第一話 ギャンブラー
カタカタカタという音が第4課の部屋の中に響き渡る中、カツカツという音が混じりながら聞こえてくる。
ポンポン
肩を叩かれた川名がパソコンに向けていた目を自身の肩を叩いた者に向けた。
「川名、課長が呼んでるぞ。」
(あぁ。例の事か。)
心当たりがあるのか、川名は文句も言わずにその指示に従う。
「わかりました。今、行きます。」
「川名、なにかやらかしたのか。」
さっき俺の肩を叩いた大柄な男が言葉を発した。
「そんなんじゃありませんよ。裏のやつですよ。」
「あぁ。あれか。頑張れよ。」
川名の返答で何かを悟ったのか先程までのふざけた態度を辞め、応援のメッセージを送った。
「頑張ります。」
パソコンを触っていたスーツ姿の黒のロン毛の男はパソコンを閉じ、課長のいる部屋に向けて歩きだした。
●
課長室に入るための扉の前につく。
普通の会社だったら課長室なんてありえないだろうが、あいにくここは普通の会社では無い理由は後で説明するとして、この会社は課長以上の地位の人には個別の部屋が用意されているのだ。
コンコンコン
扉を3回ノックすると中から声がかえってくる。
「入ってきていいよ。」
「失礼します。」
その声が聞こえたのと同時に大きな扉に手をそかける。
ギィー。
鈍い音と共に大きな扉がゆっくりと開く。
扉の先には大きな机がひとつあり、そこに腕をのせてこっちを見つめている。見るからに若い人物が1人いるだけの簡素な部屋が広がっていた。
「松村課長、私に何か用でしょうか。」
まぁ、要件はわかっているのだが、一応確認みたいなもので聞いてみる。
「例の話だよ。」
(やっぱり例の話か、それにしても、どうして課長クラスの人が俺にその説明をするのだろうか、もっと適任な人がいると思うが、まぁ、課長にも色々な事情があるのだろう。)
ここで、突然だが、何故俺がこの会社に入社したのかをお話しよう。
そう、あれは六ヶ月前のある日、お金に困っていた俺はインターネットで裏バイトというのを発見した。表のバイトよりも時給がいいもんで俺は裏バイトに飛びついた。その募集していた裏バイトが裏カジノ『ノワール』のバイトだったんだ。まぁ、俺はその後面接を受けに行き運が良かったのか分からないが受かって、『ノワール』でバイトをすることになった。『ノワール』でバイトを初めて二ヶ月がたった時に今の上司である松村課長にあったんだ。まぁ。そこから色々あって松村課長に気に入られて、バイト三ヶ月目で社員になれたってわけだ。
「君の担当するギャンブラーが決まったんだよ。」
さっきも言ったが、この会社は普通ではない。この会社は表向きは大手大企業だが、本当の目的は、裏で経営しているカジノもとい、裏カジノ『ノワール』を隠すために作られたらしい。だからなのか、課長という名を名乗ってはいるが、普通の会社とはまるでやることが違う。
「阿黒賢一。それが、君が担当するギャンブラーの名前だよ。」
言い忘れていたが、この会社が経営している裏カジノ『ノワール』のさらに地下に存在している人の命すらもかける場所、『ヴレ・ノワール』というものが存在する。『ヴレ・ノワール』のルールのひとつに『ヴレ・ノワール』のギャンブラーには必ず一人の担当がつくというものがある。
「ここに入る時に『ヴレ・ノワール』と担当についての説明をうけたよね。」
「受けました。」
そう『ヴレ・ノワール』にはいくつかのシステムが存在している。俺がこの会社に入社した時に受けた説明をしよう。
『ヴレ・ノワール』には三つのランクが存在している。クォーターランク、ハーフランク、フルランクである。これらの違いを説明する前にもうひとつ、レベルというものを説明しておかなければならない。レベルとは失うものの大きさを示している。レベル1ではお金だけを失う。レベル2で体の一部とお金を失う。まぁ、命までは失わずにすむ程度から、少し傷がつくくらいなど、失うものの大きさの格差が1番大きいレベルでもある。最後にレベル3は命を失う、本当に運が良かったら助かる場合もあるらしいが、ごく稀だそうだ。ここで話を戻すが、ランクの違いはそれぞれのレベルの%である。クォーターランクは、レベル1が70%、レベル2が25%、レベル3が5%。ハーフランクは、レベル1が10%、レベル2が65%、レベル3が25%存在している。フルランクは、レベル1が5%、レベル2が10%、レベル3が85%と別れている。
