ふざけTシャツ(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
今日はいつもと違って室内の電気は消され、ドアは施錠されていた。
「……ここまでする?」
「別に部室を開放してもらっても構いませんが、ひいろかきはだに知られたらグレます。」
「じゃあこのままにしときましょう。」
白ちゃんとあさぎは引き続きほぼ真っ暗な部室に居座ることにした。
「じゃあ確認しますけど、」
「ええ。『あのこと』ね。」
「はい。」
2人が言う『あのこと』とは、みどり先輩を交えたPINEのトークルームで、事情を知らないみどり先輩がいるにも関わらず、あさぎのアカウントを使ったモーラと白ちゃんが口論をしてしまいモーラの存在がバレかけたことである。
※ep.76参照
「モーラさんの存在を隠し通すため、あえて私が白ちゃん先生の妹として振る舞っている場面をみどり先輩に見せます。いいですね?」
「改めて聞くとんでもないことになってるわね……。」
「誰のせいだと?」
「あさぎ様マジフォロー感謝っす!!!」
白ちゃん、渾身の敬礼。
「……そして、」
「まだ何かあったっけ?」
「白ちゃん先生の妹を演じるのはあくまでも私が多重人格でそのうちの一つ……ということに説得力を持たせるために、私は他にもいくつかキャラ付けをして普段と違う言動をします。」
あさぎはぎこちなく顔を引き攣らせ、語らずとも誠に遺憾であることがひしひしと伝わってきた。
「というわけで白ちゃん先生はメンタルケアしてる感を出しといてください。一応養護教諭ですので。」
「うわめんどくさ……。」
「誰のせいだと?」
「あさぎ様マジフォロー感謝っす!!!」
白ちゃん、渾身の敬礼(2回目)。
「……というわけでいつみどり先輩が来る時間です。練習がてら2人で雑談してましょう。」
「よ……、よし来いっ!」
白ちゃん先生が承諾すると、あさぎは鎖骨のあたりまで垂れていた襟足を頭の後ろに回して縛り、雰囲気を変えた。
「おお……!?意外と変わるものね。」
あさぎは目を閉じて深呼吸すると、再び目を開いて何かを思い出したように指をピンと伸ばして胸の前で手を叩いた。
「そういえば白久先生?」
「へ?……あ、ああ。もう始まってるのね。……すんごい違和感。」
「誰のせいだと思っていますの?」
あさぎはいつもより3割マシで声を高くし、満面の笑みで額に青筋を浮かべた。
「私のせいですッ!!!」
「そうですわね♪」
「っていうか、モーラにだって責任の一端はあるでしょう?なんで私ばっかこんなことに……。」
「あら?それならとっくにお詫びの品をいただきましたわ♪」
「お詫びの品?」
白ちゃんはあさぎが差し出したスマホの画面を覗き込むと、画面には胸元に大きく『I'm loser』とプリントされたTシャツを着たあさぎとモーラが映っていた。
「品物なんてどこにも…………まさか、このTシャツ?」
「はいですわ♪」
「……あの子、海外いたことあんのよね……?」
「はいですわ♪」
「英語、わかんのよね……?」
「『負け犬』ですわ♪」
「いやなんでわかっててこれにした……ッ!?」
「あら?白久先生は『ふざけTシャツ』をご存知でなくて?」
「ふざけ……、え?」
「『ふざけTシャツ』……。視界に入るとふと笑ってしまうような、プリントのメッセージによる戯れを目的としたTシャツですわ♪」
「へえ〜、こりゃまたヘンテコな文化があるものねえ……。」
「あれ?」
2人が雑談をしていると、鍵の閉まったドアノブがつっかえてガチャガチャ鳴る音と、みどり先輩の声がした。
「……。」
「……。」
あさぎと白ちゃんは無言で頷くと、あさぎが部室のドアを解除してみどり先輩を出迎えた。
「あら、ごめんあそばせ♪」
「あさぎさ…………、今はお嬢様なんですね。」
みどり先輩は2人が意図した通り、あさぎの振る舞いがいつもと違うのは多重人格によるものだと誤認した。
「さあさ、お掛けになって?」
「どうも……。」
みどり先輩は流されるままに席に座ると、暗い部室内をキョロキョロと見渡した。
「……電気、つけないんですか?」
「密会だからね。」
「密会……。」
