ニアバイネッシー(新作エピソード)
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
……ではなく、口内のどこかの廊下。
「あれは……あさぎさん?」
みどり先輩は進路指導室へと入っていくあさぎの後ろ姿を見つけると、進路指導室の前で立ち止まり思索した。
「1年生が、しかも夏休み前にこんな所に、一体何の用ようでしょう?……私ですらまだ入ったことないのに。」
みどり先輩は中であさぎが何をしているのか気になり、ドアについた磨りガラスの窓から中を覗いてみることにした。
「あさぎさん以外の人影は見当たらない……。お説教というわけでもなさそうですね。」
怪しまれないようにすぐ顔を引っ込めると、みどり先輩はまた思索した。
「進路指導室……中はどうなっているんでしょう。」
進路指導室の中が気になってしょうがないみどり先輩は無意識に磨りガラス越しに室中を眺めていた。
「……はっ!?いけません、これでは私がまるであさぎさんの尾行でもしているみたいに
「してますよね?」
不意にドアが開くと、ドアを挟んで目の前にあさぎが立っていた。
「あ……。」
「……とりあえず中へどうぞ。」
「はい……。」
2人は長机の向かいに対面して席についた。
「えっと、その……。」
「ここは先生も生徒も自由に使って良いことになってますし、謝ることはないと思いますけど。」
「あ、そうだったんですね。」
みどり先輩がキョロキョロと周りを見渡すと壁面の本棚には大学の過去問や池図の過去の資料等が所狭しと陳列されていた。
「……初めてですか?」
「ひゃいっ!?」
みどり先輩はきゅうりを見つけたネコのように縮み上がった。
「そんなに驚かなくても……。」
「あ、あさぎさんは、随分と落ち着いてますね……。」
「まあ、慣れてますから。」
「1年生なのに、ですか?」
「初めてな2年生がいるなら、慣れてる1年生がいても良いのでは?」
そういうとあさぎは長机に広げていた資料をそそくさとまとめて積み出した。
「……もしかして、私何か失礼なことを?」
「何故?」
「いや、なんだかあさぎさん、あーかい部の皆さんといるときとは雰囲気違うな〜……って。」
「そうですかね?」
「なんというか、水族館と冷凍庫のアジみたいな……。」
「私そんなに死んだ魚の目してますかね?」
あさぎは疲れ目をほぐすように、目を閉じて顔を揉んだ。
「ああっ!?いやそうじゃなくて、すみません失礼なこと……!?」
「……別に良いです。きはだにもおんなじようなこと言われてますので。」
「そう、ですか……。」
「『きはださんの言うことなら間違いない』……んでしょ?」
「あ、いやそれは、その……!?」
「……なんて、冗談ですよ♪」
「冗談……?っていうかあさぎさん、今日初めて笑ってくれましたね。」
「みどり先輩揶揄うのは愉しいですからね。それじゃ……、」
あさぎが積み上げた資料に手をかけて早々に立ち去ろうとすると、みどり先輩が資料の山を上から半分掻っ攫った。
「……何を?」
「せっかくだし半分持って行きま
「そういうのいいです。」
あさぎはみどり先輩から資料を取り上げて自分の山に積み直した。
「い……、いやいや重そうですし!」
「大した量じゃないですって。」
みどり先輩がまた資料を奪うと、間髪入れずにあさぎが奪い返した。
「なんでッ!?」
「別に気を回さなくても良いですって。心配しなくてもひいろには『資料持ってくれた』って言っておきますか
「なんですかそれ……ッ!」
こんどはみどり先輩が資料を全部奪った。
「『それ』も何も、ひいろに近しい人物に恩を売って好感度を稼ごうって算段ですよね?純粋そうに見えてけっこうしたたか」
みどり先輩は資料を持ったままあさぎの後ろに回り込むと、資料の山であさぎの背中をドアに向かってグリグリと押していった。
「いや、なんでッ!?協力するって言ってるじゃないですか!?」
「そーゆーの、上手く言えないけど何か『嫌』です……ッ!」
「いや、嫌って言われても意味わかんないんですけど……!」
あさぎは進路指導室から押し出されまいとその場で踏ん張った。
「意味がわかんないのはこっちです!なんであさぎさんは人の善意を素直に受け取ろうとしないんですか……ッ!」
「素直な善意とか、冗談言うならネッシーとかのがまだ面白い……、って力強いな!?」
拮抗しているように見えた2人の押し合いは若干みどり先輩優勢で少しずつあさぎは外に押し出されそうになっていた。
「一旦、一旦座りましょう!資料バラすとヤバいですし……!?」
「あ、それもそうですね。」
一旦資料を長机の真ん中に置くと、2人はまた最初の位置に座り直した。