そして、ランクを上げる方法は2つ存在している。1つ目は同ランク帯で5勝すること、2つ目は上のランクの者に勝利すること、このふたつである。あと、これは予想出来ているとは思うが、上のランクのほうがもらえる報酬も豪華である。
これで、『ヴレ・ノワール』のランクシステムの説明は終わり、次は担当の説明をする。
先程も言ったが、ギャンブラー一人に担当一人がつく。ここで勘違いして欲しくないが、ギャンブラー1人に担当は1人だけだが、担当は複数のギャンブラーを同時に担当していることがある。まぁ、俺は初めてだから掛け持ちはしないが。ここからが大事だ。担当はギャンブラーが勝利するとボーナスが貰える。お金だったり、休暇だったり、物だったりなど色々なものだ。これはギャンブラーのランクが上がれば上がるほどボーナスも豪華ななってくる。だが、ギャンブラーが負けてしまうと、担当が罰を受けてしまう。給料が減らされたり、キツい仕事をされたりなど、色々だ。まぁ、もっと酷い時もあるみたいだが、だから、みんな自分の担当するギャンブラーが勝利できるように全力でサポートをするというわけだ。
「改めて、説明するけど、君が担当するギャンブラーはは阿黒賢一で、歳は君と同い年の26歳。それから、対戦相手の名前は君塚渉だよ。詳細な情報は後で送るから目を通しておいてね。」
「えっ。もう対戦相手も決まってるんですか?」
俺はとても驚いた。入社する時に受けた説明では、最初に担当することになったギャンブラーと顔合わせをして、『ヴレ・ノワール』について説明をした後、一ヶ月くらい間を開けてからギャンブルが始まるって聞いてたからだ。
「そうなんだよ。阿黒賢一がね。はやくギャンブルしたいと申し出を出してきてね。上がそれを承諾したんだよ。」
「そうなんですか。」
言いたいことは山ほどあるが、上が決めたことだ。逆らうことはできない。
「そうなんだよね。しかも、来週の水曜日だからね。」
「えっ。来週なんですか?」
またしても驚く。もうギャンブルが決まっていることは理解したが、川名が思っていたよりもあまりにもはやかった。
「上が決めたからね。まぁ。不満なのもわかるけど、理解してね。」
「わかりました。」
「それと、明日阿黒賢一に会ってきね。阿黒賢一の住所とか諸々、君のスマホに送っておいたから確認しておいてね。」
川名のスマホに阿黒の住所が送られてきた。
「阿黒賢一にはもう連絡してあるから、よろしくね。」
課長室から出た川名は深いため息を漏らした。
●
「本当にこんなボロアパートに住んでるのか?」
ついそんな言葉が川名の口から漏れる。
漏れるのも仕方の無いほど、ボロボロの二階建てのアパートが眼前に広がっていた。さらに、『ヴレ・ノワール』でギャンブルをする場合、最低でも5000万程かかるからである。
そんな思いを胸にしまい、ボロボロのアパートに足を踏み入れる。
「203号室だな。」
目的の203号室を目指し階段を登る。ボロボロの階段は、登る度にギィーという不快な音をだす。
(うわぁ。これ、崩れないよな。)
そのような不安が心の中に湧き上がってくる。
不安な気持ちを胸に抱きながらも2階に上がる。2階の通路も案の定ボロボロであり、銅色に錆びている廊下が縦に長く伸びていた。
階段と同様にギィーという音を立てながら203号室に歩みを進める。1歩、また1歩とゆっくりとゆっくりと、慎重に。
やっとの思いで目的の203号室の前についた。
扉の横に着いている鳴るのかもわからないインターホンを押す。
ピンポーン
どうやらインターホンは壊れていないようだ。
インターホンの音がなってから十秒も経たないうちに、ガチャ、という音と共に203号室の扉が開く。
部屋から顔を出してきたのは、黒髪で顔の整った目の赤い男であった。
「阿黒賢一様でお間違えないでしょうか。」
「君が川名さんか、よろしくね。さぁ、入って入って。」
妙に馴れ馴れしいなと感じながらも部屋に入っていく。
ボロボロのアパートにふさわしいく部屋もボロボロであった。
ボロボロの部屋の中央においてある丸いテーブルを挟み、2人は座る。
「ひとつ質問をしてもよろしいでしょうか。」
「なんだい。」
『ヴレ・ノワール』の説明をする前に、とある疑問が口から出る。
