星に恋して(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、白ちゃんの妹改めあさぎのお隣さんなモーラの部屋。
「ねえねえモーラさん、」
「どしたん?夕飯のリクエスト?」
「オムそば食べたいっ!……じゃなくて、」
「あさぎは食べたくないの?」
「オムそば食べたいっ!」
「いよっし!作るか。」
「あぁぁ……そうなんだけどそうじゃなくて、」
「まあまあ、ソースの香りでオムそばの舌にしてやんよ♪」
そう言うとモーラは慣れた手つきで豚肉を細切りにして炒めだした。
「……やっぱ後にする。」
「いいよいいよ、作りながらでも話はできるし。……で?明日のリクエストはなんだい?それとも明日はおやつ手作りしてみる?」
「うんっ!……って、なんで全部食べものの話になるの!?」
「違うん?」
「それはそれとして後でちゃんと話そう……!」
あさぎは投球の握りをされた野球ボールのようにガッチリと胃袋を掴まれていた。
「食べものの話じゃないってことは…………はッ!!??まさか、恋バナか!?『気になる人ができちゃったの、お姉ちゃんど〜しよ〜!?』的なシチュなのか……ッ!?」
「……。」
「なんだ、ちょっと憧れてたのに……。」
「今のシチュの何に憧れを……?」
豚肉に火が通ると、モーラはそのまま細切れにした野菜を炒めだし、あさぎは袋麺を水でほぐしだした。
「いや、さ?良いじゃん。恋……、青春って感じの甘酸っぱいひととき。」
「恋が甘酸っぱい……?」
「あさぎにはまだ早かったか。」
「いや、むしろ消費期限切れだよ。」
「なんですとぉッ!?」
モーラのフライパンから大きな火柱が上がった。
「え、なにリンクしてるのそれ?」
「いんや〜失礼失礼。」
「……私、気になる子ができちゃったんだ。」
「ほわぁぁぁあっっつ!!??」
モーラのフライパンからまた大きな火柱が上がった。
「……嘘だけど。」
「こら、他人で遊んじゃいけないんだぞ〜!」
「は〜い。」
あさぎはフライパンに麺を入れると、モーラに割ってもらった卵を菜箸で掻き回し始めた。
「……って、あたしのことは良いから、あさぎの話って何?」
「あ、そういえばそんな理由で来たんだった。」
「忘れんなよ……。」
「それはソースの香りが悪い……ッ!」
「ソースの香りねえ……、なら仕方ないッ!」
油が弾ける音と換気扇の音がほんの数秒の2人の沈黙を際立たせた。
「……ああ、そうそう。モーラさんって恋したことあるの?」
モーラのフライパンからまたまた大きな火柱が上がった。
「結局恋バナやないかいっ!」
「いや、そうだけどそうじゃないっていうかさ……。」
「うんうんうん♪自分の中でまだ恋なのかわからないんだよねぇ〜?♪♪どぉれおねーちゃんに相談してみなさ〜い♪♪♪」
「めっっちゃ憧れ拗らせてんじゃん……。」
「うっ、うるせー!悪いかっ、こんちきしょー!?」
「そろそろできたんじゃない?」
「おっと。」
モーラは出来上がった焼きそばを3皿盛り付けると、空いたフライパンに溶き卵を流し込んだ。
「……集中したい?」
「ガチるわ。」
「はいはい♪」
しばらくして渾身のオムそばが完成すると、2人は1番仕上がりのいいものを冷蔵庫に入れて残りの2皿を食卓に並べた。
「ほんじゃ、食べながら話そっかね。」
「……。」
「どしたん?冷凍アジが豆鉄砲食らったみたいな顔しちゃって。」
「みんな私のこと冷凍アジって言うじゃん。」
「そりゃ目が死んだ魚だし。」
「カラコンしよっかな……。」
「着けれんの〜?」
「無理っ!怖い……ッ!」
「潔いなあ……ってそうじゃなくて、どしたん?」
「あ、いやはぐらかさないんだなって。」
「そりゃぁあ〜〜?まあ??あたし、お・と・な♪……だしぃ??」
「青春したいのか大人になりたいのかどっちかにしなよ。」
「じゃあ青春ッ!!」
「えぇぇ……。まあいいや、じゃあ聞かせてよ。モーラさんの青春とやらを
「そんなものは無いッ!!!」