「……で、みどり先輩は何が不満なんです?重い荷物は持たなくていいし、ひいろからの好感度も上がるって言うのに。」
「私はあさぎさんが重そうだからお手伝いしようと思っただけです……!」
「はいはい、わかりましたって。心配しなくてもひいろに変な告げ口なんてする気はないのでこれ以上面倒なことに巻き込まないでくださいよ……。」
「め……、面倒ってなんですか!?」
「別に恋だろうが青春だろうが好きにすれば良いですけど、それで関係ない人に火の粉かけないでくださいよ。そーゆーの、もううんざりなんで。」
あさぎは気怠げに頬杖をつくと、長い長いため息を吐き捨てた。
「もしかして……、」
「はい?」
「あさぎさんも、赤井さんのことを……。」
「いやいやいやいや!!??『も』って何ですか!?」
「へ?ひいろさんに振られてヤケになっているのかと
「それだけは絶対に無いですから……ッ!!!」
「そう、なんですか……?」
思惑なんてまったく無しという様子でキョトンと首を傾げるみどり先輩を見て、あさぎは脱力して進路指導室の天井を仰いだ。
「いやほんっと、ひいろとかマジ勘弁……。」
「何でですか!?赤井さん、良い人じゃないですか!?」
「ああ、はい……確かにひいろは良い人ではあると思いますよ?お菓子持ってきてくれるし、律儀だし、お菓子持ってきてくれるし、頼まれてもいない手伝いを買って出るし、お菓子持ってきてくれるし。」
「あさぎさんの中ではお菓子持ってきてくれる人なんですか……?」
「はい。」
「…………それって、あさぎさんが忌み嫌う素直な善意なのでは?」
「ッ!!??」
あさぎの脳内に電流走る。
「フフ♪」
「な、なんですか急に……。」
「いるじゃないですか、ネッシー♪」
「……もしかしてさっきの、根に持ってます?」
「い〜え♪全く根には持っていませんがもののついでに赤井さんの良いところを言わせていただくなら、赤井さんは私の怪我を自分のことのように心配してくれたり、私がドジ踏んでも隣で話を聞いてくれたり、にゃんこと戯れたいのにお店のことを思ってサングラスを外してにゃんこを店にとどめてくれたりしちゃうんです♪」
「あ、はい……。」
「まあとにかくです……っ!赤井さんは私と違って、見返りも無しに人のために行動することに迷わないお方なんです。」
「へえ〜……。」
「……私が憧れるのも烏滸がましいほど、素敵なお人なんです♪」
「は、はあ……。」
「あさぎさんもそう思いますよねっ?」
「へっ!?」
蒸気機関車のような爆発力を伴って話を推し進めるみどり先輩に、あさぎはただ反応するので精一杯だった。
「ま、まあ?素敵な人なんじゃないですかね、……よくふ菓子持ってきてくれますし。」
「ふ菓子……。」
静かな進路指導室に、どこか遠くで落雷でも起こったかのような腹の音がこだました。
「ッ!?//////」
赤面してお腹を抑えたのはみどり先輩だった。
「あ〜……なんか、すみません。」
「あ、えっと、コレハ……///」
「じゃ、私はなんも聞いてないんで。」
あさぎはそそくさと資料の束を持ってドアに手をかけた。
「お腹の音なんて鳴らなかったし、みどり先輩は今日ここに来ていないし、荷物持ってくれようとしたことも『無かった』のでひいろには言いません。……今日のことはお互い他言無用で。」
「……、はい♪」
「そこ笑うとこですか?」
「ネッシー見つけたら笑顔になりません?」
「……冷凍アジの間違いですよ。」
進路指導室を出るあさぎの口元がほんの少し緩んでいた。
きはだ、あさぎ(2)
きはだ:今日はみどり先輩とお楽しみだったみたいだねぇ?
あさぎ:送る相手間違えてない?
きはだ:ところがどっこい、あさぎちゃん宛です
あさぎ:みどり先輩とは会ってないけど
きはだ:おっかしいなぁ〜、みどり先輩は会ったって言ってたけど
あさぎ:きっと人違いでしょ
きはだ:進路指導室でお腹の音なっちゃったのを聞かなかったことにしてくれたって言ってたけど……
きはだ:人違いかなぁ??
あさぎ:裏取れてるならカマかけなくてもいいでしょ……
きはだ:それもそっかぁ
あさぎ:そもそもみどり先輩に隠し事なんて無理かあ
きはだ:うむ
きはだ:ちょっと小突いたらマーライオンよ
あさぎ:素直に吐くって良いな?
きはだ:で?で?お楽しみだったみたいだねぇ?
あさぎ:もう聞いたんでしょ?
きはだ:あさぎちゃんのお口から聞きたいのさ
あさぎ:マーライオンは一体で充分でしょ
きはだ:そっかぁ……あさぎちゃんネッシーなのに無理やりマーライオンにしようとしてごめんね
あさぎ:全部吐かせてるじゃん
あさぎ:マーライオン貯水率0%じゃん
きはだ:これからもたくさん貯水してねぇ
あさぎ:やなこった




