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「それじゃあ、少し休憩にしようか」
僕は、ぜいぜいと息を切らしながら地面にぐでっと座り込んでしまっているミズホにそう声をかけた。
その言葉に、いよいよミズホは脱力し地面にばたんと横になる。
僕はというと、社の階段へと腰を下ろして座っている。
ここは、いつも僕が夕方のトレーニングに使っている学校裏の神社である。ただこれまでと違うのは、僕一人だけではなくミズホも一緒にいるという事だ。
FOLS本部へ行ったあの日、僕達はFOLSに入る事となった。
一応、夢の第一歩は叶ったという事なのだけれども、諸々の事情により、高校は卒業するまで普通に通う事となり、放課後などの空いた時間に訓練するという、今までとあまり変わらない生活をこの一週間は過ごしてきた。
ARUTOが攻めて来るなど、何か事件があれば駆り出されるのだろうけれども…。
とは言うものの、変わったものもある。さっきも言った通り、ミズホも共にトレーニングをしているという事だ。
その資質を買われてFOLSにスカウトされたミズホだけれども、まだまだ実力は一般人とさして変わらない。なのでその指導役として、元々知り合いだという事で、僕がミズホのトレーニングを見る事となった。
けれどもそれは筋力的なものだけで、アルドの能力の方はFOLS本部で他の人から教わっているそうだ。
ベータ曰く、
「あなたの能力は特異すぎて他の人に応用するのは困難なのよ」
との事だ。
確かに僕は元々低かったアルドを高めようと努めてきた訳で、元から自分の内にある能力を使いこなす方法なんて教えられる訳がない。
「やっぱり、エン、あなた怪物、だわ」
と、やっと息が整ってきて話せるようになったのか、ミズホが話しかけてきた。
「怪物って。ひどい言われようだなあ」
笑いながら答える。
「これだけ、動いても、そんな、余裕で笑ってら、れるんだから…有り得ない、わ」
「まだまだだよ。これでも、ミズホを見るようになってから、僕自身のトレーニング量は減ってるしね」
そう答えると、ミズホは何故か「うっ」と言葉に詰まる。
「どうかした?」
不思議に思い、問いかけると、
「あ、ううん、その、私、エンのトレーニングの邪魔に、なってるのかな、と」
呼吸は落ち着いた様で、横になっていた上体を起こして地面に座り直しながら、ミズホはおずおずとそう答えた。
「あーごめんね。そういう意味で言ったんじゃないから。別にミズホがトレーニングの邪魔なんて、これっぽっちも思ってないし」
僕のその言葉に、ミズホはほっとした様な表情を浮かべる。
「むしろ、楽しみが増えたって感じかなぁ~、うん」
僕がそう続けると、ミズホは何だか驚いた様子で聞き返してくる。
「楽しみって?」
「う~ん、何て言えば良いのかな。弟子の成長を見守る師匠の気分って言うのかな。ミズホに少しずつ体力がついていってるのが分かって嬉しいというか」
そう答えると、ミズホはやけにがっかりした様な表情で、
「そ、そっか…そうだよね」
と小さな声でそう口にする。
「ま、とにかく、これからFOLSで一緒にやってく仲間なんだから、ミズホにも強くなってもらわなきゃならないって事で。少し位、僕のトレーニング量が減っても全然問題ないよ!」
それに、夕方のトレーニングで減った分は朝のトレーニングを増やす事で補っているし。
「という訳で、休憩はそろそろ終わりにして、続き始めようか」
と、僕が立ち上がったところで、周囲にアルドの乱れを感じる。
これは――
視線をそちらに向けたのとほぼ同時。何もない空間から、一組の男女が現れる。
先に現れたのが、FOLSの制服を身にまとった長い金髪の少女。その後ろに、全身真っ黒の服で黒髪の男性。二人とも良く知った人物だ。
「ベータにカズヤ? どうしてここに?」
驚きの声をあげると、ベータはウインクで、カズヤは軽く手を上げて応じる。
ミズホも僕の声で二人の存在に気付いたらしく、立ち上がって手早くジャージに付いた土埃を払うと、
「こ、こんにちは!」
と何だかぎこちない挨拶をする。
そこでふと、ベータが僕達の上官であるという事に思い当たる。
FOLSに入る前ならいざ知らず、今はきちんと挨拶をした方が良いのかな。
そう思って頭を下げようとすると、
「エン君、気にしなくて良いわ」
僕の内心を読んだかの如く、タイミングよくベータが声をかけてきた。
「ミズホさんも、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。普通にしてくれると嬉しいわ」
とは言うものの、ベータの正体やら何やら知っている僕とミズホでは、感覚が全然違う。
FOLS本部で入隊の時に少し話しただけのFOLSのリーダーに、普通にしてと言われても出来るはずもなく、
「は、はい! 分かりましました!」
と、ミズホは変な敬語で返す。
それにしても、ベータとカズヤに会うのはFOLSに入隊して以来の事だから一週間振りである。
カズヤは何やらアームの調査があるという事で本部にこもりっきりだという話を聞いていた。
ベータの方は、シータとしてなら毎日学校で顔を合わせていたが、ベータとしてはあれ以来会う事はなかった。
そういえば、シータは今日一日学校を休んでいたが、何かあったのだろうか…?
「久し振りだな、エン」
カズヤが歩み寄ってきて、ぽんっと肩を叩く。
「そうだね、一週間振りだね。えっと、ベータも一応一週間振り…だよね」
ベータの事情を知らないミズホもいるため、曖昧にそう言うと、
「あはは、そうね。私ももっと出てきたいんだけれども、そうもいかないでしょ?」
笑いながら、楽しそうに答えるベータ。




