番外編 聖女達のお茶会②
「お、お父様もお母様も、あのゲームの事を知っているのですね? 私と同じ不思議な夢を見て、その中でゲームをやったことが」
さすがにここまで話を聞いていて、これが自分の夢の中だけの事とは思わない。
「リリアの不思議な夢の事は置いておいて、そのゲームを知っているのは確かね」
そう静かに答えるお母様と、その隣で頷くお父様。二人ともとても落ち着いていて、それに気づいた私もそっと息を吐き出した。
「それで、一体この世界は、何なのです?」
ゲームと同じようでいて、色々な所の違う不思議な世界。お母様は少し考え込んでから優しく話し始める。
「あなたが知っているゲームとは、違う未来を選んだ世界。クリスティーナが、どの攻略対象者も選ばなかった世界。 正直、私達もよく分かってないのよね。類似点があるだけの違う世界と思った方がいいのかも」
「その、攻略対象者を選ばなかったと言うのは?」
「ゲームでは、クリスティーナがいずれかの攻略対象者と結ばれるまでが物語よね? でもお父様が結婚したのは、お母様でしょ?」
「は、はい、でなければ、私は生まれてません」
「では、あなたの知ってるゲームの中で、お母様はどんなキャラクターだったかしら?」
「それが、よく分からないんです。ゲームの中では、聖女はクリスティーナ1人だけで、2人目の聖女なんて何処にも…」
ゲームの主人公クリスティーナの攻略対象は全員が男だ。私が生まれる要素は欠片もない。全ての攻略対象を差し置いて主人公と結ばれる強キャラなんて………。 あ…、一人いた。攻略対象どころか不名誉な二つ名を持つあの人物が!
「皇国第一皇女ユーフェミア…、あ、悪役令嬢です」
「はい、よく出来ました!」
手を叩いて喜ぶお母様。光の聖女の二つ名があまりにも有名過ぎて、悪役令嬢のあの字も出てこなかったよ!
「……お父様も大概ですが、お母様もずいぶんと好き勝手になさりましたね」
「その好き勝手の集大成がリリアよ。感謝してちょうだい」
迷いなど微塵も無い、輝かんばかりのドヤ顔を披露する光の聖女。
「そ、それは、もちろん、感謝してます」
シナリオ通りに進めば、むしろ私は生まれないの可能性の方が高い。もちろん感謝しているけど、お父様とお母様のハチャメチャぶりには驚くばかりだ。そして私にとって最大の懸念事項が一つ。
「念のために聞きますけど、お父様はどの攻略対象者も攻略しなかったのですよね?」
あのゲームでそれなりにBL要素は楽しんだけど、対象が自分の父親ともなれば話は別だ。あればファンタジーであって、実際にお父様と他の攻略対象者との絡みなど想像したくもない。
「ほぼ全員攻略したようなものだったわよ。アレクシスとは未だに仲がいいし、ねえ?」
「不潔です。お父様、近寄らないで下さい!」
「リリア!?」
お母様と言う素敵なお相手がいながら、し、しかも男同士でしょ!? な、ななな、なんて穢らわしい!
「あ、アレクシスとは飲み友達だから! 王都に寄ったついでに2人でお酒飲んでるだけで! ユフィ、変な事言わないで!」
「男同士の付合いって、BLありきで考えると卑猥に聞こえるから不思議よねぇ」
「お父様っ、穢らわしいです!」
「けっ…、そんなぁ…」
なんだろう、涙目でぷるぷる震えながら困っている様子のお父様を見ていると、無性にいじめたくなる。とにかく可愛らしいのだ。お母様の悪い癖が移ったのかもしれない。
「ふふ、この辺にしておいてあげましょう、お父様がいじけてしまうわ。それにお父様がお母様しか見てなかったのは、本当の事ですからね」
困り果てたお父様に、お母様が笑いながら助け舟を出す。私もなんだかんだ言いながらも、自分の父親の事はよく分かっている。この人は本当にお母様一筋なのだ。他の女性どころか男になど目移りする訳がない。
「さて、リリア、ここからが本題よ。真剣に聞いて頂戴」
「は、はい、お母様」
よほど大事な話なのか、そっと居住まいを正すお母様。お父様にも目配せをしている所を見ると、どうやら二人とも承知の事らしい。
「リリア、落ち着いて聞いて頂戴。お父様とお母様、そしてあなたも転生者なの」
「……転生者」
あの夢の世界でさんざん耳に馴染んだ言葉だ。そうか、これが有名な異世界転生と言うやつか、確かにこれならと色々と納得ができてしまう。
あれ? 気がついてしまえばこんなに分かりやすいのに、どうして私は初めから疑いを持たなかったのかしら?
「リリア?」
「いえ、何故こんな簡単な事に今まで気が付かなかったのかと…」
なんだろう、ただそれだけの事が無性に気になってしまう。
不思議に思いながらも私は自分の記憶を探ってみる。今まで見てきた夢の世界を思い描き、深く深く、もっとその先へ―――。
その夢の世界の奥深くに白い箱が見える。いや、四角い箱のように見えるそれは、小さな部屋のようだ。壁に小さな窓が付けられていて、外と思われる景色が広がっている。 その景色をみた瞬間、何かが軋む音がした。
“あれ?”
続けてずくんと鼓動が跳ねて胸が苦しくなり、私は反射的に胸を押さえてうずくまってしまう。
「「リリア!?」」
慌てて立ち上がったお父様とお母様が、私に駆け寄ってくれる。嫌だなぁ、そんなに心配しなくても、こんなの直ぐに治るのに。 あれ? おかしいな、上手く立ち上がれない。
「お、お父様、お母様、わ、わたし…」
「いいのよリリア、無理に思い出さなくていいし、話さなくてもいいの、もう今日のお茶会はお開きね」
「はい…」
お母様の優しい声を聞きながら、私は自分の意識が遠くなって行くのを感じる。疲れとも睡魔とも判別のつかないそれに身を任せて、私は意識を手放した。
薄れていく意識の中であの白い小部屋が見える。
白い小さな部屋。それはかつて私の世界の全てだった―――。




