はリゼットにはない。


 理由は単純、何回も依頼で訪れているところだからだ。他にも別依頼の冒険者と出会ったりするため、死ぬほうが難しい。

 エバルが優しめの依頼といったことには嘘はないようだ。しかし、それが逆に不気味さを作り上げていた。


「ほら、ここから俺たちの新たな一歩が始まるんだ」


 リゼットから離れたエバルは、大仰なジェスチャーをする。


「喜べよ、な? 笑えよ、な? またランク最高を目指そうぜ。オレたちならできる、な?」


 その言葉に首肯はできない。求めるような視線に、リゼットは顔を背けた。


「今日だけ、今日だけだから」

「おいおいおいおい、釣れないなぁ。まだ怒ってるのか? いい加減忘れろよ」


 怒ってるとかではない。信用ができないのだ。

 その言葉がリゼットの口から出ることはなかった。

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