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釘屋イタミの偏愛 ~平成ギャルの心霊バイト~  作者: 酒吞ピース


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10/20

十枚目 背中を六年間守ってくれるランドセルは強い

「はい!イタミの勝ちー」


 イタミはゲームセンターに置いてあるダーツの前で、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「また、負けた……」


 二十代ぐらいの小太りの男が、がっくりと肩を落とした。


「よわよわじゃん、君」


 イタミは刺さったダーツの矢を回収しながら、テーブルに置いてある炭酸ジュースを口に含む。


「いやー、想像してたより難しいっすね」


 男は照れくさそうに頭を掻いた。


「イタミもやったことなかったけど、案外才能あるかも」


「僕の場合は、投げてるわけでもないし……」


「なに?負け惜しみ?」


「ご、ごめんなさい!そんなんじゃなくて……」


「ねえ」


 そこに、二人組の男が声をかけてくる。


「女子高生? かわいいねぇ」


 帽子を被った男が、馴れ馴れしくイタミの前に立った。


「俺たちと遊ぼうよ」


 もう一人の男が、スルスルとイタミの背後へと回る。


「な……なんですか。い……今は僕といるんだ!……です……」


「ナンパとかマジキモいんだけど」


 イタミはスマホの画面から目を離さず、冷たく吐き捨てる。


「一人でダーツやってても面白くないだろ? カラオケ行かない?」


「ぼ……僕がいるだろ!」


「本当はナンパ待ちとかだったんじゃないの?」


 イタミの後ろにいた男がニヤつきながら、その肩にベタリと手を置いた。


「触んなブス」


 イタミは嫌悪感を隠しもせず、その手をパシリとはたき落とした。


「っいてえな、調子のんじゃねえよ!」


「僕を無視するな!」


 イタミと男の間に、小太りの男が割って入る。


 だが、その瞬間。


 なぜか、男と小太りの男の体がふわりと重なった。


「ん……?」


 絡んできた男が奇妙な違和感を覚え、自分の体をペタペタと触る。


「何やってんだよ、おい」


 帽子の男が、呆れたように笑いながら声をかけた。


「いや……なんか今、体が……」


 男は混乱した顔で、帽子の男を見上げる。


「まあいいや、ごめんね、俺の連れが頭おかしくてさ」


 帽子の男は気を取り直し、再びイタミににっこりと微笑みかけた。


 しかし、イタミは完全に無視してスマホをスクロールし続けている。


「ご飯でもいいよ?何が好き?」


「……」


「お酒とか好き?なんか飲みそうじゃん?」


「……」


「おい、ガキ」


 無視を続けるイタミに帽子の男の顔色が変わり、イタミに顔を寄せる。


「臭い」


 イタミが、心底うんざりしたように呟く。


「この野郎……!」


 キレた帽子の男が手を突き出したその直後、なぜか背後にいたはずの男が、その帽子の男を強烈に殴り飛ばした。


「……っは!?」


 帽子の男は派手に床へ倒れ込み、そこに先ほどの男がものすごい形相で馬乗りになる。


「お前、何やってんだよ!」


「……!」


 馬乗りの男は何も答えず、血走った目でさらに殴りかかった。


「いてっ! おい、何すんだよ! お前っ!」


 激しい怒鳴り声と殴打音が響く中、イタミはそれを横目で見ながら、何事もなかったようにその場を離れていく。


 周囲にはあっという間に野次馬が集まり、冷ややかな目を向ける者や、面白半分にスマホを向ける者でごった返していた。


 数分後、誰かが通報したのか、警官が駆けつけて二人を引き剥がす。


 どちらも顔を腫らし、血を流して息を荒らしていた。


 その頃、少し離れた場所で、イタミは涼しい顔をして音ゲーの画面を叩いていた。


「あ……あの」


 顔を少し赤らめた小太りの男が、おずおずと話しかけてくる。


「今、フルコンボかかってるから話しかけないでくれる? 常識ないの?」


 イタミは画面から一ミリも視線を外さず、冷たく言い放つ。


「ご……ごめん……」


「ちょっと待っててー」


  数分後、イタミは音ゲーの裏手にあるベンチに座っていた男の横に、ドカッと腰を下ろした。


「おまたせー」


「は……はい!」


 男はビクッと肩を震わせ、イタミから少しでも距離を取ろうとお尻を浮かして横にズレる。


「で? 次はなに?」


 イタミは両手を大きく上に伸ばし、退屈そうに背伸びをする。


