何者(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、応接室。
「どうぞお掛けください。」
「し、失礼します……っ!」
みどり先輩はあさぎにお呼ばれして部屋に入ると、あさぎが後ろ手にドアを施錠した。
「……あの、」
「どうかしました?」
「なんで、ただの一生徒が応接室貸し切れてるんです……?ちょっと怖いんですけど。」
「あ〜…………、」
あさぎはちょっと返答に困ると、
「ただの一生徒じゃないからですね。」
「もしかして、あさぎさんって実はもの凄く偉い人……!?」
「だったらどんなに良かったことか……。」
あさぎは思わず乾いた笑いをこぼした。
「偉くないのにここの鍵持ってるんですか?」
「持ってるけど偉くないんですよ、残念なことに。」
「う〜ん……。」
みどり先輩が眉間に皺を寄せてあさぎの顔を覗き込んだ。
「……あの、何か?」
「あ、いえ。その……もしかして偉い方のご子息だったり、するのかなぁ〜って……///」
「お門違いも良いところですね。」
「とかいって本当は入口の銅像の人の関係者だったり……?」
「マングローブ林でカニと格闘する趣味はないです。」
「そんなワイルドな人だったんですねあの銅像の人…………っていうか知ってるじゃないですか!?やっぱり関係者
「ではないです。」
「そうですか……。」
みどり先輩はガックリと肩を落とした。
「いや、何で落ち込むんですか……?」
「知り合いが実はすんごい人だったらテンション上がりません!?」
「上がる。」
「ですよねですよね!?」
「はい、それはもう。」
あさぎは立ち上がると、慣れた手つきでみどり先輩にあつ〜いお茶をだした。
「……相当使い慣れてますね、ここ。」
「そう見えます?」
「はい、それはもう……!」
あさぎはみどり先輩との問答がちょっぴり楽しく思えて無意識に少しだけ口角が上がっていた。
「まあそれはそうとして……そろそろ本題に入っても?」
「あっ!?すみません長々と。それで……今日はどうしてわざわざこんなところに?」
「……みどり先輩に謝ろうと思いまして。」
「謝る?」
「昨日のPINE、みましたよね?」
「ええっと……、
「既読ついてましたよ?」
「……見ました、ね。途中からよくわからなくて発言はしませんでしたけど。」
昨日の夜、あさぎとみどり先輩と白ちゃんの3人でトークルームを作り途中まで他愛もない雑談をしていたのだが、途中からあさぎのアカウントを借りたモーラと白ちゃんでちょっとした口論に発展していた。
※ep.76参照
「まあ、その……ご迷惑をおかけしまして、すみませんでした。」
「ええっと……、私よくわからないんですけど、つまり白久先生とあさぎさんは姉妹で、こんど割り勘でお食事に行く約束をされたということで良いんでしょうか……?」
「全然良くないですね。」
「ええっ!?」
「まず私と白ちゃん先生は赤の他人です。」
「え!?だって、PINEですみ姉って呼んでたじゃないですか!?」
「あれは私のアカウントを使っただけの別人です……。」
「なるほど、あれがあさぎさんの3つ目の人格……。」
「……今ちょっと聞き捨てならないことが聞こえた気がするんですけど。」
「も、もしかしてあさぎさんの人格って実はもっとたくさん……?」
「いやいやいやいやなんで私多重人格にされてるんですか。」
「へ?されてるも何も、あーかい部にいるときと、今とで2つ……白久先生の妹人格で3つでは?」
みどり先輩は困り顔で3本だけ指を伸ばした手をあさぎに見せた。
「……。」
あさぎは葛藤した。
みどり先輩のとんでもない勘違いに乗っかれば、絶賛家出中の白ちゃんの妹、モーラの存在を隠し通すことができるかもしれない。
しかし『乗っかる』ということは、今後みどり先輩の前では多重人格を演じる必要がでてくる。
それを他人に見られようものならきはだあたりには一生もののおもちゃにされてしまうだろう。
あさぎは目を閉じて深呼吸し、おへその辺りに力を込めて目を開いた。
「ちくしょう私がたまに白ちゃん先生のことをすみ姉呼びしているのは秘密にしてください……ッ!!!」
あさぎはみどり先輩のお茶が跳ねる勢いでテーブルに手をつき、額を擦り付けて懇願した。
「ぁ…………、ええっ…………とぉ……。」
「特にひいろときはだには内緒でお願いしまぁぁあっす!!」
あさぎは歯を食いしばり、ヤケっぱちに続けて懇願した。
