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それを見届けると、クシイはゆっくりと話し始める。
「では、話を始めようか。ガルデルムとリシェルには君達が来る前に先に聞いてもらったので重複する事になるが、カズヤ、君の左腕…アームの事だ」
すると、カズヤは眉間にしわを寄せる。
「アームの事? こいつはここに来てからずっと調べていたが、結局大した事は分からなかったって昨日聞いたぜ?」
クシイはその言葉には返事をせずに懐に手を入れると、一つの金色のプレートを取り出す。
「さて、先程の話だが、これが時空転移をするための装置だ。既にこの二人には、ここに来た次の日に渡してある」
クシイが取り出したのは私が持っている銀色のプレートと違って、空間移動だけではなく時間移動も出来る装置。FOLSの中でも持つ事の許されている者は少ない。
カズヤさんはそのプレートへと手を伸ばすと、手にとってまじまじと見つめる。
「で、これをオレにくれるって訳か? アームの調査が終わったから」
だが、その言葉にクシイは首を横に振る。
「否、それは私のものだ。それに、お前にそれを渡しても扱えまい」
その言葉にまず反応したのはリシェルだった。
「え? どうして? 私もデールも使えるよ?」
クシイはリシェルへと向くと、
「ああ、だから君達には既にそれを渡してある。だが――」
そこでカズヤさんへと向き直る。
「カズヤ、君は例外だ」
「お兄ちゃんが例外? どういう事?」
またもやリシェルの反応が早い。
先に言おうとした事を言われたせいか、カズヤさんはクシイを見据えたまま、黙って続きを待っている。
すると、黙って成り行きを見守っているかと思われたガルデルムが口を開いた。
「大体予想は出来るな。その装置を使うためにはアルドをそれに注ぎ込む必要がある。だが、カズヤはアームを通してでしかアルドをコントロールする事が出来ない。よって、カズヤにはその装置を使いこなす事は出来ない」
言われて私もやっと理解する。
ここで、アームの話と転移装置の話が繋がるのだという事に。
「その通りだ。だからこそ、アームの解析を優先してきた。そして、アーム自体に時空転移機能を組み込む目処が立った」
「本当か!?」
歓喜の色を含んだ叫びをあげるカズヤさん。
クシイはそれに大きく頷く。
「明日には組み込む事が出来る。それにはカズヤ、君はもちろんの事、ガルデルム、リシェルの二人にも立ち会ってもらう事になった。それを伝えるために、今日は皆を呼んだのだ」
「なるほど、それは興味深いな。だが、何故オレ達にも立ち会わせる?」
ガルデルムが疑問の声を上げる。
確かに、アームに装置を取り付けるのにカズヤさん以外の二人が必要な理由は分からない。
「君達二人は保険だよ。アームについては分からない所の方が多い。それを改良しようというのだから、予期せぬ出来事が起こるかもしれない。そう、君達がここにいる様にね」
その説明にガルデルムは「あぁ」とだけ口にし、納得した様だ。
リシェルの方はそのやり取りには関心がない様で、黙って椅子を前後に揺らしている。
「もし事故が起きて、オレがどこか別の世界に飛ばされた場合、同じ世界出身の二人がいた方が追跡し易いって事か」
カズヤさんはクシイの言いたい事をまとめて口にする。
「そう、その通りだ」
クシイは簡素にそう答える。
「今日の用件はそれだけか? 終わりなら帰るが?」
そう言ったカズヤさんの声は、何故か不機嫌そうなものだ。
「そうだな。今はそれだけだ。わざわざ休日に呼び出して悪かったな」
そう答えるクシイの言葉を最後まで聞く前に、カズヤさんは椅子から立ち上がり、出口へと向かって歩き出す。
入口のドアが閉まり、カズヤさんが見えなくなったところで、
「お兄ちゃん、どうしたんだろう?」
その後ろ姿を見送っていたリシェルが不思議そうに呟いた。
続いてガルデルムが口にする。
「急に目の前が開けたと思ったら、今度はどの道に行ったら良いのか分からなくなった…というところだな」
なるほど、無限に広がる時間と世界の中を旅する事が出来るとして、まず何処から足を踏み出せばいいのか…そして、どんな世界が待っているのか…確かに不安になる気持ちは分かる。
カズヤさん、大丈夫なのだろうか…。探し人を見つけ出し、ちゃんとこの世界に戻って来られるのだろうか…。
そんな事を考えながら、私はカズヤさんの出て行った扉を見つめていた。




