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釘屋イタミの偏愛 ~平成ギャルの心霊バイト~  作者: 酒吞ピース


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13/20

十三枚目 大人の歳でも子供。きっとこれからも

「あー」


 カッターシャツにパンツ姿の男は、気だるそうに座布団から立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。


「カビ?」


 冷蔵庫から卵を取り出し、開封済みの食パンの袋から六枚切りの一枚を抜き取る。


 半額シールの貼られたパンの表面を眺め、男は呟いた。


「まあ、温めれば食えるか」


 パンをトースターにセットし、棚からフライパンを取り出してコンロに置く。


 油を引いて火をつけると、つけっぱなしのテレビから笑い声が聞こえてきた。


「くだらねえ」


 男はぼそりと吐き捨てた。


 フライパンが温まったのを確認し、卵を割り入れる。


 ジューッ。


 音を立てながら、白身が徐々に白く固まっていく。


 男はそれを少し眺めてから、冷蔵庫からマヨネーズと牛乳パックを取り出し、流し台に置いた。


 チンッ。


 トースターが音を立てる。


 男は焼き上がったトーストを取り出し、流し台に乱雑に置いた。


 表面にマヨネーズをかけ、開けっ放しの冷蔵庫にマヨネーズを戻す。


 目玉焼きをひっくり返し、塩コショウを振る。


 それを少し眺めてから、男は牛乳パックを手に取り、そのまま口をつけて飲みながらテレビの前のテーブルへ向かった。


「……」


 立ったままテレビを眺め、牛乳をもう一口飲む。パックをテーブルに置くと、男はコンロの前へ戻った。


 フライパンから目玉焼きを滑らせ、流し台に置きっぱなしだったトーストの上に乗せる。


 男はトーストを手に、テーブルの前に敷かれた座布団へ腰を下ろした。


「……」


 テレビでは、芸人やタレントたちが楽しそうにクイズを解いている。


「……」


 男はトーストにかじりつき、ときおり牛乳を飲みながら画面を眺めていた。


「ふうっ」


 食べ終えた男は両手を合わせ、牛乳を一口飲んでから立ち上がった。


 玄関へと続く扉の前に立ち、ドアノブの根元にネクタイをきつく結びつける。


 外れないことを確かめると、男はドアノブを背にして床へ座り、上半身を預けた。


 下半身をだらりと伸ばし、垂れ下がったネクタイを首に一周巻きつける。


 そして、右手で強く引っ張った。


「グッ!」


 男は目をきつく閉じる。


 顔が徐々に赤みを帯び、鼻から荒い息が漏れる。


 それでも、右手はネクタイを握りしめたままだった。


「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」


 両足がばたつき、ドンドンとフローリングを叩く。


 顔色は赤から紫へと変わっていく。


「んーっ! んーっ!」


 男の足は、さらに激しく床を叩いた。


 やがて、男は一度だけ目をカッと見開いた。


 舌がだらりと垂れ下がり、左手が力なく投げ出される。右手はネクタイを握ったまま、動かなくなった。


 男の下半身から尿が漏れ出す。


 床に広がった尿の輪は、ゆっくりと大きくなっていく。


 やがて、それも止まった。


 テレビからは、変わらず楽しげな笑い声が聞こえていた。




「事故物件?」


 花ちゃんが怪訝そうに尋ねた。


「そう。パパの知り合いの大家さんが持ってるアパートの一室が、そうなんだって」


 パックの紅茶を飲みながら、スマホをいじっていたあゆみんが答えた。


「げー、って感じね」


 花ちゃんはスナック菓子を食べる。


「まあ、私は幽霊なんて信じてないけど」


 あゆみんは笑いながら言った。


「でも、事故物件ってことはなに? 人が死んだとか、そんなの?」


「じゃない? 知らないけど」


「ふーん」


 花ちゃんは、一緒に昼食を食べているイタミに視線を向けた。


 イタミは手鏡を見ながら、軽くメイクを直している。


「イタミは幽霊っていると思う?」


 花ちゃんはイタミの髪を自分の指に巻きつけながら尋ねた。


「興味なーい」


「なんじゃそりゃ」


 花ちゃんは笑った。


「だいたい、私たちの知らないとこで毎日人一人は死んでるじゃん? 全員幽霊になってたら地球パンクするでしょ。だから私は信じてないの」


 あゆみんはポテサラを食べながら、箸でくるっと丸を描いた。


「まあ、確かに」


 花ちゃんは、なおもイタミの髪を弄りながら言った。


「……」


 イタミはリップを塗り、唇を合わせて口を動かす。


 鏡に映った自分にウインクすると、メイク道具をしまった。


「かわいくできましたかー?」


 花ちゃんが尋ねる。


「うん。イタミ、今日もかわいい」


 イタミは自分の顔を両手で包み、にっこりと笑った。


「それはそれは」


 あゆみんは笑いながら言った。


「自己肯定感の化物だわ」


 花ちゃんは呆れながら、イタミの頭を撫でる。


「だって、かわいいんだもーん」


 イタミは頬を緩ませた。


 今日、イタミのガラケーが鳴ることはなかった。


終


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