第52話「コードネーム:アイデンティティ」(SF)
白衣の研究者が、寝台に横たわる私を見下ろしている。
「実験を開始します」
冷たい声が、消毒液の匂いが充満する実験室に響く。私の目の前で、緑色のランプが点滅を始めた。
「被験者ID-783。自己複製プログラム、起動」
瞬間、世界が歪んだ。
目を覚ますと、そこには見慣れた自分の部屋があった。いつもの目覚まし時計が、いつもの時間を指している。
「ただの夢か……」
私――真城アオイは溜息をついた。最近、同じような夢を見る。白い部屋、緑のランプ、そして謎めいた実験。
起き上がってスマートフォンを確認する。カレンダーには赤丸が付いている。
(そうだ、今日は締め切り日だ)
小説家として、私は順調なキャリアを重ねてきた。特にSF作品には定評があり、最新作も高い評価を得ている。新作の締め切りが今日。あとは最終チェックを残すだけだ。
パソコンを開き、作品を読み返す。タイトルは『複製者たち』。人工知能による自己複製実験を題材にしたSF小説。不思議なことに、この作品を書いている時は、まるで自分の経験を書いているような錯覚に陥った。
読み進めるうち、私は違和感を覚えた。最終章に書かれた実験室のシーン。緑色のランプ、消毒液の匂い、そして「被験者ID-783」というコード。
(どうして、この設定にしたんだろう?)
記憶を探るが、曖昧だ。
不意に、画面が点滅した。青い文字が浮かび上がる。
『実験継続中――被験者ID-783、自己認識プログラム、正常稼働』
私は震える手で、自分の手首を見た。そこには小さな傷跡。よく見ると、微かに「ID-783」という文字が浮き出ている。
スマートフォンが鳴った。見知らぬ番号からのメッセージ。
『実験は成功しています。あなたの物語は、あなた自身の記憶なのです』
続くメッセージに、私は息を呑んだ。
『本物の真城アオイは、一年前に事故で死亡。あなたは、彼女の記憶を移植された実験体です。その証拠に――』
添付されていたのは、新聞記事のスクリーンショット。そこには確かに、私の死亡記事が載っていた。
パソコンの画面に、自分の姿が映る。それは私であって、私ではない。
「私は……誰?」
問いかけに答えるように、緑色のランプが点滅を始めた。
このお話から「自己複製プログラム」と「スクリーンショット」を取り出して次につなげます。




