第二話 ポイズンアンドホーリー
黒い車の中に、運転している男と、目隠しをして後部座席に座っている男の2人が存在している。だが、その空間には話し声すら聞こえない無音が広がっていた。
「はぁ。」
運転席で運転をしている黒のロン毛の男のため息が車内に響き渡る。
ため息の原因は、後部座席に座っている。いや、正確に言うと眠っている男であることは言うまでもない。
なぜなら、川名が車で迎えに行った時に阿黒賢一は203号室にいなかったからに他ならない。先週あれほどまでに迎えに行く時間を教えたのにもかかわらず、いなかったのだ、それから数十分探した後、なんと、101号室で眠っていたという。何故、101号室にいたのか問い詰めたら、101号室の気分だったからだそうだ。正直に言ってキレそうだったが必死に怒りを抑え、急いで阿黒賢一を車に乗せて、目的地に向かった。
しかも、阿黒賢一は悪びれもせずに、車に乗るなり眠くなったとかほざきだして、着いたら起こしてね。とか言って後ろでグースカ眠っている。この状況でため息が出ない方がおかしい。
「はぁ。」
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同時刻、別の黒い車の中に先程と全く同じ構図の男が2人いる。
「そういえば、君塚は自分の勝利を疑ってないんだな。」
後部座席に姿勢よく座っている白服、白髪に白い肌、更には眼までも白い男に言葉をはなった。
「当たり前ですよ。犠牲者が私に勝てるはずがありませんから。なんたってもう既に亡くなっているのと同義なんですよ。死者が生者に勝てるとでもお思いなのですか、佐藤さんは?」
「お前は本当にイカレてるな。」
君塚渉の担当になってからずっと思っていることを声に出す。
「私がイカレてる?冗談は余り好きではありませんよ。そんなことより、佐藤さん今日はしっかりと白いスーツじゃありませんか。」
「あぁ。苦労したよ。」
本当に苦労したよ。佐藤は白いスーツを着るための努力を思い出しながら声を絞り出す。
「やれば出来るじゃありませんか。佐藤さんのこと見直しましたよ。今回も黒かったらあなたはもうこの世にいなかったでしょうが。」
(だよなぁ。あの目はマジだったからなぁ。上司に頭下げまくった甲斐があったってもんだ。)
「次までには髪も白に染めましょう。」
どこまで俺を白くすれば気が済むんだよぉ。と佐藤は心の中で叫んだ。
●
「着きました。阿黒様。」
阿黒賢一が目を覚ますとそこは長い通路であった。
長い通路には赤いカーペットが敷き詰められており、通路の端々にはいくつもの扉が着いていた。そして、奥にはとても大きな扉がひとつあり、その目前に四角いゲートのようなものが存在していた。
扉の前に1人、ゲートの前にもう1人の計2名のスーツ姿の男達がこちらを向いてたっていた。
「それでは、阿黒様、奥に見える扉の前までお進み下さい。」
川名は片手で通路の奥にある大きな扉をさし示す。
「川名さんは来ないのかい。」
「はい。私たち担当は別室のモニターであなたがたを見させて貰います。」
「へ〜、そうなんだ。じゃ、行ってくるね。」
奥の扉に向けて歩いていく阿黒賢一に軽くお辞儀をしながら送り出す。
「はい。お気をつけて。」
担当と別れた後、阿黒は鼻歌を歌いながら陽気に奥の扉に向かう。
ゲートの前に立っている男が話しかけてくる。
「今から持ち物検査をします。阿黒様、金属製のものを全てこちらの箱の中に入れてください。その後、両手を上げてください。」
「わかった。」
そう言うと阿黒賢一は身につけている金属類を横にある箱の中に置いていく。
「これで全部だよ。」
阿黒賢一は身につけている金属製のものを全て箱の中に入れ終えた。
スーツ姿の男は懐から金属探知機のようなものを取り出す。
それで阿黒賢一の体の隅々までを調べていく。
ピー、ピー、ピー、ピー。
それからしばらく体を調べた後黒スーツの男が声を発する。
「問題ないようです。それでは、このゲートをお潜り下さい。」
阿黒賢一がゲートをくぐるとピコンという音が鳴った。
「それでは、このまま少しの間待っていてください。」
