第十二話
「町中が見放題ってことはあれだろぉ? いつでもどこでも覗き放題ってことだろぉ!?」
唐突なサミュエルの宣言に、リゼットは目をぱちくりさせる。何を言っているのか分からないとでもいうように見る。
一方のサミュエルは、少し前のめりになりながら両手を上下に振っていた。
「ほら、着替えとかぁ!」
「……え?」
「寝てる姿とかぁ!」
「……えぇ?」
「お風──」
パチンという懐中時計が閉まる音とともに、サミュエルの動きが完全に止まった。まるで時間が止められたかのように。
リゼットは何が起こったのかわからず、止まった彼のことを凝視した。
今まで聞く側に回っていたローセントが咳払いをしてから近寄ってきた。リゼットの向かいのソファに腰掛ける。
「……まったくセクハラですよ」
呆れたようにため息をついてから、ローセントが懐中時計を机の上においた。蓋の空いたそれは時計盤をリゼットのほうに向けていた。
懐中時計の針は〇時ぴったりで止まっている。
秒針は一秒を刻もうとして、また元に戻るを繰り返していた。
「でも、サミュエルの心配も一理あります。あっちは助平心でしたが」
ローセントの言っていることが分からず、リゼットは何も答えられない。
そんなリゼットを見てか、ローセントは軽いため息をつきながら上体を前のめりにする。
「例えば、もっと常識外れなことがあるのではないかという心配ですよ」
「じょ、常識外れ?」
本当に分かっていなさそうな声に、ローセントの瞳が僅かに開いた。しかしすぐに真顔に戻る。いや、微妙に口の端が吊り上がっている。
もしかして、自分の反応を楽しんでいるのか。
「そうですね、基本的に悪意をぶつけられないと見れないはずなのに、どこもかしこも好きに見れるとか」
「そ、それはありません!」
索敵魔法はその名の通り、敵を探し出す補助魔法だ。基本的にはこちらへ怒りなどの負の感情を向けられないと位置を特定できない。
それは常識であり、周知の事実だ。
「だそうです、ギルド長」
ローセントが机の上に置いてあった懐中時計の蓋を勢いよく閉じる。彼はそのまま右手で回収した。
「お、おう……。てかローセントぉ! 上司に向かってなんてことしやがるぅ!」
「上司だと主張するのなら、上司らしくしてください」
「う……そ、それを言われると何も言えねぇ……」
サミュエルは恥ずかしそうに頭を掻いてから、仕切り直すように腕を組んだ。
一度喉を鳴らしてから、リゼットの方に目を向ける。
「ま、殺人容疑の他に、覗きの容疑もかけないといけないところだったなぁ」
「……え、なんかどんどんと話が悪い方向に向かってる気がするんですけど」
「安心しろ、少なくともお前にかけられてる容疑は一つだけだぁ。黒ローブをどこで見たのか知る必要があったから、話は脱線したがなぁ」
改めて、彼は何故リゼットが呼び出されたのかを語る。
昨日の夜、酒場で黒ローブの一人が殺されたこと。それが、サミュエルの大剣で斬られたような形で死んだこと。
そして何より、それはリゼットの補助魔法が発動した結果であること。
「ちょ、ちょっと待ってください! サミュエルさんの大剣で死んだんですよね? だったらなんで僕のせいになるんですか!」
「その黒ローブは、死ぬ直前にあなたに呪術を飛ばそうとしたからですよ」
「なんで僕なんですか!?」
それは今調査中だと、サミュエルが付け加えた。その後すぐ、ローセントに続けるように促す。
「そこで本題です。あなたは、その呪術を受けて跳ね返したんですか? それとも──」
「知らない! 僕は本当に知らない!」
そもそも、狙われる覚えすらないのだ。
必死に首を横に振った。二人に訴えかけるように……。
部屋の中に沈黙が訪れる。
サミュエルとローセントがお互い確認するように顔を見合わせていた。
どちらとともなく、彼らは頷く。
「ま、大体ルベリア嬢が言っていたとおりだなぁ」
その名前が出てきたところで、リゼットは明らかに嫌そうな顔をする。パーティ内だけでなく、別のギルドにまで自分の悪口を言っているのか。
膝の上に乗せられた手を、握りしめた。
「……何を言われたか知りませんけど──」
リゼットの一段と低い声に、二人がこちらに顔を向ける。
「僕は悪いことは何もしてませんから!」
その宣言に、二人は少し驚いたような表情を浮かべていた。
リゼットは話を切るように立ち上がる。
「僕はこれで失礼させていただきます」
「……まだ話は終わってねぇぞぉ?」
「僕のほうはもう何も話すことはありませんから」
止めようとするサミュエルの声を振り切り、リゼットは踵を返した。




