第十七話 調査
ノワールとヴレ・ノワールに存在している資料室に一人の男がいた。
「これしかないのかぁ。」
その男の名は松村、何故資料室にいるのかと聞かれれば、先日ノワールで会った阿黒賢一について調べるためにほかならない。
ノワールで阿黒賢一の戦いぶりを見てついヴレ・ノワールに誘ってしまったが、素性も何も知らない、いや、何もでは無いか、名前と住所、電話番号や年齢などは知っているが、え?これだけ知っていて何も知らないは言い過ぎだって、いや、そんなことはない。
僕が知りたいのは、住所とかじゃないんだ。僕が本当に知りたいのは彼の過去なんだよ。
阿黒賢一の戦いをまじかで見ていたからそこ言えることだが、彼は絶対にギャンブル初心者でない。だからといって、中級者でもない確実に上級者だ。
彼は、普通なら見破ることの出来ないイカサマを見破り、そのイカサマを攻略したのだ。更には、対戦相手の獅子宗隆の心情や性格、全てをよみきり圧勝までしてみせた。
こんなことをやれるのは上級者だけだと僕は考えている。
だから、彼の過去、ノワール以外の裏カジノや海外に設置してあるカジノでギャンブルをしていたかどうかを調べるために課長以上しか立ち入れない資料室に足を踏み入れたのだが、どんなに調べても阿黒賢一がギャンブルした形跡を見つけることはできなかった。
しかもそれだけではなく、彼の過去も何一つわからなかった。資料室に阿黒賢一に関する情報がないことを知った僕は資料室を去ることにした。
ここでひとつの懸念点が生じる。それは、過去が何一つわからない不気味な男をヴレ・ノワールに入れることを上が承諾されるかどうかだ。
阿黒賢一をヴレ・ノワールに誘ったのは僕だ。だが、僕がもし上の者だったらこんな不気味な男は絶対にヴレ・ノワールに入れない。たぶん阿黒賢一はヴレ・ノワールに足を踏み入れることなないだろう。
だが、そんな予想と反して上から阿黒賢一をヴレ・ノワールに入れることの許可がおりた。
僕はこれにとても驚いたが、上の判断だ。と思い阿黒賢一をヴレ・ノワールにまねき入れた。
●
「これが、僕の知っている阿黒賢一の全てだ。彼の過去とかを期待していたようだが、それは僕にも分からない。」
「そうなんですか、松村課長まで、」
俺は松村課長から阿黒賢一様のことを知りうる限り教えてもらったのち、課長室をあとにした。
課長室から第4課にある自身の机に向かうまでの廊下を歩いている時に先程聞いた阿黒賢一のことを整理するため脳をフル回転させる。
(つまり、松村課長であっても阿黒賢一様のことは何一つ分からなかったと、松村課長が入った資料室は課長以上しか入れないかわりに裏カジノやカジノそれだけにとどまらず裏世界のほとんどの情報が保管されてあると聞いていたが、それをもってしてもわからなかったのか、本当にあなたは何者なのですか、阿黒様……。いや、それとも、まさか松村課長が嘘をついている可能性もおおいにありうるのか、なんたってあの資料室に情報がないなんて有り得るのか、それじゃあ、なんのために。)
そのような思考をしていると目的地の机にたどり着いていた。川名はまだ仕事があったため、一旦そのことは忘れ、仕事に集中することにした。
仕事をしている唐突に机の電話が鳴る。何事かと思いながら電話にでるとそこから信じられないような内容が聞こえてきた。
「阿黒賢一様が姿を消しました。」
●
深夜のとあるバーに一人の男性が座っていた。その男性は黒髪所々に白髪が混ざっているような髪色をしていて、オールバック、黒目であり、世間一般的にイケメンと呼ばれる類の人間であった。
「いつもの。」
その男の言葉を聞いたマスターは何も言わずに慣れた手つきでカクテルを作り始める。
そして作り終わると、何も言わずにその男に差し出した。
その男が特製カクテルを飲んでいるとカランカランという音と共にバーの扉が開く。
バーに顔を覗かせたのは黒髪、赤目の男であった。その男はそのままバーに足を踏み入れ、黒目、オールバックの男の隣に座った。
「久しぶりですね。阿黒さん。」
「いつぶりだろうね、柳倉さん。」
「そうですね。1ヶ月ぶりくらいですかね。」
「柳倉さんと最後に会ってから、もうそんなに経ったんだ。」
「時の流れははやいですね。」
「そうだね。マスター俺もいつもの。」
阿黒賢一の言葉を聞いたマスターはさっき柳倉につくったカクテルとまったく同じカクテルを無言でつくり差し出した。
それから阿黒賢一は柳倉とカクテルを飲みながら雑談に興じる。
「阿黒さんとこの頃全然あってないなと思いまして、久しぶりに会いたくなったんで、ダメ元でメールを送ってみたら良いとの事だったんで、いつものバーで待ち合わせにしたんですよ。」
「俺も久しぶりに柳倉さんと飲みたかったしね。」
「それは、嬉しいですね。そういえば、私達がであった日もこんな真夜中でしたよね。」
「そうだね。」
「あの時はこんなに仲良くなるとは思いもしませんでした。」
「そうかい。俺はなんとなく柳倉さんとは仲良くなれるんじゃないかと思ってたよ。」
「本当ですか?」
「本当だよ。」
「そんなにふうに思ってもらえてたなんて、とてもうれしいです。」
そんな話をしていると、あっという間に朝を迎えた。
「それじゃあ、俺はここらへんで帰るよ。」
「そうですか、私はもうちょっとここで飲んでから帰ります。また飲みましょうね。」
「そうだね。また今度。」
阿黒賢一はお金をはらい、バーから立ち去ろうとする。
「気を付けて帰ってくださいね。」
柳倉が今まさにバーから出ようとしている阿黒賢一の背中に向けて言葉を発する。
「わかってる。柳倉さんも気を付けて帰るんだよ。」
そう言いながら阿黒賢一はバーから姿をけした。
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