番外編 幼女無双
まばゆい光と激しい炸裂音、そして、聞き覚えのある少女のかん高い悲鳴。
無謀な突撃を敢行したクーリエ子爵と、今まさに襲いかかろうとしていた魔物達の間に割って入ったそれは、数体の魔物を弾き飛ばしてようやく着地―――? した。
「な、ななな、なんなのだ? なんなのだぁ、これは〜!?」
「か、閣下、落ち着いて下さい! ここは一旦お下がりを!」
凄まじい魔力の塊がぶつかって、小さなクレーターのようになった地面。尻もちをついたまま、混乱の極みにあるクーリエ子爵を彼の部下達が必死になだめている。
「けほっ、けほっ、ここ…、どこ? お父様は?」
可愛らしく咳き込む声に、戦場には場違いな小ぶりなドレス。立ちこめる砂煙から現れたのは、まだ小さい可憐な淑女だ。見間違える筈もないその髪色は、ユフィそっくりのプラチナブロンドで、困惑気味に周りを見つめる瞳は、私と同じエメラルドグリーン。
「リリア!?」
クーリエ子爵邸に居るはずのあの子が、どうしてここに!? 混乱する私をよそに、突然空から降ってきた愛娘は、自分の目の前に迫る魔物の群を目にした瞬間、小さな悲鳴を上げ、その細い右腕を振り上げた。
私にも見覚えの無い腕輪が光を放つ―――。
「いやああああぁぁ―――っ! 来ないでええぇぇ――――っ!!!」
リリアの腕から長い光の光線が一直線に伸びて、目の前の魔物とその向こうの森とを貫いた。そして、その光の光線をそのまま真横に振り切ると―――。
ザン――ッ!!!
次の瞬間、光線の延長線上いた全ての魔物が千切れ飛んだ! 身体を上下に切断され、下半身だけを地面に残し、上半身が勢いよく空を舞っている。その切断面は焼け焦げているのか、血や体液は流れていない。
超超高密度の光の熱線!? まだ本格的に魔法を習ってないから、やみくもに光の魔力だけを前に放つ、とんでもない力技だ! って言うか、あの子の魔力量多過ぎない!?
そ、それに、なんで魔力が暴走していないの!?
リリアの身体から漏れ出す光は、精霊からの魔力供給による聖女特有のものだ。魔力の器が不完全だと、身体には負荷がかかり続けて、魔力が溢れ出てしまい、その光はさらに強く眩しくなる。それこそ先日のリリアのように。
今のあの子の薄い光は、その魔力が安定している証拠だ。
「あの子、魔法の使い方はめちゃくちゃなのに、魔力だけは安定している。なんで?」
しかし、その魔法がめちゃくちゃだとしても、威力だけは絶大だ。ざっと見るだけでも約3分の1の魔物が討伐され、その魔法を警戒したのか、他の魔物達の動きも止まってしまった。
「「「うわああああああぁぁ――――っ!!!」」」
それを見たラピス公騎士団とクーリエ子爵軍の兵士達から歓声が巻き起こる。突然の光と共に現れた少女による、英雄譚のような活躍だ。リリアを見知っているラピス公騎士団は元より、クーリエ子爵の兵士達からも大歓声が上がっている。
そこに得たりとばかりにグスタフが声を張り上げた。
「魔物討伐の勇士達よ! このお方こそ公爵閣下のご息女、リリア・ラピス様である! かの大聖女クリスティーナ様の姪子にして、光の聖女ユーフェミア様の愛娘だ! そのリリア様が奇跡を起こされた! もはや我らの勝利は疑いなしだ!」
「「「うおおおおおおぉぉ――――っ!!!」」」
割れんばかりの大歓声に、この上なく士気が高まっていく。なぜここに幼女が乱入して、なぜ魔物を蹂躙したのか満載のツッコミどころは、グスタフの機転でうまく誤魔化せたようだ。
「このまま総攻撃を開始する! 本陣と右翼は前進っ! 左翼は、リリア様を救出した後、攻撃に転じよ!!」
「「「うおおおおおおぉぉ――――っ!!!」」」
勢いそのままに、本陣と右翼が総攻撃を仕掛ける。私の当初の戦術は、クーリエ子爵の愚行のおかげで、もはや実行が出来ない。この場の勢いを利用したグスタフの判断はさすがに的確だ。
「今のうちに、リリアを!」
先ずはあの子の保護が最優先だ。私はリリアの元に馬を走らせるが、それよりも先に左翼からの救出部隊が到着する。
「リリア様! ここは危のうございます。こちらへ!」
「あ、ありがとう。あの、お父様は?」
「ご安心ください。今こちらに向かっている姿を確認しました。直ぐにお会いになれます」
「本当ですか!」
遠目からも分かる、喜色満面の笑顔がやたら眩しい。今直ぐにでもあの子を抱きしめて、いっぱいいっぱい褒めてあげたい。
しかし、馬から降りて駆け寄ろうとした所で私は足を止めた。近くに魔物の気配を感じたからだ。
―――上から!?―――
空をあおいだ私の目に飛び込んで来たのは有翼の魔物だ。前世で言うところのガーゴイルのような風貌の魔物が2体。リリアとその周りの兵士達に襲い掛かろうとしている。
「リリアぁ! 他の者も伏せなさいっ!!」
「お父様!?」
言うが早いか、素早く魔力を練り上げた私は魔物2体に向かって、風魔法の暴風を放った。たまらず体勢を崩す魔物に続けざまに横合いから切りつける!
「はああああぁぁ―――っ!」
ズバッ、ズバッ! 上下からの斬撃が二閃! 愛用の剣が冴えわたり、2体の魔物が4つの肉塊と化して宙をを舞う。
「消し炭になれ!」
ゴオゥッ!! 最後に超高熱の炎弾で魔物を焼き尽くし、私は地上に着地した。いけない、咄嗟のことだったので空まで飛んでしまった。いつの間にか髪を束ねていた紐もほどけてしまっている。
「リリア、大丈夫?」
「あ…」
さすがに怖かったのか、リリアは声を震わせている。
「よく頑張ったね、後はお父様に任せて」
「あ、ああああ…」
私にすがりつくような視線が徐々に熱を帯びていき、その口から出た言葉は―――。
「アルティメット・クリスティーナぁ!!!」
ふへ?