一分くらいが経過した時、2人の男のスマホがピコンという音を放つ。
「問題ないようです。それでは、どうぞお入りください。」
その言葉と連動しているかのように大きな扉が鈍い音を立てながら自動で開いていく。
完全に扉が開くと、阿黒賢一は軽い足取りで扉の先に足を踏み出す。
扉の先の大きな部屋の反対側にはこちらと同じ扉がひとつあり、中央には色の異なる2組の机と椅子が約2メートルくらい離れて、向かい合わせに設置されている。そして、その間に一人の男性が立っている。
特徴的なのが、2つの机の左側に高さ1.6メートルくらいの四角い機械のようなものが設置され、とてつもなく細いタンクのようなものが2つ機械からむき出しにされており、2つのタンクにはそれぞれ管のようなものが繋がっていた。
更にはそこらじゅうに小型カメラが設置されている。
「対戦相手の入場です。」
中央に立っている男がマイクを使って声を通す。
その言葉に反応して反対側の扉が鈍い音と共に開いていく。扉の奥には髪も目も服も靴もありとあらゆるものが白色の男がたっていた。
カツ、カツ、カツ。
ゆっくりとゆっくりと阿黒賢一の目の前まで歩いてくる。
「君が俺の対戦相手の君塚さん?」
阿黒賢一は手を君塚渉の目の前に差し出す。
「そうですよ。犠牲者よ。」
差し出された手を握る。君塚の手は血が通っていないと錯覚する程白く、そして、綺麗であった。
「犠牲者ってもしかして、俺の事かな。」
「それ以外誰がいるのですか犠牲者よ。」
「犠牲者とは酷いな。まだ俺は死んでいないのに。」
「犠牲者は既に死んでいるのです。ですが安心してください。私が慈悲を持って最後まで見届けてあげますから。」
お互いがお互いの目を覗き会う。奥の奥まで、全てを見透かしているかのような目で。
「把握した。」
君塚渉を前にして呟いた。
「それでは、役者が揃いましたので、始めていきたいと思います。まずは今回のギャンブラーの紹介です。今回が初挑戦の新参ギャンブラー、その実力はいかに、阿黒賢一。相対するのは、クオーターランク4連勝中の男、これに勝利すればハーフランクだ。純白に身を包む男、君塚渉。この2人には二億円をかけてギャンブルしていただきます。」
「そして、今回のゲームはこれです。」
四角い機械をマイクを握っていない手で指す。
「その名もポイズンアンドホーリー。まずは、ルール説明の前におふたりには椅子に座っていただきます。」
阿黒賢一と君塚渉がそれぞれの椅子に座った瞬間、両足と太もも更には腹部に拘束具のようなものが巻き付き、逃げられないように拘束される。そして、2つの管を用いり、左腕と2つのタンクを結びつけられた。
「いいですね。私の拘束具と机、椅子、機械、全てが白一色、あぁなんと美しい。」
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とある一室に大画面のモニターがひとつ、そして、ソファーに座りながらモニターを眺めている白いスーツの男性が一人存在した。
「あぁ。君塚用に全部白くしたのか、あいつ前にやったゲームで自分の椅子が白くないだのなんだの言って暴れだしたからなぁ。」
前のゲームのことを脳裏に浮かべながら独り言を呟く。
「阿黒賢一だっけか、あいつは災難だな。初戦からあんな化け物と戦うことになって。」
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「それでは、ポイズンアンドホーリーのルール説明をさせていただきます。あぁ。すみません。まずその前に自己紹介をさせていただきます。今回のゲームを取り締まることになりました。ゲームマスターの林と申します。」
白い手袋をした手を腹部の斜め前に置き、頭を軽く下げた。
「今回行うポイズンアンドホーリーはクオーターランクには珍しいレベル3のゲームでありますのでお気を付けてください。それでは今度こそ、ポイズンアンドホーリーのルール説明をさせていただきます。まずお2人には8枚のカードを配らせてもらいます。」
2つの机の中央が開きそこから8枚のカードが飛び出してくる。
「素晴らしいですね。カードも白とは、運営の方はわかってらっしゃいますね。」
