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番外編 聖女達のお茶会①

 ラピス公爵邸の一室に強固な結界が張られ、私達親子3人はそれぞれの席に座る。

 目の前にはお菓子や軽食が並べられ、添えられたティーカップからは、高級茶の良い香りが漂う、ちょっとしたパーティーのような感じだ。


“なんか、女子会みたい?”


 目の前に座るお母様は、目をキラキラさせてルンルン気分が隠せてないし、定番のご令嬢スタイルに身を包んだお父様は、もう深窓の姫君にしか見えない。(いや、姫じゃないんだけど…)


「それじゃあ、リリア、どうやって子爵邸を抜け出せたのかと、その、あなたの夢の話を聞かせてくれる?」 

「わかりました。お父様」

「それと、もう一つ」

「はい?」


 さも大事な事のように、お父様が言い含める。


「いい? 話すのが辛かったり、悲しかったりしたら、決して無理はしないで」

「は、はい?」

 

 これは、私の夢の中の話で、今までそんな悲しいとか、辛かった覚えは無い。お父様が何を心配しているのか、今一つ分からないままに私は頷き、これまでの出来事を語り始めた。


「私、あのお屋敷のこと、知っていたんです。って言うか、夢で見たんです。夢で見たゲームと言う娯楽の中に、クーリエ子爵邸の話が」

「ユフィは知ってた?」

「私は知らないわ、そんな話」

「あ、当たり前です。私の夢の中の話なんですから」


 お父様は、お母様が何かを知っているような口ぶりだ。と言うか、二人共ほんとに何か知ってる?


「そのゲームの中で、クーリエ子爵邸に聖女の腕輪があったのを思い出したんです。それで、探したら本当にあって」

「聖女の腕輪?」

「はい、私が身に付けている、この腕輪がそうです」


 私は自分の右腕に着けている腕輪を指差した。


「この腕輪が、覚醒前の不完全な聖女の魔力を制御してくれます」

「そうか、だから、あなたの魔力は安定していたのね」


 私の腕輪を見つめながら、感心したようにお父様が呟いた。お母様も驚いているが、同時に不思議そうに首を傾げて。


「こんな凄い魔道具、クーリエ子爵邸の人達は、知らなかったのかしら? リリア、これがあったのは何処だったの?」

「玄関ホールに飾ってあったタリス像の中です。ただ、選ばれた者しか手にする事が出来ないようになっていて」

「玄関ホールのタリス像? ああ、だからあんなに光っていたのね」

「え?」


 何気なく口にしたお父様の言葉に私は驚いた。だって、それは…。


「………お父様、タリス像が光って見えるのは、聖女だけです」

「あ…」


 しまったとばかりに口を噤むお父様だが、私の疑惑が確信に変わるのには充分過ぎた。


「お、お父様! やっぱり! 一体どういう事ですか!? クリスティーナ叔母様は!?」

「ちょ、ちょっとリリア、落ち着いて!」


 これが落ち着いていられるものですか! お父様が聖女で、男の娘なら、クリスティーナ叔母様はどうなるの!?

 私が興奮してまくし立てていたところ、一人落ち着いていたお母様が口を開いた。


「まあ簡単に言えばこうね。この席には現聖女の私と、聖女になったばかりのリリア。そして()()()()のお父様、3人の聖女がいるわ。もっとも男の娘を数に入れて良いのなら、ね」

「元…、大聖女…」


 わかってはいた事だけど、本人を前に告げられると、精神的な衝撃が半端ない。世の女性として最高の栄誉を極めた伝説の存在が、私の憧れが、まさかの男の娘で自分のお父様だったなんて!


「じゃ、じゃあ、亡くなった大聖女様は!?」

「世間を欺くための嘘よ。そうでもしないと、お父様は男の子に戻れなかったし、お母様とも結婚出来なかったから」


 いずれ男に戻るはずのクリスティーナは、聖女となり、あまりにも有名になり過ぎてしまった。公爵家はもちろん、ディアナ王室にも求婚の打診が途切れる事は無く、もはや有耶無耶の内に消し去れる存在ではなくなっていたそうだ。


「な、なんで、そんなに目立っちゃったんですか? お父様はバカなのですか?」


 我ながら身も蓋も無い事を言っているとは思うが、口に出さずにはいられない。お父様は渋い顔をして、お母様は口に手を当てて笑い出した。


「ふふ、リリアもそう思うわよね」

「一応、お父様も努力したのよ。殿方からは逃げ回ったし、寮や、学園ではお部屋や教室に閉じこもって、一目にもつかないように手習いばかりして。そしたら控えめで奥ゆかしい深窓の姫君にされちゃって」

「ああ、それで…」


 何事にも控えめで奥ゆかしい理想の淑女。大聖女の有名な逸話の正体はそれですか。


「お父様もですが、世間の殿方もずいぶんとお馬鹿だったのですね」

「お父様のバカは取り消してくれないんだ?」

「……可愛らしい、お馬鹿さんです」


 こうして改めて見ると、お父様は本当に可愛らしい。それがゲームヒロインの女子力チートだと分かってしまえば、ただただ納得するしかない。(女子ではないけど…)

 そしてその隣に座る光の聖女。私達の会話を優しく見守るお母様も、文字通り光り輝かんばかりの破壊力で、私はさっきから目が焼けそうである。

 付け加えるなら、顔を赤らめてもじもじと答えるしかない私も相当らしく、お父様とお母様の親ばかオーラも、席に着いた瞬間からだだ漏れだ。

 この空間に一般人が混ざろうものなら、秒で倒れるのでは? 私はこの女子会部屋に貼られた強固な結界に、心から感謝した。

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