第十三話
ギルド員が止めようとしたのを無理やり突破して、リゼットは建物の外に出た。太陽の光がすごく眩しく感じる。目をすぼめて、息をつく。
自分が殺人容疑をかけられたせいか、町の人たちが皆こちらを見てる気がした。ヒソヒソ声も耳につくような気がする。
すべての人間が敵に見えるというのは、こういうことを言うのだろうか。
それもこれも、自分が無能なせいだ。その結論はきっと他人から見れば飛躍していると言えるだろう。しかし、リゼットからすれば“自分に言い返せるほどの力”があればという考え方になる。
結局、ルベリアの思い通りになっているのかもしれない。
──無能だと思うなら、もう放っておいてくれたらいいのに。
わざわざ手を回してまで、自分をどこまで貶めたいのか。どれほど無能を知らしめたいのか。
──そもそも、村を出てくるのが間違いだったのかな?
ルベリアに誘われて、外の世界に踏み出した。あのときは彼女の熱意に押されてリゼットは冒険者になったのだ。
当然、最初は二人ともボロボロだ。しかし、段々とその実力差はついていってしまい。いつの間にか、リゼットが足を引っ張る形になってしまった。
それでも、ルベリアに追いつこうと頑張った。その結果はどうだ。
エバルの追い出し発言で状況は悪化し、居場所がなくなってしまった。キネノにもいつも運ぶのが面倒くさいと言われた。
「はは……」
そりゃそうだよなと、乾いた笑みを浮かべる。
ただ、リゼットの心をごちゃ混ぜにする要因は他にもあった。
無能だと罵るならば、放っておけば良いじゃないか。それなのに、追放したあとまでも、ルベリアは関わろうとしてくる。そして、今度は人殺し扱いまで。
そこまで恨まれるような覚えはない。……いや、散々足を引っ張った腹いせなのだろうか。
考えれば考えるほど沼に落ちていく。自分を奮い立たせるように──
「クソーー!」
両手を上げて、リゼットは大きく叫んだ。
「──び、ビックリした!」
そんなリゼットの目の前で、肩を飛び上がらせた少女が一人。ルベリアがいつの間にか目の前まで来ていた。
服装は今朝のまま、つまりリゼットが吐いたものをつけたまま。そんなことを気にする様子もなく、彼女は額に大粒の汗を貼り付け、肩で息をしていた。その場で膝に手をついている。
息を整えた彼女は、顔を上げた。
「リゼット、勝手にいなくならないで心配したんだから」
「……なんで僕が君に心配されないといけないんだよ?」
「幼馴染が鼻血を流したり、吐いたりしたんだから当たり前でしょ? このまま狙われて殺されるんじゃないかと思ったんだから」
右手をギュッと胸の前で握りしめる。
その心配してましたという演技を見ると、嫌になってくる。人を散々いじめ続け、パーティから追い出してなおつきまとう。
リゼットを貶めようとする胆力は、さすがとしか言いようがない。
「──満足?」
そのリゼットの口から出た言葉は、彼からは考えられないほど低い声だった。
「……え?」
「追放して、それだけで飽き足らずつきまとって、さらには僕が人殺しと噂を流して……」
今はまだギルド内だけで処理されている。しかし、これが治安局へと渡ったら、リゼットの身は終わるかもしれない。
剣の扱いも魔法も長けたルベリア。一方、リゼットは身体能力も攻撃魔法も弱く、取り柄の補助魔法も大したことがない。どっちの意見を真に受けるかなんて、火を見るより明らかだった。
「僕の人生をなんだと思ってるんだ!? 君にそんなに迷惑をかけたのか!?」
「違う! リゼットは勘違いしてる! 私はあんたに自分の強さと危険性を知ってほしいだけ!」
「何を言ってるんだよ? 僕は無能だ。それは君が何回も僕に叩き込んだじゃないか」
事あるごとに否定され、怒られ、指示される。そのたびに、リゼットの中にあった小さな自信は削られていった。
今さら強い? そんなこと言われたところで信じられない。
リゼット・トリシティアという男は、無能で何もできない役立たずである。
それを認めるから、村におとなしく帰るから、黙って一人にさせてくれ。
「私は……私は一回もリゼットを無能だなんて言ってない!」
その言葉は──もちろん、リゼットには響かなかった。
「私は、リゼットを見てられないと言った。それは、あんたが自分の危険性を知らないから。少しでも扱い方を間違えれば、人死が出るから! だから私は気づいてほしかった!」
「何を言ってるんだよ……」
リゼットの瞳はもはやルベリアを捉えてなかった。
「最初村から出たときは、希望にあふれてたよね……」
それだけを言うと、彼はルベリアの横を通り抜ける。




