第三話 罠
「まず初めにA側とD側を決めてください。」
「犠牲者が決めて良いですよ。」
余裕のある態度をとっている君塚渉が口を開いた。
「いいのかい。そんなに余裕ぶっていて。」
そうは言いながらも阿黒自身また、余裕のある態度をとっている。
「良いのですよ。私は慈悲深いのですから。」
慈悲のこもった目を阿黒賢一に向けなが答えた。
「それじゃあお言葉に甘えて、D側にしようかな。」
「それでは、君塚様がA側、阿黒様がD側で第一ラウンド開始です。」
その掛け声がした瞬間に君塚渉はなんの迷いもなくカードをセットした。
「悩まなくて大丈夫なのかい。」
「大丈夫ですよ。犠牲者相手に悩む必要なんかありませんから。」
「へぇ〜。君のその奢りに足元をすくわれないようにしなよ。」
「すくわれませんよ。」
「そうだね。すくわれないといいね。」
会話が終了するのと同時に阿黒は不敵な笑みを浮かべながらカードをセットした。
「それでは、カードオープン。」
ゲームマスターである林が宣言をしたのと同時にセットされたカードが机の中に存在しているであろうカラクリでガシャンという音と共に表にかえった。
D:阿黒賢一:2
A:君塚渉:1
「君塚様、Aにより、阿黒様のタンクに0.1mlの毒が溜まりました。」
この言葉の後、阿黒賢一のタンク内に毒が流し込まれていく。
「すくわれないと言ったでしょう。」
そう言う君塚の顔は到底白など似合わない悪魔のような笑みを浮かべていた。
「まだはじまったばかりだよ。足元をすくわれるのはもっと後かもしれない。」
「私が足元をすくわれることは一生ありませんよ。」
先程と同じような会話が2人の間に生まれた。
阿黒賢一が静かにカードをセットした後、面白いことを口に出す。
「さぁ、俺がセットしたカードはなにかな?」
その言葉を無視するかのように、その質問の答えが既にわかっているかのように、初めから自身のセットするカードが決まっていたかのように、君塚渉はカードをセットした。
「考えるまでもありませんよ。」
その言葉を口にした者の目には確信めいたものがあった。
「カードオープン」
その言葉と連動して先程と同じようにカードが表になる。
A:阿黒賢一:6
D:君塚渉:聖杯
ガシャン。
「なんと、これによって、君塚様のタンクに0.3mlの聖水が溜まってしまった。これは、阿黒様痛恨のミスか。」
今度は君塚渉のタンク内に0.3mlもの聖水が流れ込む。
「先程も言いましたが、あえてもう一回言いましょう。私が足元をすくわれることはありません。」
「じゃあ、俺ももう一回言おうかな、君は絶対に足元をすくわれるよ。」
またしても同じ会話が続く。
阿黒賢一は少しの間を開けた後、手に持っている6枚のカードの1番左にあるカードを場にセットした。
「犠牲者は、わかりやすいのですね。」
不敵で傲慢な笑みを阿黒賢一に向けながら、カードをセットした。
両名がセットしたのを確認した後、ゲームマスターである林が口をひらく。
「両者セットが完了しました。カードオープン。」
ガシャン。
D:阿黒賢一:聖杯
A:君塚渉:2
「なんと、阿黒様。聖水を0.1mlしか溜められませんでした。」
第一ラウンドはじめて君塚渉の毒のタンクに毒が注がれる。
阿黒賢一の読みが外れたのか、たった0.1mlしか聖水を確保出来なかった。
「犠牲者はこのゲームで命を落とします。ですが、悲しむことはありません。私が最後まで慈悲深く見守ってあげるのですから。」
君塚渉の言葉と同時に阿黒賢一がカードをセットする。
「俺はこのゲームで命は落とさないよ。それを証明するために君塚さんにひとつ質問をしよう。」
そう言った阿黒賢一は少し間をあけて続きの言葉を声にだす。
「俺のセットしたカードはなんだと思う。」
その問に対して君塚渉は阿黒賢一の目をずーっと、瞬きもせずに見つめていた。
「3ですね。」
君塚渉は探りを入れるかのように言葉を発する。
「3だと思うなら、3を出してみるといい。」
その言葉を聞いた君塚渉はなんの迷いもなく自身の手札に手をかけ、そのままカードをセットした。
「それでは、カードオープン。」
ガシャン。
A:阿黒賢一:3
D:君塚渉:4
「これにより、君塚様のタンクに0.1mlの毒が溜まります。」
今度は君塚渉が読みを外したのか、阿黒賢一がセットしたカードは3ではなく4であった。
「ほらね。君塚さんは俺には勝てないよ。」
「いいえ、犠牲者は負けます。」
お互いがお互い目を見つめ合う。全てを見透かしたような目で、全てを知っているかのような目で、お互いが見つめ合う無言の時間は、無言にも関わらずそれを見ているもの達に固唾をのませた。
「少し以外だね。」
無言の時間を破ったのは阿黒賢一であった。
「何がですか。」
「君塚さんが犠牲者の質問に答えたことだよ。てっきり答えてくれないのかと思ってたよ。」
「答えますよ。犠牲者には慈悲を持って接しなければなりませんから。」
「どうしてだい。」
「今日が犠牲者にとって最後の日だからですよ。」
「それじゃあ俺も君に慈悲を持って接しなければね。」
「その必要はありません。」
「必要だよ。なんたって今日、君塚さんは俺に敗北するから。」
君塚渉の目を見つめながら、手に持っているカードをセットする。
「そうなることが犠牲者の望みであるということはわかっています。ですが、残念です。犠牲者が私を負かすことは絶対に出来ません。」
「なぜ、そう断言できるんだい。」
「断言できます。犠牲者はもう既に死者なのですよ。死者が生者である私をどう殺すと。」
常人には理解でないであろうことを声にだす。
