第十八話 ネクスト
「本当にどこに行っていたんですか。」
川名の怒鳴り声が医務室に響き渡る。
「ごめんね。川名さん。」
「ごめんね。じゃないですよ。どれだけ俺が焦ったかわかりますか?」
あの電話があった後、俺は慌てて課長に連絡したが、既に課長も知っており、相当焦っていた。俺はその後、すぐさま医務室に向かい阿黒賢一を探したが一向に見つからず、ノワールにいないと判断し、朝まで地上を探す羽目となった。
それでも最終的には阿黒賢一を見つけることができず、朝にノワール帰るとなんと、阿黒賢一が医務室に帰ってきていたのだ。
聞いた話だが、俺が帰ってくる数分前に阿黒賢一が医療室に帰ってきて、電話で阿黒賢一が帰ってきたのを伝えようとした時、ちょうど俺が帰ってきたのだと。
「一体どこに行ってたんですか?」
「ちょっと飲みに行ってたんだ。」
「飲みにって、お酒をですか」
怒りの混じった声で阿黒賢一を問い詰める。
「そうだよ。」
「阿黒様はまだ、治療が完了していないのですよ。それを理解しているのですか。」
阿黒賢一に対しての説教が一段落つくと、ふと俺の中でひとつの疑問が生まれてきた。
「そういえば、どうやって外に出たんですか?」
そう、阿黒賢一はここに入る時眠っていた。だから、外に繋がる道なんてわかるはずもない。それに、医療室に運ばれる時も毒で意識を失っていたはず、だから、出られるはずがないのだ。
「実は俺、あの時眠っていなかったんだよね。」
「はぁ?」
川名から気が抜けたようなマヌケな声がでる。
「い、いや、でもあの時念の為に私が目隠しは付けておきましたよ。」
「でも、耳には何もつけてなかったよね。」
「は?」
またもや川名からマヌケな声がとびでる。
「聴覚さえあれば、どのくらいの速度で移動したか、どこで曲がったか、エレベーターで何階に降りたのか、おおよその予測はできる。あとは、それを元に考えれば、出口なんてすぐにわかる。」
人間わざでは無いことを平然とやってのけた阿黒賢一に川名は絶句する他なかった。
川名が次の言葉をだすのには、数十秒もの間があいた。
「それでも、医務室からゲームした場所までどうやって行ったのですか、まさか、気を失っていなかったとか、」
「気は失っていたよ。ただ、俺が気を失ったのは医務室に着いてからだけどね。まぁそれでも、運ばれている時は意識は薄かったよ。」
「そんな状態でゲーム会場までの道のりを覚えたんですか。」
「そうだよ。」
さも当たり前かのように話す阿黒賢一に川名はある種の恐怖を覚えた。先程までもっていた怒りが恐怖に塗り替えられるほどのね。
「そんなことより、次のゲームは決まった?」
「いえ、すみません。まだ決まっていません。」
「そうかぁ、残念。」
そこで阿黒賢一との会話は終了した。俺は、阿黒賢一が行った人間離れした所業を課長に伝え、この日は終了した。
●
阿黒賢一が脱走した事件から一週間がたったある日俺は唐突に課長に呼び出され、今まさに課長室の目の前にいる。
コンコンコン。
目の前に存在している課長室の扉をノックすると松村課長の声が帰ってくる。
「入ってきていいよ。」
ギィー
音をたてながら扉が開く。
「失礼します。」
課長室に足を踏み入れるなり、すぐさま、課長のいる机の前まで歩く。
「私に何か用でしょうか。」
「阿黒賢一の次の対戦相手と日時が決まったよ。」
松村課長から出た言葉に川名は心底驚いた。
「も、もうですか。」
普通ヴレ・ノワールでのゲームは多くても1ヶ月に1回くらいのペースでやるのだが、先のゲームから1週間ちょっとしかたっていないのにも関わらず次のゲームが決まったからだ。
「上からの命令だよ。」
「上っていったい誰からなんです?」
川名が今まで疑問に思っていたことがある。それは上とは一体誰なのかと言うことだ。阿黒賢一がヴレ・ノワールに入ることができたのも、こんな短期間でギャンブルを行えたのも全てに上の者が絡んでいる。これに疑問を持って何がおかしい。いや、おかしくない。
「それがわからないんだよ。」
松村課長からかえってきたのは予想外の言葉であった。
「僕も部長に上からの命令だからと言われていてね。」
ここで川名は理解する。上の者とは部長よりも上の役職の人だと。まぁ、当たり前なのだが。
この会社は普通の会社と違い、課長→部長→本部長→副社長→社長と普通の会社よりも役職がすくない。また、社長の上に統全様という意味不明な人が存在している。
(部長よりも上だということは、本部長、副社長、社長、統全様の中のどれかか。)
「そんなことより、対戦日時とかの話をしていいかな。」
「はい。」
これ以上、上の者の話をしてもしょうがないので、先程の続きの話をはじめた。