「どうして、このようなアパートに住んでいるんですか?阿黒様ならもっといい所に住めるはずです。」
「それはね。ここの大家さんに借りがあってね。そのお返しみたいな感じだよ。」
川名はそんな理由があったのかと思うのと同時にどんな借りがあるのかという新たな疑問がわいてでた。
「川名さんがここにきたのは例の事ででしょ。」
「あっ。はい。そうです。」
川名は自身が抱いた疑問を頭の端に追いやり、ここに来た目的を達成しようとした。
「それでは、少し場所を変えてからお話しましょうか。」
「どうしてだい。」
「これからお話することは他の誰かに聞かれる訳にはいきません。ここだと防音などが不安なので、私が用意した場所でお話したいと思ったからです。」
そう『ヴレ・ノワール』の情報は外部に漏れては行けないのだ。もし俺のミスで外部に漏れてしまったらと考えると、いや、考えたくない。
「それなら気にしなくていいよ。このアパートの全部屋全て借りてるから、このアパートには俺しか住んでないんだよ。」
「っ。そうですか、それでも漏れる可能性が無いわけではないので、私が用意した場所でもよろしいでしょうか。」
「わかった。それじゃ、移動しようか。」
●
完全防音の部屋に2人の男がテーブルをまたいで座っている。
「『ヴレ・ノワール』のルールについてはご存知ですよね。」
「把握してるよ。」
「それでは、対戦日時と対戦相手、賭け金について説明させていただきます。」
阿黒賢一は首を縦に振る。
「対戦日時は来週の水曜13時から、対戦相手はクオーターランクで4連勝中の君塚渉です。同日の11時40分に阿黒様のアパートにお迎えに行きます。賭け金は二億円になります。このうち、『ヴレ・ノワール』が30%を得るため、阿黒様が獲得するお金は、1億4000万円となります。」
「把握した。」
対戦相手が現在クォーターランクで4連勝中の男だと聞いたのにも関わらず、驚きもせず淡々と返事をした阿黒賢一を見て川名は少しひいた。
川名が対戦相手のことを課長から送らてきた時、課長室まで行き、必死に抗議をした。だが、対戦相手が変わることは無かった。
その後も細かいことを色々説明をしていく。一時間がたったくらいで、川名は全ての説明をし終える。
「それでは、他に質問などはありますか?」
「無いよ……。あぁ、楽しみだな。」
凶悪な笑みを浮かべる阿黒賢一に川名は軽く恐怖を受けた。
●
真っ白な部屋の中、唯一の黒を身に纏う男が声を荒らげる。
「おい。起きろ。次の対戦相手が決まったぞ君塚。」
真っ白ななベットに寝ている白髪の男に担当の佐藤が声を荒らげる。
「うるさいですねぇ。なんです?」
ベットに眠っていた男が体を起こし、自身のことを起こした担当の方に目をやる。
「だから、次の対戦相手が決まったんだって。」
「そうですか、それで、次の犠牲者は誰ですか。」
「犠牲者ってお前、」
「そういうのはいいです。何回目ですかこれ、」
「あぁ、すまない。対戦相手を犠牲者っていうのはお前が初めてでな。まだ慣れていないんだ。」
君塚渉の担当になってから三ヶ月強がたったが、未だに対戦相手のことを犠牲者と呼ぶこいつに慣れていない。それに、こんなやつだが、腕は確かだ、たかが三ヶ月強でもう四連勝している。これは驚異的な記録だ。
「謝罪なんていらないです。それで、次の犠牲者は誰です。」
「阿黒賢一という男だ。」
「それで、その犠牲者は今、何連勝中なんですか。」
「いや、今回が初めてのようだ。」
「それは災難ですね。もう彼の命は残り僅かということですか。一回も勝てずに死ぬなんて、本当に災難ですね。」
その言葉とは裏腹に君塚の顔は笑みに溢れていた。
「それと、佐藤さん。なんで黒のスーツなんです?白のスーツにしてきてくださいと前回も前々回も前前々回も言いましたよね。」
「こっちも前回も前々回も前前々回もずっと言ってるけど、担当の服装は決まってんだよ。俺の権限で変えられないわけ。」
「なんとかしてください。」
「だからできねぇんだよ。」
「次回までには白いスーツを身につけてきてくださいね。次はありませんから。」
佐藤を見つめるその目は、全てを見透かしているかのような不思議な感覚を佐藤に植え付けた。
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