↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/106

番外編 平和な日々へ

「最終決戦の後、古の邪神が封じられた事で、闇の教団は急激に力を失いました。闇の勢力は影を潜め、魔物の発生率さえ減少したのです。共通の敵である闇の脅威に備えていた各国の関係も良好で、戦乱の兆しもまるでありません。皆が待ち望んだ平和な世に向けて一気に世界が動き出したのです。しかしその上で、どうしても無視出来ない存在がありました」

「そ、それが、二人の聖女ですか?」


 私の言葉に、セシリア皇太子妃は小さく頷いた。


「お二人の力は強大過ぎました。なにしろ光の神々をその身に降臨させたこの世界の至宝です。邪神に対抗出来る唯一の存在であり、その邪神が封じられた今、お二人に対抗出来る存在はありません。人も、そしておそらくは国ですら…。先ほどクリスティーナ様のお力が一軍に匹敵すると言いましたが、訂正いたします。そのお力は国をも凌駕し、聖女二人がその気になれば、この世界ベルグリースを統べる事さえ可能であったでしょう」


 言葉を結んだセシリア皇太子妃が、その視線をお父様に向ける。お父様は軽くため意をついてから口を開いた。


「最終決戦に赴く前に皇王陛下から言われたわ。王になる気はあるのかと。ありませんと即答したら次の言葉はこうよ、では消えるしかあるまいってね。それでクリスティーナは死んだ事になって、私はクリスになったの。お陰でユフィと結婚できたし、リリアも生まれたから私は満足よ。とってもね」

「クリスと同じく私も満足よ、聖王国の初代国王と女王なんて冗談じゃないわ」


 手を振りながら話すお母様も心底嫌そうだ。それに笑顔で頷いたセシリア皇太子妃が改めて私に向き直る。


「いくら救国の聖女とは言え、全ての国と民に無条件で受入れられる訳ではありません。お二人がベルグリース統一を志したとしたら、決して少なくない血が流れたことでしょう。私は皇太子妃として感謝しなければなりません。ご納得いただけましたか、リリア様?」

「あ、新しい平和な世に、大聖女は必要なかったのですか?」

「そうですね、その時は正しい選択だったとしても、長い歴史の中で見れば国と言うのは荒れるものです。各国がしのぎを削る戦乱の世も来るかもしれません。大聖女の治める統一国家の方が賢い選択だったと思える事もあるでしょう。いずれ歴史が証明してくれます」

「歴史……」


 両妃殿下の話は壮大過ぎて現実感がまるで無く、私は上手く言葉を続ける事が出来ない。


「今現在、大聖女はいなくなり、ユーフェミア殿下は皇籍から離れて一貴族の令夫人となりました。クリスティーナ様の生存を知る者は、ラピス公爵家の方々を除けば、我がセントラルの皇王とディアナ王、そしてその王太子のみ。皆英邁な指導者であらせられます。その秘密は守られ平和は長く続く事でしょう。では、もしリリア様が自身も聖女であると名乗りを上げたならどうなると思いますか?」

「……大変な事になる?」

「そうですね、リリア様がお二人のお子様でなく、他家の血筋であればまだ大事にはならなかったのですが…」

「なぜ、お父様とお母様の娘である事が…、あっ…」


 そうだ、私自身も誇りに思っていた事だ。二人の聖女の血を受け継ぐサラブレットである事を!


「母子二人の聖女がいる事が公になれば、その娘は母のみならず、大聖女の血をも引いているのです。血統による聖女の誕生が約束されたとみなされてもおかしくありません。今後リリア様を娶ろうと各国は血眼になるでしょう。最悪、国同士の争いに発展するやもしれません。もし各国が一歩も引かぬ大きな戦となれば、それを治める為にこそ聖女による統一国家が現実味を帯びてくる事でしょう」

「そんなぁ…」

「我がセントラル皇国は聖女の末裔の国です。幼き聖女の御為とあらば喜んで兵を上げるでしょう」

「リリア様の生国であるディアナも同様ですわ。ベルグリース統一は意外と簡単に成されるかもしれませんね」

 

 長い話を終えた両妃殿下が私を優しく見つめ、居住まいを正したお父様が私に問いかける。


「大聖女になりたいと言うあなたに改めて問います。王になる覚悟はありますか?」

「ありません! あるわけないじゃないですか!」


 大聖女のオマケに付いてくるのが、統一国家の王の座なんて、完全にキャパオーバーだよ! 確かに私は中二病で人よりもおめでたい頭をしているが、出来ることと出来ないことの区別ぐらいはつきますぅ!

