番外編 アルティメットなお父様
―――アルティメット・クリスティーナ!―――
白銀の鎧に、空いっぱいに広がる黄金の髪。緩やかに地上に舞い降りたのは、私が夢にまで見た姿だ。
「ええっと…、り、リリア?」
「聖女クリスティーナの最終形態! セントラル皇王から授けられた聖なる鎧を纏った神々しい姿! 間違いなく、アルティメット・クリスティーナです!!」
ど、どうしよう、興奮が抑えられない! 夢の世界の私はカードゲームとやらにも手を出していて、中でもSSRアルティメット・クリスティーナのカードは、私の宝物だったのだ!
「この鎧は…、お母様との結婚祝いに皇王陛下から頂いた物で、って、リリア、あなた中二病?」
「何で、お父様が中二病を知っているのですか!?」
あの不思議な世界は、私の夢の中での出来事だ。気になるのは、そこで遊んでいたゲームの内容が、この世界に似通っていると言う事だけど。その夢の世界で私の耳に馴染んた言葉を、どうしてお父様が知っているの? って言うか、何で聖女クリスティーナと同じ姿なの?
「ど、どうしてお父様が、アルティメット・クリスティーナのコスプレを?」
夢の世界では、こういった高度な姿真似をコスプレと言っていた。
「はあ…、リリア、その話はお家に帰ってから、お母様と一緒にしましょう。家族会議です」
「望むところです! 私、お父様に聞きたい事が山ほどあります!」
「ええ、お父様とお母様も、山盛りでリリアに聞くから」
「えっと、お母様も、ですか?」
「むしろお母様の方が凄いと思うから、覚悟しなさい」
「?」
なぜお父様だけでなく、お母様まで?
あの不思議な夢は、本当に単なる夢ではないのだろうか。
「とにかく、戦いが終わってからの事です。リリアはお父様の側にいなさい」
「は、はい!」
お父様は、私を自分の後ろに下がらせると、周辺の兵士に声をかける。
「そこの者達! 左翼部隊は私が直接指揮を取ります! 参謀は前へ!」
「はっ! 私であります!」
「急ぎ指示を出します! 一個小隊を魔物の群れ左側面に向かわせ、そのまま側面攻撃、タイミングは指揮官に任せます! 残った全軍は前進! 本陣の総攻撃に加わります!」
「はっ! 直ちに!」
お父様の陣頭指揮の元、左翼軍の総攻撃が始まった。魔物目がけて一斉に突撃した兵士達は圧倒的な数で攻め立てると、次々と魔物を討ち取っていく。そしてお父様の指示で動いていた別働隊が、側面攻撃を始めると、戦況はさらに一方的になった。
お父様の後ろ、そのマントを握りながら、私はただ呆然とそれを見ている。
「お父様、すごい…」
その後も戦いは討伐軍の圧倒的優位で進んでいたが、伝令の一人が慌てた様子で駆け込み、お父様の前で膝をついた。
「閣下! 魔物の新手が! 中級です!」
少し焦りを滲ませた伝令の指差す方向に、さっきお父様が倒したガーゴイルもどきが5体現れている。空を飛ぶタイプは珍しいのか、矢もなかなか当たらずに、苦戦しているようだ。
「先ほどの飛行タイプですね。あれには私が対応します。皆は目の前の敵に集中しなさい」
「はっ、し、しかし、ここからですと距離が…」
「問題ありません」
そう言って、お父様は魔物に向かって手をかざした。
キィンッ! 戦場を硬質な音が鳴り響き、空から討伐軍を翻弄していた5体の魔物全てが、光の球体に包まれてしまった。次の瞬間―――。
バチイイィィンッ!!
光の球体が中の魔物ごと弾け飛んだ! 空中に僅かな残滓らしき物だけを残して、5体の魔物は跡形も無く消え去ってしまっている。そのあっと言う間の出来事に、私は声を発することも出来ない。
えっ!? い、今の一瞬で!? ちゅ、中級の魔物って言ったよね? 確か、兵士10数人でようやく相手になれるって強力な魔物だったはず!? って言うか、この位置から!? 無詠唱で!? な、何に驚けばいいのぉ!? ふと私は、出発前のお母様の言葉を思いだす。
“あなたなら一人でも楽勝でしょうから”
あの時、お母様はさも何でもない事のように言っていた。冗談かと思っていたが、実際お父様は、剣の達人で魔法も規格外だ! 冗談でも、嘘でも、誇張でもない! お、お母様が言ってたのは、本当の事だったんだぁ!! こんなの本当にアルティメット・クリスティーナじゃないのぉ!! あんな少女趣味のお父様がどうして…、あっ――――――。
“せ、聖女クリスティーナは、男の娘だぁ!!”
どうしてこの事を忘れていたの!? そして、お父様は小さい頃から女の子として育てられたってぇ! えっ、で、でもクリスティーナ叔母様は亡くなっていて、お父様は男の方で、結婚もしていて、ああぁん、ややこしい!
気が付けば、魔物討伐は終わりかけていて、あちこちで勝ちどきの声が上がっている。その中には、お父様や私の名前を叫び、褒め称える声も上がっていて、私はお父様に抱き上げられ、それに手を振って応える。
しかし、私の頭の中はもはやそれどころではなかった。
―――一体、この世界、どうなっているのぉ!!?―――