「そ、そのぉ…………まずは、顔を上げてください。」
「…………失礼しました。」
あさぎは、フライパンの上で踊り狂うスクランブルエッグのようにハラワタがアツアツになるのを押し殺して平静を装った。
「ま、まあ……姉妹に憧れる気持ちは、わからなくも、ない……です、ので……。」
「そっ、そう、ですかぁ……!」
あさぎの笑顔に青筋がトッピングされた。
「その……だ、誰にもっ、言えない秘密の一つや二つは…………あります、もん……ねえ。」
これ以上平静を装うと心が決壊して叫んでしまいそうになったので、あさぎは対談を終わらせようとみどり先輩の手を強く握った。
「はいっ!?」
「だから……!これは取引ですッ!」
「取引……?」
「私は、みどり先輩とひいろの仲を応援する……。代わりに!」
あさぎが握る手に一層の力が込められた。
「……みどり先輩はこのことを墓場まで持っていってください待てなかったら先にきはだとひいろを墓場に埋めても良いのでッ!!」
「埋めちゃうんですか……?」
「……言葉のあやです。」
「あや、ですかぁ……。」
みどり先輩は俯いてちょっと考え込むと、また顔を上げてあさぎを見つめた。
「わかりました♪」
「本当ですかッ!!?」
「その代わり……ちゃんと応援してくださいね?」
「するッ!絶対しますッ!!」
「フフ♪あさぎさんって、面白いお方ですね♪」
「いや、そう言うわけでは
「わかってますって♪今は真面目な人格……ですよね♪」
「 」
あさぎのメンタルが真っ白な消し炭になった……。
あさぎ、白ちゃん(2)
あさぎ:ちくしょうめ
白ちゃん:いきなり穏やかじゃないわね
あさぎ:誰のせいだと
白ちゃん:何かあったの?
あさぎ:昨日のPINE
あさぎ:覚えてますよね
白ちゃん:ああ、あれね
白ちゃん:いきなり喧嘩しちゃったのは悪かったわね……
あさぎ:別にいいんですよ
白ちゃん:え、なに怒ったり突然許したり
あさぎ:別にいいんですよ『私は』
白ちゃん:もしかして、あの子まだ怒ってる?
あさぎ:牛丼の気分だそうです
白ちゃん:心配した私が馬鹿だったわ
あさぎ:ばーかばーか
白ちゃん:おいこら愚妹
あさぎ:残念でしたねあさぎです
あさぎ:ばーかばーか
白ちゃん:変なものでも食べた?
あさぎ:ここまで話してなんでみどり先輩の名前が出てこないんですか
白ちゃん:あ
白ちゃん:え、待って
白ちゃん:やばっ!?モーラのこと思いっきり喋っちゃってる!?
あさぎ:フォローしときましたんで
白ちゃん:ありがとう
あさぎ:今日はその報告です
白ちゃん:ほんと助かった……そこまで気が回らなかったわ
あさぎ:ばーかばーか
白ちゃん:そりゃ怒りたくもなるわね
あさぎ:いや別にフォローすること自体はいいんですよ
白ちゃん:じゃあ何に怒ってるの?
あさぎ:逆に聞きますけど、あの状況からどうやって私がモーラさんのこと隠し通したと思います?
白ちゃん:あれ?無理では
あさぎ:A:私が多重人格を演じて昨日のPINEは白ちゃん先生の妹な人格ということにした
あさぎ:です
白ちゃん:……はい?
あさぎ:みどり先輩が昨日のPINEを終始私のものだと思い込んでたみたいだったんで全部私ってことにしておきました
白ちゃん:大丈夫?あの子純粋過ぎない……?
あさぎ:なのでこれからみどり先輩と3人のとき私はモーラさんを演じます
白ちゃん:嘘でしょ?
あさぎ:嘘みたいに畜生な気分です
白ちゃん:それは、確かにばーかとも言いたくなるわね……
あさぎ:因みに今のところ私はあーかい部の人格と真面目な人格と白ちゃん先生の妹な人格の3つ持ってるとみどり先輩に認識されてます
白ちゃん:誇るな誇るな
あさぎ:は?
白ちゃん:すみません
あさぎ:秘密にするって決めたんならちゃんと隠し通してください
白ちゃん:返す言葉もございません……
あさぎ:というわけで明日、3人で部室集合です
白ちゃん:え、なんで?
あさぎ:白ちゃん先生の妹な人格を直接見せて信じさせるためですよちくしょうめ
白ちゃん:そ、それは苦労をかけるわね……
あさぎ:因みに私が多重人格なことは墓場まで持っていくと約束させましたので絶対にヘマしないでくださいよちくしょうめ
白ちゃん:よくそんな約束こぎつけたわね
あさぎ:みどり先輩の恋を応援するっていう条件付きでですよちくしょうめ
白ちゃん:とにかく明日はあさぎちゃんのことを妹だと思って接すれば良いのね?
あさぎ:なんたる屈辱
白ちゃん:おい