「え……と、映画、観に行きたいな、って……」


「いーよ。なに観るの?」


「今やってる、アニメ映画なんだけど……」


「イタミ、それ全然知らなーい」


「ご……ごめん。じゃあやめにしようか」


「なんで? 観たらイタミも好きになるかもじゃん」


「い……良いの?」


「君が誘ったんだからさ。早く行くよ」


 イタミは思い立ったようにスッと立ち上がり、同じ施設内にある映画館へと歩き出す。


「ま……待ってよ!」


 男は慌ててその後を追いかけた。


 上映中、男はイタミの横顔を何度もそっと横目で伺う。


 だが、当のイタミは真っ直ぐスクリーンを見つめ、映画に集中していた。


 男はそんな彼女の横顔に見惚れ、わずかに頬を赤らめる。

     *

 エンドロールが流れ、シアターが明るくなる。


「ど……どうだった?」


 男は少し不安そうな顔でイタミに尋ねた。


「うーん、よくわかんない」


「そ……そっか」


「でも、女の子は可愛かった。まあ、イタミの方が可愛いけどね」


 イタミはふふんと得意げに、楽しそうに笑う。


「そ……そうだね!」


 その後、二人でお昼ご飯を食べたり、甘いものを頬張ったりと、商業施設の中をあちこち歩き回った。


 そして、夕暮れ時の帰り道。


「いやー、久しぶりに遊んだかも」


 夕日を背に受けながら、イタミは大きく背伸びをして歩く。


「あ……あの、ありがとう、イタミさん。すごく楽しかったよ」


「ところで、君って満腹になるの?」


「満腹にはならないかな……味とかが口の中に広がる感じ……かな?」


「ふーん」


「お金使わせてごめんね……」


「イタミが食べたいの食べただけだしべつにー」


「ご飯の後、グレープ二つ食べてたけど……」


「甘いのは別腹」


 イタミはピアスの付いた舌をペロリとだす。


「で? 成仏できそう?」


「あ、はは……。あのさ、最後に一つだけ、いいかな……?」


 男はぴたりと足を止めた。


「なーに?」


「ぼ……僕と、キスしてほしい」


「それは無理」


 イタミは顔の前でめんどくさそうに手をひらひらと振る。


「いっ……一回だけでいいから!」


「無理」


「……」


 返事に詰まった男をよそに、イタミはカバンからガサゴソと使い捨てカメラを取り出した。


「はい、動かないで。もう撮るからねー」


 イタミは片目をつむり、ファインダーを覗き込む。


「まっ……待って! もしかして、やっぱり僕が気持ち悪いから嫌なの?」


「なにそれ?」


「だ……だってイタミさんなら経験沢山ありそうだし、一回くらいいいじゃん!」


「見た目で決めつけてるのそれ?」


 イタミは不機嫌そうに言って睨みつける。


「ご……ごめん」


「別に。慣れっこだし。見た目で判断するななんて言う気はないけど」


「本当にごめん……」


「もういいから」


「僕は誰からも好きになってもらえないんだ……」


「アホくさ」


「イタミさんだって僕が嫌いだから……」


「はあ? イタミは所長のお嫁さんなの。所長だけのイタミなの。君がどうこうなんて関係ないの。イタミは所長のものなの」


「……」


「今度はちゃんとお互い好きになった人と、向こうでデートしなよ」


「む……無理だよ、そんなの」


「できるよ。イタミ、今日楽しかったし」


 イタミはまっすぐな笑みを浮かべる。


「……イタミさん」


「キスも、好きな人同士でしたほうが幸せなんだよ。まあ、イタミもしたことないけど」


「……」


「はい、おしゃべりは終わり。もういい? 撮るよ」


 イタミは再び使い捨てカメラのファインダーを覗き込んだ。


「……今更だけど、僕、義弘って言うんだ」


「そっか。あの時、守ってくれてありがとね、よっしー」


「こちらこそ、本当にありがとう」


「はい、チーズ」


 フラッシュの光と共に、義弘の姿がスッと消え失せる。


「帰ってお菓子食べながらアニメでも観よっと」


 イタミは使い捨てカメラをカバンにしまい、再び歩き出した。


「面白かったら所長にも教えてあげよっと。てか、所長と映画観に行くのもいいかも!いつも忙しそうだしイタミがデートして癒してあげなきゃ!」


 イタミはくるくると回りながら家路に向かう。


 後日、イタミのガラケーにメッセージが届く。


『カノジョガデキマシタ。イタミサンモガンバッテ』


 イタミはそれを眺めて、


「なんかムカつく」


 と言いながらガラケーを閉じた。



終









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