番外編 聖女大集合②
見た目から想像もできない大声量を披露した私の推し2人は、今度は驚嘆すべきスピードで腰を屈めると、あっという間に私の目の前にその顔を並べた。
「く、クリスティーナ様! 何ですか、この完璧な美少女は!? 可愛らし過ぎます! はっ、ま、まさか天使!?」
「ああ、ユーフェミア殿下の御髪と、クリスティーナ様の瞳! 神々の御手で造られたとしか思えない可愛らしい小顔! あなたは女神様から生まれたのですか!?」
「ふ、ふぇ!? えっと…、お、お父様ぁ!?」
「2人共そこまで! リリアが困ってる!」
まくし立てるように幼女を褒め称える推し2人。すかさず助け舟を出してくれたのはお父様だ。
「はっ、ご、ごめんなさい! つ、つい…、セシリア・ファナ・セントラルと申します。初めまして、小さな聖女様」
「驚かせてごめんなさい、リリア様。マリーカ・ディアナですわ」
「は、はい、こちらこそ…、って、小さな聖女?」
まだ何も話してないのに、私が聖女だと秒でバレてる?
「ああ、私達見えるんです。精霊の愛し子特有の薄い光が、今もリリア様達を薄く包み込んでますよ」
「お二人のお嬢様ですし、まあ案の定と言いますか、予想通りと言いますか」
さすがは準聖女、見ただけで聖女が判別出来るのはさすがである。
「セシリア、それって初耳よ。そんな力があったら早い段階で、クリスの事もバレてそうだし」
「ご安心ください。これは卒業ダンスパーティの時に初めて気が付いた力ですので」
聞くところによると元々の原因は、皇都最終決戦でのお母様からの魔力供給がきっかけらしい。
「私達2人は光属性ではあるものの、とても聖女を名乗れる実力はありませんでした。ですが、皇都最終決戦の後からあり得ないほどに魔力が上昇したのです」
「おそらくではありますが、あの戦いの折に、ユーフェミア殿下から魔力を分けて頂いたことが原因だと思います。お二人には、本当に驚かされるばかりなのですが」
そのお陰で準聖女を名乗ってもおかしくない実力を備えたのだと、セシリア皇太子妃は恥ずかしそうに話される。しかし、戦乱の後の皇都の民を積極的に見舞い、救済と支援活動を続けたお二人の功績は素晴らしく、タリス、ルーン両教団は正式に聖女の称号を与えると宣言しているが、お二人共ずっと固辞しているそうだ。
「皇都最終決戦では多くの犠牲が出ました。夫に先立たれた妻や、父親を失った子共、さらには多くの負傷兵達…、聖女の支えはどうしても必要だったのです。ゆえに準聖女の称号は甘んじて受けましたが、正式な聖女となれば話は別です」
「私達は本物を知っているのですもの」
両妃殿下は頷き合い、お父様とお母様は苦笑しながら顔を見合わせた。
今さらに気づいてしまったけれど、なんとこの部屋には聖女と呼ばれる存在が5人も揃っているのである。私は脳内で聖女戦隊もカッコいいなと妄想してしまい、はしたなくも弧を描く口元を必死に抑えるのであった。
いけないいけない、またお父様に中二病と笑われてしまうわ。(否定はしないけど…)
そうしてドアの前でわちゃわちゃしていた私達はようやく席に着いた。
「それにしてもリリア様がこれほどの美少女とは…、皇都の殿方達の大騒ぎが目に浮かびますわ」
「私、この部屋に入った瞬間、女神の園に迷い込んだのかと思いましたもの!」
「その女神様の中に私は含まれてないのですよね?」
「クリスティーナ様、そうおっしゃるのであれば、その女神様のような装いは避けてくださいませ。私、瞳が焼けてしまいます」
席に着くなり軽口を言い合う男の娘と両妃殿下。いつものご令嬢スタイルのお父様は、女神に例えられた事が不満なようだ。
「そうですか、では皆様が言うところの男装に着替えてまいります」
「………クリスティーナ様、皇太子妃と王太子妃が、訪問先で揃って気を失う前代未聞の珍事を、国元にどう説明すると言うのですか?」
「そうですよ、クリスティーナ様にはご自身のお顔の危険性を自覚していただかないと」
「人の顔を凶器扱いするのは止めて下さい」
「3人共いいかげんにしなさい、今はリリアのための時間でしょう」
「「「はい…」」」
両妃殿下と元大聖女がくだらない言い争いをしているのを、お母様が呆れ顔でたしなめる。さすがにまずいと思ったのかセシリア皇太子妃は、顔を赤らめたままこほんと咳払いをして私に視線を向けた。
「お話しなら察しがつきますわ。リリア様が聖女であると公表するかどうかですわね?」
さすがセシリア皇太子妃は話が早い。私はそれにすかさず食いついた。
「私、大聖女になりたいんです!」
「え、そ、そうなんですか?」
「ええ、それなのにお父様とお母様に反対されて」
「それはそうでしょう」
「え!? セシリア様も反対なのですか!?」
どうやら聖女と名のつく方はこぞって反対のようだ。一体何で?
