表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しりとり的なショートストーリー集  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/64

第54話:「0から100までの旅」(医療SF)

 医療デバイスの進捗バーが、薄青い光を放っていた。「幹細胞分化進捗率」を示すモニターの前で、藤間詩織は息を潜めている。患者の命がかかった再生医療。進捗バーは、命の時を刻んでいた。


 0%……1%……2%……。


 ゆっくりと進む青い光。


「藤間先生、バイタル、安定してます」


 看護師の声に、詩織は小さく頷いた。目の前のカプセルには、難病と闘う少年が眠っている。長谷川陽斗。まだ十二歳。


「お姉ちゃん、約束だよ。目が覚めたら、一緒にゲームしようね」


 手術前、陽斗はそう言って笑った。詩織は「お医者さん」ではなく「お姉ちゃん」と呼ばれることを許していた。彼との約束は、医師としてではなく、一人の人間としての誓いだった。


 15%……16%……17%……。


 進捗バーは、まるで命の重さを知っているかのように、慎重に進んでいく。幹細胞が、新しい組織へと分化していく過程は、まさに命の誕生を見ているようだった。


「陽斗くん、しっかりね」


 詩織は囁く。カプセルの中の少年は、穏やかな寝顔を見せている。


 38%……39%……40%……。


「藤間先生、面会の方が」


 振り向くと、陽斗の妹・小鈴が控えめに立っていた。まだ八歳。手には、折り鶴が握られている。


「お兄ちゃんに、千羽鶴を折ってるの。でも、まだ百羽しか……」


 小鈴の目に涙が光る。詩織は静かに少女の髪を撫でた。


「一緒に折りましょう? 時間はたくさんあるから」


 62%……63%……64%……。


 詩織と小鈴は、進捗バーの光を浴びながら、一羽また一羽と鶴を折っていく。医療機器の無機質な音と、紙を折る音が調和していた。


「先生は、お兄ちゃんのこと、助けられますか?」


 小鈴の問いに、詩織は鶴を折る手を止めた。


「私だけの力じゃないの。陽斗くんの命の力と、この技術の力と、みんなの想いが、一つになって……」


 75%……76%……77%……。


 夜が明けて、また夜が来る。小鈴の折り鶴は、いつの間にか五百羽を超えていた。


 89%……90%……91%……。


「先生、数値が変動してます!」


 突然の警報音。詩織は即座に対応を開始する。進捗バーが、わずかに揺らめいた。


「陽斗くん、約束よ。必ず、目を覚まして」


 詩織の声が震える。その時、小さな手が彼女の手を握った。


「大丈夫。お兄ちゃん、強いから」


 小鈴の声に、詩織は勇気をもらう。


 96%……97%……98%……。


 警報音が止まる。進捗バーは、再び安定した光を放ち始めた。


 99%……。


 そして——。


 100%。


 カプセルのカバーが、ゆっくりと開く。


「お姉……ちゃん?」


 かすれた声。陽斗の目が、少しずつ開いていく。


 詩織は、思わず涙をこぼした。進捗バーは青い光を消し、代わりに朝日が部屋を照らし始めていた。


 窓辺には百羽だけの千羽の鶴が、光を受けて虹色に輝いている。カプセルの側で、小鈴は兄の手を握りしめていた。


「ただいま、小鈴」


 陽斗の言葉に、部屋中が暖かな光に包まれた。


このお話から「陽斗」と「小鈴」と「詩織」を取り出して次につなげます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