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タイムシェイパーFOLS  作者: 時野 京里
Encore

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ε2

「それで、今日はどうしてここに?」

 二人に僕が問い掛けると、ベータが答える。

「用が有るのは私じゃなくてコイツなんだけどね。カズヤはまだプレートが使えないから私が連れて来てあげたのよ。「私」としてエン君達に会いたかったってのもあるけどね」

 コイツ呼ばわりされ、軽くこづかれたカズヤは一瞬怒りが表情に表れた様に見えたが、平静を装う様にして、

「ったく、いつの間にか入れ替わってやがってさ。分かってたら他の奴に頼んだっての」

 と、この二人の関係は相変わらずなようで、思わず吹き出してしまう。

「笑うなっての!」

 すかさずカズヤが突っ込む。

「はは、ごめんごめん。相変わらずなんだな~と思ったらつい」

「あら、エン君が謝る必要なんかないわよ。カズヤは笑われて育つ子なんだから」

「んな奴いねえ! 芸人かよ!」

 ベータの茶々にも素直に反応するカズヤ。

 そういう所がからかわれるのだという事を、本人は気が付いていないんだろうな。

「それはそうと、カズヤの用事って何?」

 このままでは話が脱線し続けるだろうと悟り、本題へと話を戻す。

「ああ、そうだったな。えっと…」

 カズヤは何故か言葉に詰まると、チラッとベータへ視線を送る。

「ハイハイ、分かってるわ」

 ベータはそれで何か分かったのか、てくてくと歩き出す。その先には、

「ミズホさん、ちょっと私と二人でお話しましょう。女同士のお話を、ね?」

「えぇ? は、はい!」

 黙って僕らのやり取りを見ていたミズホは急に話しかけられ、明らかに焦っていた。

 けれども、神社の入口の階段の方へと歩いて行くベータの後へとしっかりとついて行く。

 そうして、二人の姿が段下に消えたところで、

「ま、とりあえず座るか」

 と、カズヤは社へと腰を下ろす。

 カズヤがベータに合図をし、ベータがミズホを連れて行った事から、カズヤは僕だけに何か話したい事があるのだろう。

 けれども、僕がカズヤの横に腰を下ろしても、なかなかカズヤは口を開こうとはしなかった。

 僕の方も特に何も口にせず、カズヤが話し出すのを待つ。

 沈黙の中、遠くからカーカーと烏の鳴く声がやけに大きく聞こえる。

 一分程の後、夕焼け色に染まった空を見上げながら、カズヤがやっと口を開いた。

「ここは、良い所だな」

 ぽつりと呟く様に発せられたはずのその言葉は、やけに大きく耳に響いた。

 カズヤは続けてゆっくりと話し出す。

「以前、少し話したと思うが、オレのいた世界はもっと荒んだ世界…ここの様に木々が多く生い茂っている様な場所はないし、かといって、エゾの様に整然と立派な建物が建ち並んでいる訳でもない。オレの住んでいた街だけが、という訳じゃない。世界全体が…そう、くすんでいた」

 何故カズヤがこんな話をし始めたのかは分からないが、僕は黙って聴いていた。わざわざベータに頼んでまで話しに来たのだ。何か重要な話に違いない。

「オレはそんな世界が嫌いだった。その中で、オレの唯一の願いは妹の仇を取る事。そして、ずっと奴を…ガルデルムを追ってきた」

 ガルデルムさんがスズさんの敵? この事は初耳だ。

 確かにカズヤとガルデルムさんの間には何とも入り難い、張り詰めた空気が流れているとは思ってはいたけれども…。

 だが、スズさんは生きていた。あの再会シーンも、その事があったからこそなのか。

「まあ、スズが生きている事は少し前に分かってたんだがな。まさか、ここに来て再会出来るとは思っていなかった。だが、今のオレには、それよりもずっと重要な目的が出来た」

 カズヤは空を、いやその先のここではないどこか遠くを見つめている。それはきっと彼女がいる所。

「あいつを…アイをオレは必ず見つけ出してやる。どこにいたって、どれだけ時間がかかったって、オレは決して諦めない。オレはあいつを……」

 だんだんと強い口調になっていた自分を押さえるかの様に、そこでカズヤは一度言葉を区切る。

「いつの間にか、あいつはオレにとって大切な存在になっていた。傍にいた時には気付かず、いなくなって初めてその事実に気付かされるとは…何とも情けない話だ」

 元の静かな口調に戻ると、自嘲気味にそう語った。

 そこでやっと僕は口を開く。

「アイさんも、きっと待ってるはずだよ。カズヤが迎えに来るのをね」

 と、カズヤは僕の方を振り向くとやさしい笑みを浮かべる。

「そうだな。待たせすぎて怒り出す前に、迎えに行ってやらないとな」

 どこかで待ち合わせをしている人を迎えに行く様な、そんな気軽さでカズヤは笑っていた。

 FOLS本部で身動き出来ないでいた一週間、どうやらそれはカズヤにとって無駄な時間ではなかった様だ。ここに来たばかりの頃の、自分の体調すら省みない切羽詰まった心境からは脱出し、本来のカズヤへと戻れたのだろう。

 すると、カズヤは真剣な顔つきへと変わる。

「明日にはオレ用の時空転移装置が出来るそうだ」

「そうなんだ。それで僕に会いに来たって事は…」

「ああ、出来次第、オレはこの世界を離れる。だから、その前にお前に言っておきたい事があったんだ」

 カズヤは立ち上がると一歩、二歩、三歩、前に出る。そして、夕日を背にする様にして振り返った。

「オレは必ずアイを見つけ出す。だから、その時は、お前に紹介するためにこの世界に戻ってくる。約束だ」

 カズヤの表情は影になっていて見る事は出来ない。だが、その声からは重い決意の色がうかがえる。

「分かった…約束だね。楽しみに待ってるよ、アイさんに会えるのを。そして、FOLSで一緒に戦えるのを。それまで、僕は今まで以上に腕を磨いて待っている。だから必ず…、必ずここでまた…」

 わざわざカズヤが僕に別れの挨拶をしに来た理由が何となく分かった。

 きっと、カズヤは不安なんだ。

 ベータが言っていた通り、これからカズヤが旅立つ先にあるのは無限の時間と無限の世界。その中で、アイさんを見つけ出す……不安が無い訳が無いじゃないか。

 だから、カズヤは戻って来る場所をはっきりしておきたかったのだろう。

 必ずここに返って来る。ここで、この世界で待っている人が居る――それをはっきりさせる事が、これからの一人旅の力になるのだろう。

 何でか分からないけれども、頬に温かいものを感じた。

 カズヤと会ってから一週間とちょっと。話をしたのなんて数日の間だけだ。なのにどうして、どうしてこんなにも…

「必ずここでまた会おう!」

 力一杯言葉にする。

 さよならは言わない。だって、カズヤとは必ずまた会えるんだから。

 そうだろう、カズヤ?

「ああ。また、必ず」


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