「恋したことあるって言ってたじゃん……。」
「あたしの恋は、なんつーか……青春とは真逆だったからね〜。」
モーラは頬杖をついて長いため息をついた。
「めちゃくちゃ思わせぶるじゃん。」
「お?気になる?気になっちゃ
「別に。」
「気になってよぉぉぉ〜〜!」
「うわめんどくさ……。」
「だってさ?こっちはあさぎの恋バナにわざわざ付き合ってあげてんだよ?ちょ〜〜っとくらい自分語りさせてよぉ〜……。」
「そもそも私の恋バナっていう前提が違うんだけど。」
「じゃあどんな前提?」
「あ〜、うん……。ええっと、私の知り合いの話なんだけど
「はいキタぁぁぁあ!!、それ絶対自分の恋愛相談なパターン!!勝ったね!」
「……。」
とことんめんどくさくなったあさぎは、弁解することを放棄した。
「モーラさんにとって、恋って、やっぱりポジティブなもん?」
「まあ、そうだね。」
「うんざりとかしないの?」
「なんでうんざりすんの?」
「だって、ろくに内面を知りもしないのによってたかって……。」
「な〜るほどハーレムってやつか。」
「私は認めてないんだけど。」
「あたしからしたら羨ましいけどな〜?」
「等身大の蚊柱みたいなもんだよ?」
「せめて人権は認めたれ。」
「蚊取り線香効かないしね……。」
「試すな試すな。」
「やっぱ私、歪んでるのかなあ……。」
「今さら?」
「モーラさん、オブラートってしってる?」
「ほんのり甘くて口の天井に張り付くやつ。」
「包む努力をしてほしいって意味なんだけどなあ。」
「『優しく包み込んで』的な?」
「『私に恋を教えて』的なやつじゃないんだよ。」
「恋バナしてたのに?」
「今さらだけどこんなんで恋バナしてることになるわけ?」
「恋バナしたことある人に聞いてよ。」
「それでよく『気になる人ができちゃったの、お姉ちゃんど〜しよ〜!?的なシチュなのか……ッ!?』とか言えたね。」
「憧れるのは勝手でしょ。」
「まあ、それは……うん。」
「あさぎも憧れてみればわかるよ。」
「私が今さら恋に憧れるとでも?」
「う〜ん……、」
モーラは腕を組んで唸った。
「…………っし!会いにいくか。」
「は……?」
「あたしが恋した相手に、だよ☆」
モーラはウインクすると、そそくさと簡単な身支度をして玄関へとあさぎの背中を押してった。
「なんで今?」
「あさぎは気にならないの?あたしの想い人。」
「めっっちゃ気になるッ!」
「……じゃあ、会いに行こう!」
「うんっ!…………、うん?」
2人は外に出ると、2人の部屋がある集合住宅の屋上に上がった。
「……上がれちゃうもんだね。」
「あたしより長く住んでて知らなかったの?」
「大体の人はわざわざ屋上なんて行かないよ。」
あさぎは柵に囲まれた屋上の真ん中に出ると、同じ目線の遠い建物の明かりがチラつくそんなに綺麗でもない夜景を見渡した。
「……で?モーラさんの気になる人って?」
「……上。」
「上?」
モーラにつられてあさぎが上を見上げると、天然のプラネタリウムというには程遠く、特別感やロマンチックといった感情を一切起こさない普通の夜空が広がっていた。
「…………もしかして、故人?」
「外れ♪」
気を遣って恐る恐る聞いたのをモーラはクスクスと笑って躱した。
「星になった的なやつかと思ったのに。」
「……でも、良い線いってるよ♪」
「…………わかったかも。」
「お?」
あさぎは演奏前の指揮者のように両手を掲げた。
「チンカラ〜……、ホ
「怒られるぞ?」
「誰に?」
「22世紀の青だぬきに。」
「じゃあやめとくか。」
「やめとけやめとけ。」
「…………、」
あさぎはほんの少し唸ると、
「ウィンガーディアム、レヴィ
「言わせねーぞ?」
「…………。」
「…………。」
「……違う?」
「全然違うしさっきからなんで浮かそうとしてんの?」
「いや、モーラさんの好きな人って宇宙人かな〜って。」
「ちげーわっ!……っていうか宇宙人呼ぶならせめて落とせよっ!?遠ざけてどうする……!」