 私の言葉にお父様とお母様はにっこりと笑い、目を細める。


「リリアが賢い子で、助かるわ」

「うう…、壮大な話でごまかされた気がします…」

「あくまで可能性の問題だけど、あなたに婚姻の自由が無くなる事だけは確実よ」

「うひいぃ」


 情けない声でうなだれる私。うん、分かっていましたとも。覚醒した聖女の力と、蘇った前世の記憶なんてカッコよすぎると浮かれてはいたけれど、この平和な世界ではそもそも戦う相手がいないのだ。それどころか、婚活相手をバッサバッサとなぎ倒す未来しかないなんて、罰ゲームより質が悪いではないか。

 それに私はお父様とお母様を見て育ったのだ。当然、恋い慕う相手としか結婚したくないと思っている。


「……はい、わかりました。聖女の事を公表すのは諦めます」


 少し残念さを滲ませながらこぼす私に、お母様が不思議そうに話しかける。


「あら、残念がる事ないじゃない。幻の聖女、隠されし力、実は私最強でしたーっ! なーんて、いかにもあなた好みじゃない」


 “何それ、絶対カッコいい!!”


「そうね。剣術の才能もあるし、このまま鍛錬を続けていけば一流の剣士にもなれるでしょう。王家縁戚の貴族令嬢だから普段から強力な魔法を使っても問題ないわ。切り札や奥の手って最後まで取っておくものなのでしょう?」

「そう、そうなのです! さすがお父様とお母様、ちゃんと分かっているのです!」


 切り札、奥の手、隠されし真の力! 聞いてるだけで胸アツのワードに、私はテーブルに手を付いて立ち上がった。


「良かったわ、それじゃあ、この話はおしまいね」

「はい!」


 私は元気良く片手を挙げながら、大きな返事でそれに応えた。あれ? 何だろう、私、上手く言いくるめられた?

 ふと横を見ると、セシリア皇太子妃とマリーカ王太子妃が肩を震わせて笑いをこらえている。


「ふふっ、リリア様は本当にお可愛らしいのですね。クリスティーナ様、あのお話もなさって構いませんか?」


 ん? あのお話?


「う、う〜ん、そうね…。り、リリア、落ち着いて聞いてくれる?」

「はい、お父様?」


 珍しく言い淀むお父様。セシリア皇太子妃の含みのある言葉と言い、何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

 

 「さっきも話した通り、あなたの婚姻の自由については、お父様もお母様も全面的に賛成よ。でもあなたももう7歳でしょ、すでに何件も婚約の打診が来てるのよ」

「あっ! 私、たった今用事を思い出しました! 至急で緊急で、超特急です!」

「待ちなさい、リリア!」

「は、離してください! 私、まだそんなのには、欠片も興味ありません!」


 話を聞くなり全力で逃げようとする私の腕を、お父様が素早く掴む。

 

「何も直ぐに婚姻だとか、婚約だとかの話じゃないの! あなたに同年代の友達がいないから、セシリアとマリーカの子供達をって」

「やーっぱりそうじゃないですかぁ! 皇国にも王国にも確か王子様がいましたよねぇ!? 私と齢も近い筈ですぅ! お父様の裏切り者ぉ――!」


「きちんと話を聞きなさい! ちゃんと王女様もいるから! それでなくても、あなたと気軽に付き合える身分の子は少ないの! そんな調子(中二病)だと、いつまでたっても友達出来ないでしょ!」

「いいもん、友達なんて要らない! 私、一人だって生きてやるからあぁ―――っ!!」


 友達のいない中二病がいかにも言いそうな事を叫びながら、私はお父様の手を振り払った。そしてドアではなく窓に向かって駆け出すと、片手をかざし風魔法の風圧で両開きの窓を全開にする。

 呆気にとられるお父様達に構わず、私は勢いそのまま思い切り外にジャンプした!!