「対戦日時は来週の金曜日で、対戦相手の名前は真名慎太郎だよ。詳細は前回と同じく送っとくから見といてね。」
「また、そんなにはやいんですか。」
「ごめんね。これも上からの命令なんだ。」
「わかりました。」
課長室をあとにした川名は自分の机にかえるまでの廊下で数回でかいため息をした。
●
あれから一日がたち、今俺は防音の部屋に阿黒賢一と二人で座っている。理由は言うまでもないと思うが、対戦相手や賭け金の説明である。
「対戦日時は来週の金曜日の14時から開始しますので、12時35分頃に迎えにまいります。今回の相手はクォーターランクで二連勝中の真名慎太郎で、賭け金は前回と同じく2億となります。『ヴレ・ノワール』がそのうち30%を得るため、阿黒様の獲得する金額は一億四千万となります。」
「把握した。」
その後も前回と同様に細かい部分を説明していく。
「それでは、何か質問などはありますか。」
「何も無いよ。」
川名の説明を聞いた阿黒賢一の顔には笑みがこぼれていた。
●
ピンポーン
とある集合住宅の中に建っている一軒家のチャイムが鳴る。
ガチャ。
チャイムが鳴ってから数秒くらいで扉が音をたてて開く。
「やぁ、助手。」
探偵のコスチュームをしている茶髪の男性が家からあらわれる。
「助手じゃないです。私の名前は杉並彩ですがもういいです。」
黒髪ロング、黒スーツの女性は探偵コスチュームの男性からの呼び名に半ば諦めているようであった。
(それにしても、あんな帽子って売っているんですね。)
「おぉ。助手はこの帽子が気になるのかね、この帽子の名はディアストーカー帽と言ってね。いかにも探偵っぽいだろう。だから通販で買ったのさ。」
杉並が帽子を気にしていることを即座に理解したその男は自慢するかのように自身のかぶっている帽子を指さした。
「そういえば、助手は新車にしたようだね。」
「はい。」
「おぉ、今なぜわかった?という顔をしたね。なら教えてあげよう。」
聞いてもいない推理を話し始める。
「答えは簡単さ、匂いと右ポケットの膨らみさ。新車特有の匂いが助手から微かに感じ取れたのと、いつも車の鍵をしまっているポケットの膨らみが違うことからカギを変えたことが伺える。この2つをリンクされると、助手が新車にしたという結論が導き出されるというわけさ。」
そのような推理を披露した男は唐突に何かを思い出したかのような顔をした。
「立ち話もなんだから入りたまえ。」
男に言われた通りに杉並は家にあがる。
その家の中は、探偵ものの漫画や小説で埋め尽くされていた。
リビングに案内された杉並は用意されていた椅子に腰をかける。
「真名慎太郎さん。あなたの次の対戦相手が決まりました。」
真名慎太郎も杉並と対面するかのように配置している椅子に腰をかける。
「対戦相手の名前は阿黒賢一、現在クォーターランクで一勝をしています。」
「なるほど、阿黒賢一とかいう男は三連勝か、四連勝の相手に勝利をおさめたのか。」
まだ話していない阿黒賢一の情報を当てた真名慎太郎に普通は驚くところだが、杉並彩は驚かない。なぜなら前回も前々回も当てたからだ。
「助手ももう慣れてきたのか、驚かなくなってきたね。最初の方は驚いていたのに。」
自身の内心を当てられたことにさせ杉並彩は驚かない。なぜならいつもの事だから。
「だが、あえて、簡単な推理だけど、助手に何故僕が当てられたのか教えてあげよう。」
これもいつもの事である。真名慎太郎は自身の推理を相手に語る癖がある。これはギャンブルでも同様だ。だが、ギャンブルの場合は自身の勝利が確定した時に限り推理を披露する。
「助手が阿黒賢一のことを僕に話す時、小さな焦りが見て取れた。これはおかしなことだね。僕は二連勝、かたや相手は一勝、何故焦るのか、理由はひとつしかない。それは、相手が僕よりも上、つまり、三連勝か四連勝の人に勝利したからにほかならない。ね、簡単な推理だろ。」
真名慎太郎は洞察力が高く、推理力も高い、そして何より、生粋の推理オタクなのである。
「正解です。」
真名慎太郎の推理をかるく流し、続きの話をはじめる。
「対戦日時は来週の金曜、時間は14時からのスタートとなりますので、12時40分ほどにお迎えにあがります。今回の賭け金は二億円です。そのうち30%が『ヴレ・ノワール』の元にいきますので、真名慎太郎様の手元には一億四千万がとどきます。」
その後も細かい説明を真名慎太郎にする。
「最後に何か質問などありますでしょうか。」
「特に無いよ。さぁ、次はどんな推理ができるのか楽しみだ。」
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