「確かに。」
「は〜……、もう答え言っていい?」
モーラは屋上で大胆に背中を床にくっつけて大の字になった。
「当てるの無理そうだし、どうぞ?」
あさぎも大の字になった。
「答えはね〜……、この夜空♪」
「ケッ」
「ああっ!?今なんだかものすごく失礼な気配を感じたぞ!?」
「あー、気のせい気のせい。どーぞ続けて?」
「……ケッ、どーせあたしはロマンチストですよ〜だ。」
「いじけないでよ。」
「どの口が言うんだどの口が。」
「この夜空に比べたらちっちゃくて見えないね……♪」
「それっぽいこと言って流そうったって無駄だかんな?」
「チッ」
「あ〜あ!舌打ちとか、夜空に比べたらちっぽけ過ぎて聞こえな〜い!」
「おもくそ聞こえてんじゃん。」
「ほらほらこっちじゃなくて夜空見て。」
「くっっそ腹立つ……。」
2人は月明かりに照らされてゆっくりと流れる雲のシルエットを見送った。
「……自分語りするなら今じゃない?」
「う〜わ、可愛くねぇー……。」
「あんまり遅くなると夜食作らせるよ?」
「へいへい、じゃあ最後まで聞いてから笑ってね?」
「90デシベルくらいでいい?」
「……やっぱ黙って聞け。」
「ほーい。」
あさぎが黙って数秒経つと、モーラがゆっくり喋りだした。
「……あたしね?家出する前は、ほぼ軟禁状態だったんだよね。……絵本にでてくるお姫様みたいっしょ?」
「……。」
「……まあ、ちっちゃい頃はすみ姉と自由にお外走り回ってたんだけどね。」
「……。」
「部屋に閉じこもって、外が真っ暗になって、誰の足音も聞こえなくなったらね?抜き足差し足で裏の縁側に出てくんの。……んで、頭の中空っぽにしてボーッと空を眺めんの♪」
月明かりに照らされてふと見えたモーラの横顔は、どこか幼い子どものような無邪気な笑みを浮かべていた。
「それで、やな事ぜーんぶ忘れたら、毎日おんなじ事考えんの。」
「……何を?」
「いつか自由になって、どっかの国の、どっかの地べたに大の字に寝っ転がって……あたしが大好きになった人とおんなじ星を眺める未来♪」
「……なにそれ///」
あさぎは星空に引けを取らないモーラの横顔を見て顔が熱くなる感覚をおぼえ、モーラと反対側に寝返りを打った。
「やっぱあさぎにはまだ早かったかぁ〜。」
「ほらほら要約して。」
「こやつ、趣という概念とか無いんか……?」
「こっちからしたら『そこに愛はあるんか?』って感じなんだけど。」
「無いよ、そんなもの。」
「恋してんのに?」
「うん。だって恋は憧れで愛は施しだもん。」
「ま〜た哲学的なことを……。」
「ごめんごめん、あさぎには難しかったかぁ〜。」
「憧れは自分にないものを求める……『見上げる』態度で、施しは自分が持っているものを与える……『対等か見下す』態度だから共存しないってことを言いたいんでしょ?」
「……言語化能力えっぐ。」
「今さら気づいた?……まあいいや。まとめると、当時囚われのモーラ姫は夜空を通して自由に憧れていた……ってことね。」
「……ったく、ほんっと生意気だなぁ。」
「よく言われる……♪」
「……で、生意気なクソガキは満足したかい?」
「うん。私に集ってくる蚊柱の皆さんは私の美貌を求める乞食で、
「おい。」
「私の知り合いは…………、」
「知り合いは?」
「……、」
あさぎはいつかみどり先輩が言っていた言葉を思い出した。
※ep.74 参照
〜〜〜
『まあとにかくです……っ!赤井さんは私と違って、見返りも無しに人のために行動することに迷わないお方なんです。』
『……私が憧れるのも烏滸がましいほど、素敵なお人なんです♪』
〜〜〜
「……ネッシーに、ちゃんと『恋』してるってわかったからね♪」
「なんだそれ。」
「……ネッシーはみんなの心の中にいるのさ。モーラさんにはちょっと難しかったかな?」
「ケッ。やっぱ生意気なやつ。」
「よく言われる……♪」
2人は部屋に戻ると、夜食の宇宙船みたいな名前のカップ焼きそばで身体を温めた。