傍から見ても嬉しそうなのが伝わる。
「お二人のカードは全て同じであり、1~6の数字が書かれたカードと聖杯と注射器が描かれたカードがそれぞれ1枚ずつあります。このゲームはA側とD側に別れて行い、まず初めにA側が四分間の間に裏でカードを机の上にあるくぼみにセットし、その後同じようにD側も四分間の間にカードをセットします。両者がセットし終えた後、カードをオープンし、数字の差×0.1mlの量の毒がD側のタンクに溜まります。これを1ターンといい、1ラウンド8ターンで構成されています。話は変わりますが、この毒は特別性でして、0.9mlまでなら人が死ぬ程の害を及ぼしません。ですが、1ml以上摂取してまうと、大変なことになってしまいます。運が良ければ助かるかもしれませんが。」
四角い機械からむき出しになっているタンクを指さして説明した。
「それをA側、D側交互にやっていき、手札を全て使い切ったらそのラウンドが終了となり、5分間の休憩の後、またお互いに8枚のカードが配られ次のラウンドが開始します。ですが、あのタンクにはメモリが10までしかありません。もし、タンク内の容量を超えてしまうとタンク内にある毒が全て自身の体内に入ってきてしまい死んでしまいます。それを防ぐのが聖杯と注射器のカードでございます。聖杯カードが出された場合、A側、D側関係なく相手の出したカードの数字に応じた聖水を毒のタンクとは別の聖水のタンクに流し込まれます。正確に言いますと相手が1.2のカードを出した場合は0.1mlの聖水が3.4のカードだった場合は0.2mlの聖水が5.6のカードだったら0.3mlの聖水がタンク内に溜まります。次に注射器カードです。注射器カードは出した瞬間に自身の毒タンクと聖水タンク内のものを全て体内に注入するカードとなっております。ただし、毒タンク内に毒がない時に使ってしまった場合、無条件で0.1mlの毒が注入されるので注意してください。」
「もしそのラウンドが終わった時、毒タンク内に毒が残っていた場合、次ラウンドに持ち越しになりますが、次ラウンド開始前にタンクを2つとも新しいものに交換してしまいますので、次ラウンドで初めて毒が自身の毒タンクに溜まった時、前ラウンドの毒もプラスして溜まります。聖水も同様です。この説明だけだと分かりづらいと思いますので、例えば、前ラウンドに0.2mlの毒が残っていたとします。そしてこのラウンド初めてのD側で相手が3のカードを自身が4のカードを出したとしましょう。本来この場合、0.1mlしか毒タンク内に毒がたまりませんが、今回は、前回の毒と合わせた合計0.3mlの毒が溜まってしまうというわけです。」
「これだけでは味気ないと感じた人もおられるかもしれないので、ここで少量のスパイスを入れたいと思います。それは、毎ラウンド終了時、お互いのタンクに0.1mlの毒が流し込まれるというものであります。まぁ、この0.1mlは次のラウンドに持ち越しになるのですが、」
「最後に勝利条件についてお話致します。勝利条件は、どちらかが死亡した時、続行不可能な状態になった場合、カードを時間以内に出せなかった場合敗北となります。最後に何か質問とかありますか。」
「じゃあ、いいかな。」
椅子に座っている阿黒賢一が手を挙げる。
「なんでしょうか。阿黒様。」
「前ラウンドに0.2mlの毒が残っていたとして、今回のラウンドで自身のタンクに何も無い状態で注射器を使用した場合はどうなるのかな。」
「はい。その場合、0.1mlの毒が体内に注入され、前ラウンドの0.2mlの毒は自身の毒タンクが溜まった場合にプラスして溜まります。」
「もうひとついいかな。」
続けて質問をする。
「なんでしょう。」
「両者が聖杯カードを出した場合ってどうなるのかな。」
「その場合、両者共に0.1mlの聖水が溜まります。ちなみに注射器と聖杯でも、同じよう0.1mlの聖水がたまります。」
「把握したよ。」
「それでは、これより『ポイズンアンドホーリー』を開始致します。」
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