「それにしても、びっくりしたでしょう?あさぎちゃんが多重人格だったなんて。」
白ちゃんもいよいよ本腰を入れて取り繕いだした。
「もともと、ここと外ではキャラが違うなとは思っていましたけど……、はい。」
「そんなにお硬くならないで?みどり先輩も、お茶でもお飲みになって♪」
「え……?あ、はい。」
あさぎは若干引いているみどり先輩を他所目に熱々のお茶を淹れた。
「……白久先生も、大変ですね。」
「もう慣れたわ。……まあ、これに付き合うのも養護教諭の勤めってやつよ。」
ドヤ顔をキメる白ちゃんの背後でみどり先輩に聞こえないように、あさぎが小さく舌打ちした。
「……はは。」
「ところで……!」
あさぎはみどり先輩の隣に着席すると、身を乗り出して満面の笑みで話しかけた。
「みどり先輩は、『ふざけTシャツ』なるものをご存知かしら?」
「ふざけ、Tシャツ……?」
「さっきまであさぎちゃんと話してたのよ。」
「ああ、いつもの雑談ですね!直接は知りませんが、ふざけたTシャツ…………あ!この前外国の方が着てた『寿司Tシャツ』みたいな……?」
「オーーーッホッホッホ!!イグザァクトリーですわみどり先輩♪」
「あ、ども……。」
「みどり先輩が普段何気なくお召しになっているTシャツも、もしかしたら異国の方から見たらふざけTシャツなのかも……、しれませんわね♪」
「え、なんで知って……!?」
「「ん……?」」
「はっ!?//////」
みどり先輩が慌てて自分の口を手で覆った。
「……鶸田さん、もしかして。」
「へ、部屋着ですから……///」
「オーーーッホッホッホ!!大いに結構ッ!因みに私は『I'm loser』と書かれたTシャツを持っていますわ♪」
「あさぎさん……!」
みどり先輩は目を輝かせあさぎの手を強く握った。
「オーーーッホッホッ、ホ……!!」
あさぎの声が一瞬かすれた。
「好きなものなら堂々と!恥じることなどありませんわみどり先輩♪『 woodlouse』だろうが『Dung beetle』だろうが胸を張ってお召しになるがいいですわーー♪♪」
「確かに、英語のプリントシャツ着てる方はよく見かけますね!」
「……因みに意味は?」
「ダンゴムシとフンコロガシですわ!」
「えぇぇ……。」
「一生ついて行きますあさぎお嬢様……ッ!」
「やめとけやめとけ。」
「オーーーッホッホッ……ゲホッ。」
あさぎ、みどり、白ちゃん(3)
みどり:見てください!これが私のふざけTシャツです♪
みどり:[画像を送信しました]
みどり:[画像を送信しました]
白ちゃん:四面楚歌に、もう1個は……くちばし?
あさぎ:オーーーッホッホッホ!!片腹いてーですわ!
あさぎ:『chicken bishop nose』……圧倒的『ぼんじり』ですわ!
白ちゃん:へ、へ〜……
みどり:胸元にプリントしてるのにぼんじり……やっぱりこれ、ふざけTシャツだったんですね!
あさぎ:コンビニや居酒屋に来て行けば一目で欲しいものがわかりますわね♪
みどり:はい♪
白ちゃん:喜ぶとこなの……?
あさぎ:オーーーッホッホッホ!イカしてますわよみどり先輩
あさぎ:やはり好きなものはどんなに大きな宝石よりも淑女を輝かせますわ♪
みどり:はい!あさぎお嬢様……!
白ちゃん:だめだついていけん
あさぎ、白ちゃん(2)
白ちゃん:えっと、お疲れ様……?
あさぎ:まったくですわ
白ちゃん:予測変換
あさぎ:おっと
白ちゃん:とりあえずこれで妹のことは大丈夫かしらね
あさぎ:私の尊厳と喉を破壊したのとなんか変な気に入られ方した代償は高くつきますよ
白ちゃん:喉と最後のは勝手にやったんでしょうが
あさぎ:まさかぼんじりだとは思わないじゃないですか
白ちゃん:ちがうそうじゃない
白ちゃん:っていうか結局妹キャラはやらなかったわね
あさぎ:やらないに越したことはありません
あさぎ:やったら舌噛んでるとこでした
白ちゃん:おい
あさぎ:とにかくみどり先輩と3人のときはこんな調子でいくので協力してくださいね?
あさぎ:誠に遺憾ですが
白ちゃん:なんだか大変な業を背負わせちゃったわね
あさぎ:よく反省してお菓子を奢るように
白ちゃん:対価がお菓子……