「「リリア!?」」

「「リリア様!?」」


 お父様達が口々に私の名を叫び、セシリア様達は悲鳴と共に目を覆った。それもそのはず、城と言っても過言ではない大きさと高さを誇るのがラピス公爵邸だ。紛れもない高所からダイブした私は、そのまま地面に落下するかと思われたが―――。


「飛べええええぇぇ―――っ!!!」


 私の叫び声と共に身体から眩い光が溢れ、私は空高く舞い上がった。


「やった、出来た! 奥の手成功ぅ!!」


 聖女の代名詞、飛翔魔法! 自室の天井に頭をぶつけそうになりながらも密かに練習していたのがこの魔法である。先の魔物討伐では上手く制御できずに暴走し、その挙句地面に激突してしまったが、今度は良い感じに成功できた。それどころかあのお父様を出し抜いたのだ! 

 一時的とは言え尊敬する父親よりも優位に立てたとあって、私の気分は最高潮である。空高く飛翔した私が眼下に公爵邸を見下ろしたその時、出し抜いた筈の慣れ親しんだ声が響き渡った。


「リリアぁ――――っ!」

「お父様ぁ!?」


 ふと屋敷の方を見ると、私の後を追って空を飛ぶお父様の姿が見えた。


「リリア、あなたいつの間に飛翔魔法を?」

「ふっふっふぅ、奥の手ですよ、お父様」

「はぁ… またそんな事を言って、魔力が尽きたら危ないから、早く降りなさい」

「嫌ですぅ、それよりも、お父様こそ大丈夫なんですか、スカートで空なんか飛んだりして?」


 淑女教育の完成形とまで言われたのが元大聖女のお父様だ。私の事を心配するあまり、後先考えずに飛んで来てくれたのは素直にうれしいが、これを利用しない手はない。


「関係ありません! 領主や元聖女としての矜持よりも、父親としての面子が勝ります! リリア、覚悟しなさい!」

「ふぇ!?」


 お父様からの予想外の返答。私がそれに動揺した瞬間、お父様は私の目の前に迫った!


「きゃあ!!」

「こら! 待ちなさいっ!!」


 お父様が伸ばした右手を間一髪でかわした私は慌てて距離を取るが、あっという間に至近距離まで迫られる。何これ、お父様速すぎるでしょ!


「待ちなさぁい! リリアぁ―――っ!」

「いやあだあああああああああぁぁぁ―――っ!!」


 私の情けない悲鳴が空いっぱいに響き渡る。

 公爵邸上空をドレス姿で逃げ回る公爵令嬢とそれを追う公爵家当主。一見すれば年若い姉妹がじゃれ合っているように見えるが、実際は姉妹どころか母娘ですらない。

 この珍妙な父と娘の追いかけっこはこの後半時ほど続き、それを見守る母親と高貴な賓客の苦笑を誘ったのだった。


 すったもんだの末、私の婚姻関係の話を一切持ち出さない事を条件に、両妃殿下の子供達と会うことが決まり、後日無事に初めての顔合わせが行われた。

 妃殿下の子供達はみんな普通に良い奴で、王女達とお茶会で楽しく談笑したり、王子達との剣術訓練では加減を間違えてボコボコにしてやったりもした。(もちろん後でこっぴどく叱られたが…)


 なんだかんだで私の周りは平和である。

これでこの話は一段落といたします。あまりに稚拙な作品に過分な評価ありがとうございました。アイデア自体は悪くないと思いますので、いつか大々的な加筆と修正で生まれ変わらせたいとは思います(一体いつになるのやら…)。またの機会をお待ちください。


新連載始めました。よろしければそちらもお付合い願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。