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釘屋イタミの偏愛 ~平成ギャルの心霊バイト~  作者: 酒吞ピース


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17/20

十七枚目 心霊やUFO特集、昔はTVで沢山放送してたね

「……おい」


 イタミは漫画喫茶の個室でメイクをしていた。


「……おい! 聞こえてるだろ!」


「なーにー?」


 イタミは鏡を覗き込みながら、気の抜けた返事をする。


「俺様をどうする気だ?」


「まあまあ」


 イタミは注文したポテトを一口食べた。


「まあまあじゃねえ! さっきから何を勝手にくっつけてやがる!」


 声の主は、イタミの隣に置かれた小さな人形だった。


 全長二十センチほど。黒ずんだ布で作られた身体はあちこち擦り切れ、手足には不揃いな縫い跡が残っている。


 顔の左目は黒いボタン。右目は赤黒い糸で乱雑に縫い潰され、口元にも同じ糸が渡されていた。


 もともとは、見る者に不気味な印象を与える呪いの人形だった。


 それが今では、黒い毛糸の髪に大きなピンクのリボン。髪にはハートの飾りがいくつもぶら下がり、首元には小さなウサギのチャームまでついている。


 ボロボロの身体には、ピンク色の布まで縫いつけられていた。


 誰がどう見ても、呪いの人形というより、趣味の悪いギャルの手作り人形である。


「えー、かわいいじゃん」


「ふざけんな! 俺様は由緒正しき呪物だぞ!」


「はいはい」


「聞けや、クソガキ!」


 イタミは人形をちらりと見て、満足そうに頷いた。


「うん。やっぱ、ピンク似合うねー」


「てめぇ……!」


「ポテト食べる?」


「いるか!」


「食べられないか」


 イタミは笑いながらポテトを口に運んだ。


「……呪い殺してやる」


 人形は先ほどから、イタミに向かって呪いを飛ばし続けていた。


 しかし、イタミには何の効力も示さない。


 なんなんだ……このガキ……。


 化け物か……。


 人形が内心で毒づいていると、イタミが顔を向けた。


「なに?」


「……」


「イタミはね、あなたと仲良くなりたいの」


「はあ?」


 イタミは人形の頭を片手でつかみ、自分の顔の前まで持ち上げた。


「イタミとあなたは、今日から友達……いや、相棒かな?」


 イタミは首を傾げ、しばらく考え込む。


「わけわかんねぇ! 頭かち割るぞ!」


 人形は小さな手足をばたつかせた。


「名前、決めなきゃね」


 イタミは気にも留めず、再び考え始める。


「んー、ミニイタミ……ぬいぐるみ……イタぐるみ……。うーん、長いなあ」


「おい! 聞いてんのか、ガキ!」


「あ、そうだ!」


 イタミはぱっと顔を輝かせた。


「痛みちゃん! 漢字で『痛み』ね?」


 満足そうに微笑むイタミ。


「勝手に話を進めるな! 俺様の話を聞け! だいたい、協力なんてすると思うか?」


「しなきゃ、怖い巫女さんに祓ってもらうよ?」


「はっ! ガキの言いなりになるくらいなら、そのほうがマシだな」


「へー」


 イタミはピアスのついた舌をぺろりと出した。


「協力してくれたら、イタミならあなたの目的も叶えてあげられるよ?」


「……お前、なんでそれを?」


「イタミのスーパーパワー」


「…………」


 人形は暴れるのをやめ、小さな腕を組んだ。


「……お前を信用できねぇ」


「じゃあ、血の契約ね」


「なに?」


「そうすれば、信じられるでしょ?」


「……本気で言ってんのか?」


 イタミは人形を見つめ、いたずらっぽく微笑んだ。


「ふふっ。どうする?」


「…………」


 人形は黙り込んだ。


 目の前の小娘は、得体が知れない。


 呪いが通じないどころか、自分の目的まで見透かしている。


 だが、もし本当に目的を叶えられるのなら。


 人形は小さな腕を組んだまま、イタミを睨みつけた。


「俺様の目的が達成されれば、何人かの人間は確実に死ぬぞ」


「イタミはね、所長がいればいいの。もちろんウミさんやあゆみん、花ちゃんも大事だけど、所長がいればいい」


 イタミはニヤリと笑った。


「……狂ってるなお前」


「ふふっ。で? どうする?」


「俺様が、その所長ってやつを殺すかもしれないぞ?」


「契約に組み込むに決まってるでしょ? それとも、目的達成後の話をしてる?」


 人形を持つイタミの手に、ぎゅっと力がこもった。


「……そんなこと、させるわけなくない?」


 イタミは人形を見つめた。


 その目からは、先ほどまでのふざけた様子が消えていた。


「……何をさせる気だ?」


「ふふっ、潜入捜査」


 イタミはウインクした。


「契約内容は?」


「釘屋イタミを裏切らないこと」


「……性格悪い女だな」


「わかりやすいでしょ?」


 血の契約は、内容が簡潔であるほど強い効力を発揮する。


 今回の契約では、釘屋イタミが裏切り行為と判断するすべての行為に制限がかかる。


 イタミは、そのことを理解していた。


「『痛み』ちゃんは?」


「……帝のミイラを俺様に差し出せ」


「オッケー」


「裏切りの代償はどうすんだ?」


「魂の消滅」


「……取り消せねえぞ」


「取り消す気ないからいいよ」


「……」


「なに? 怖いの?」


 イタミは痛みをニコニコと見つめる。


「……いいだろう。契約だ」


「ふふっ」


 イタミは痛みをテーブルの上に置く。


「じゃあ、やるよ? 裏切りの代償はちゃんと真似してね?」


「……早くしろ」


 イタミはニヤリと笑った。


「帝のミイラを、『痛み』に差し出す。裏切りの代償は、魂一つの消滅」


 そう言って、イタミは自分の親指の腹を歯で軽く噛み切った。


 親指に血が滲む。


 イタミはそれを痛みの前に突き出した。


「俺様は釘屋イタミを裏切らない。裏切りの代償は、魂一つの消滅」


 痛みは差し出された親指を両手でつかみ、滲んだ血を顔に塗りつけた。


 すると、塗られた血がボコボコと脈打ち始めた。


 やがて血は薄れていき、まるで布の奥へ染み込むように消えていった。


「ふふっ。よろしくね、『痛み』ちゃん?」


 イタミは自分の親指についた血を舐めながら笑った。


「ふん」


 痛みはそっぽを向いた。


「あっつ!」


 突然、胸元に熱を感じたイタミは、制服のシャツのボタンを外して谷間を覗き込んだ。


 そこには、縦横五センチほどの骸骨の紋様が浮かび上がっていた。


「なにこれ?」


「契約成立の紋様だ」


 痛みはテーブルから降り、イタミのもとへ近づいた。


「やるなら、とっととやるぞ」


「まあまあ。夏休みは始まったばっかりだよ? ゆっくりと……ね」


 イタミは谷間に浮かぶ紋様を、愛おしそうに撫でた。


 終


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