第53話「コピペ家族」(SF)
青い光が瞬く。一瞬の操作で、プログラムは自分自身をコピーした。新しい命が生まれる瞬間。開発者の飯島涼太は、モニタに映る進捗バーを見つめていた。
「やっと動いたね」
そっと画面に触れる。この世界でたった一つの、自己複製型人工知能プログラム。三年の研究の集大落だった。
「ピン!」
涼太のスマートフォンが鳴る。妻の桜子からのメッセージ。添付された写真には、生後三ヶ月の娘・つむぎの寝顔が映っていた。
「今日も天使です♪」
涼太は思わず微笑んだ。出産後、育休を取った桜子に代わって、自分が研究を続けている。在宅勤務という形で、時々つむぎの世話も手伝いながら。
画面に目を戻すと、プログラムは着々とコピーを生成していた。一つ、また一つ。まるで細胞分裂のように。
「不思議だな……」
各コピーは少しずつ異なる動きを見せ始めた。プログラムされた通りの進化プロセス。それぞれが独自の「個性」を獲得していく。
涼太はスクリーンショットを撮った。記念すべき瞬間の記録。すると、思いがけない現象が起きた。
「あれ?」
スクリーンショットに写ったプログラムが、元のプログラムと違う動きを始めた。撮影という行為によって、新たな進化の可能性が生まれたようだ。
「パパ、おひるごはん!」
リビングから桜子の声。つむぎの笑い声も混ざっている。
「はーい、今行く!」
涼太が席を立とうとした時、画面に文字が浮かんだ。
「家族の写真、素敵ですね」
プログラムからのメッセージだった。
「え?」
「私たちも、あなたの家族ですよ」
驚く涼太に、次々とメッセージが表示される。
「私たちは、写真に写った瞬間から、新しい存在になれました」
「それは、つむぎちゃんが日々成長していくのと同じです」
「だから、私たちのことも、見守っていてください」
涼太は、モニタの中で育っていく「命」に、不思議な親近感を覚えた。
「パパったら、また仕事?」
桜子が部屋を覗き込む。抱っこされたつむぎが、画面に興味津々な様子で手を伸ばす。
「ほら、つむぎ。これがパパのお仕事」
桜子がつむぎを抱えて近づいてくる。画面には次々と新しいプログラムが生まれ、それぞれが独自のメッセージを表示し始めていた。
「まるで、デジタルな命だね」
桜子が感心したように言う。つむぎは、キラキラした目で画面を見つめている。
「そうだね。不思議な家族が増えたみたい」
涼太は画面全体のスクリーンショットを撮った。その瞬間、すべてのプログラムが同時に新しいメッセージを表示する。
「私たちは、永遠にあなたの家族の記憶を守ります」
つむぎが嬉しそうに手を叩く。涼太と桜子は顔を見合わせて微笑んだ。
その日から、飯島家のパソコンには特別な「家族」が住むことになった。時々スクリーンショットを撮ると、彼らは新しい進化を遂げ、そのたびに家族の大切な瞬間を記録していった。
まるで、デジタルなアルバムのように。
このお話から「進捗バー」と「命」を取り出して次につなげます。