「俺はまだ死んでないんだけどね。」
その返答に君塚渉は首を左右にゆっくりと振る。
「いいえ、あなたはもう既に死者なのです。私と対戦が決まったその日からね。」
「やっぱりおもしろいね。君塚さんは、でもね、犠牲者が生者を殺せないと誰が決めたんだい。」
「私が決めたのですよ。私以外に誰がいるというのでしょうか。」
さも当たり前かのように話す君塚渉に別室でこのゲームを見ている川名は1種の恐怖のようなものを感じた。
阿黒賢一につづき君塚渉もカードをセットする。
「両者セットが完了したため、カードオープン。」
ガシャン。
D:阿黒賢一:4
A:君塚渉:3
「先程の君塚様と同様、阿黒様に0.1mlの毒がタンクに溜まります。」
阿黒賢一のタンク内に毒が溜まり終わった瞬間君塚渉が口をひらく。
「犠牲者が私に勝てないことを証明するために、先程のをもう一度しませんか。」
その提案に阿黒賢一は悩むことなくすぐに返答する。
「いいよ。次は当てられるといいね。」
その提案にニコリと笑って返した後、自身のことをずっと見ている君塚渉を気にもとめていないかのような軽い手つきでカードをセットした。
「君塚さん。俺のセットしたカードはなんだと思う。」
先程と同じような質問を阿黒賢一のことを無言で見つめている君塚渉に投げかけた。
「5です。」
阿黒賢一を見つめながら数字を口にする。
「5だと思うならセットしてみれば。」
「そうさせて貰います。」
前回と同じようになんの迷いなく、君塚がカードをセットする。
「カードオープン。」
ガシャン。
A:阿黒賢一:5
D:君塚渉:5
「これは、なんということだ。阿黒様、君塚様に毒を溜めさせることが出来なかった。」
先程とは違い君塚渉は阿黒賢一のセットしたカードをで当ててみせた。
「これで犠牲者が私に勝つことができないとわかっていただけましたか。」
そう言うと、阿黒賢一の言葉を待たずにカードをセットする。
「犠牲者よ。あなたは、注射器を出すつもりでしょう。残りのカードでわかります。はやくセットしてください。」
その言葉に導かれるかのように阿黒賢一はカードをセットした。
「カードオープン。」
ガシャン。
D:阿黒賢一:注射器
A:君塚渉:6
「おーっと。ここで初めて体内に毒が注入されます。」
ゲームマスターである林の言葉と同時に阿黒賢一のタンク内に溜まっていた毒と聖水が体内に流れ込んでくる。
ツー、ツー、ツー。
今、目の前で毒を体内に注入されている男を見ながら君塚渉は口を開く。
「毒はお辛いですか。」
「いいや、辛くないよ。」
「それは良かったです。」
君塚渉のその言葉には相手に対する嫌味は感じられず、本心からの言葉であることを阿黒賢一は理解する。
「次は私がくらう番ですね。」
2人が最後のカードをセットする。
「それでは、第一ラウンド最後のカードオープンです。それでは、カードオープン。」
林の高らかな宣言と連動するかのようにガシャンと音をたてながらカードが表になる。
A:阿黒賢一:1
D:君塚渉:注射器
「それでは、注射器が出ましたので、体内にタンク内のものを注入させていただきます。」
君塚渉もタンク内に存在している聖水と毒が体内に注入されていく。
「どうだい。毒を体内に注入される感じは、辛いかい。」
今度は阿黒賢一が同じ質問を君塚渉に対して行った。
「いいえ、辛くありません。」
「それは良かった。」
先程の君塚渉とは違い、悪意の含まれている言葉を投げかけた。
「これにて、第一ラウンド終了です。ラウンド終了時、御二方のタンクに0.1mlの毒が溜まります。5分間の休憩の後、第二ラウンドを開始致します。それまで体を休ませておいてください。」
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とある一室に大画面のモニターとソファーに座る黒のスーツを身にまとった川名がいた。
(今の戦況は、君塚が若干有利か。君塚は第一ラウンドで聖水0.3mlと毒0.1mlで相殺しているから、今体内に存在する毒は0ml、対して、阿黒様は、0.2mlの毒と0.1mlの聖水で体内には、0.1mlの毒がある。さらに、お互いに0.1mlの毒が次ラウンドに引き継ぎになっている。だが、まだ第一ラウンドだ。ここから全然巻き返しできるはずだ。唯一の懸念点としては、阿黒様のセットしているカードを君塚渉に読まれてしまったことだな。だが、一回目のやり取りでは君塚渉のことを騙せた。次のラウンドで君塚渉のことを騙せれば。)
川名が頭の中で第一ラウンドの出来事を整理し終える頃には第二ラウンド開始の合図がなろうとしていた。
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「それでは休憩も終わりましたので、第二ラウンドを始めたいと思います。第二ラウンドは、A側が阿黒様、D側が君塚様です。それでは、第二ラウンドを開始します。」
ゲームマスターの林が第二ラウンド開始の合図をしたのと同時に阿黒賢一が喋り出す。
「君塚さん。面白いものを見せてあげるよ。」
そういうと、阿黒賢一は自身の手札にある6のカードを君塚渉に見せる。そして残りのカードを一纏めにして机の上に置き、そのまま目の前でカード裏にして、セットをした。
「俺は6をセットした。君塚さんはどうする。」
そして、新しいおもちゃをもらった子供のような無邪気な笑みを君塚渉に向けるのであった。
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