「では聞きますが、リリア様は大聖女となって何をなさりたいのですか?」
「そ、それは、お父様のように闇の勢力や、魔物と戦って民を守るのです」
「その後はどうされますか?」
「え? そ、その後?」
「戦い、勝利して全ての敵を倒した。その後は?」
戦って勝ってその後って? めでたしめでたしじゃないの?
「聖女であられた頃のクリスティーナ様は、かの名将ラルゴ元帥に一軍に匹敵する武勇と賞賛されました。一軍の兵は一万人ですから、クリスティーナ様のお力はそれに比するものと言われたのです」
「お父様、すごい…」
実際に皇都の最終決戦を経験したセシリア皇太子妃の言葉は、充分な説得力に満ちている。私が大聖女の話に呆然としているところ、マリーカ王太子妃が話を引き継いだ。
「お母様のユーフェミア殿下もすごかったのですよ。あの最後の戦いでは、傷ついた負傷兵約一万人の傷を、聖女の奇跡で全て癒してしまったのですから。万の兵に匹敵する武勇と万の兵を癒す力。奇跡のようなお二人がいてなお辛うじて勝てたのが皇都での最終決戦だったのです」
ゲームでは存在が明かされただけで、登場しなかった古の邪神。同じく存在しなかった筈の二人目の聖女と光の神々の降臨によって成されたのが、あの奇跡の勝利だったのだ。
「勝利の後、聖女は二人とも倒れました。ユーフェミア殿下はなんとか命を繋いだものの、もう一人の聖女であったクリスティーナ様は帰らぬ人となった。これが公式に記録され発表された内容です。実際はお二人とも生きていらっしゃった訳ですが、もしこの真実が民に伝わっていたら、どうなっていたと思いますか?」
「えっと、それは…、よ、よろこぶのではないですか?」
強大な闇に勝利した二人の聖女の存在は、その後の平和な世の象徴と成り得ただろう。事実、その片割れである大聖女の死に皇都は瘉える事のない悲しみに包まれたと聞いている。
「確かに多く者達は喜んだことでしょう。しかし、生き残った二人の聖女は、新たな争いの火種にも成り得たのですよ」
どこか寂し気に語るセシリア皇太子妃。マリーカ王太子妃も同様の顔をされている。
「な、なぜですか? 争いどころか、部屋に引きこもっては料理や裁縫ばかりしてる、ダメダメ父様ですよ!?」
「リリア、事実だけど、表現は柔らかくお願い」
「失礼しました、お父様」
テヘペロに応える私だけど、頭ではまるで納得出来ていない。国を、世界を救った私の憧れが、なんで疫病神のように扱われなければいけないのか。
私のこの憤りは、両妃殿下にもしっかり伝わったようで、セシリア皇太子妃は苦笑しつつも静かに語り始めた。
基本のキャラ設定、クリスティーナ=男の娘、ユーフェミア=腐女子、リリア=中二病。とても楽しい家庭です(笑)。




