表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しりとり的なショートストーリー集  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/64

第35話:「痣の記憶」(ヒューマンドラマ)

 私の左肩には生まれつき赤い痣がある。母は昔、それを見るたびに顔を曇らせていたという。母が他界してから十年。私は養護施設「陽だまり」で保育士として働いている。今日も朝から子どもたちの元気な声が響き渡る。


「音羽先生! 見て見て!」


 五歳の結菜が駆け寄ってきた。彼女の左肩には、私と同じような赤い痣がある。


 私が「陽だまり」に就職したのは三年前。面接の日、園長の篠原さんは私の経歴書をじっと見つめ、ため息をついた。


「音羽さん、あなたの母上は……確か十年前に?」


「はい。交通事故でした」


 その時、篠原さんの目が微かに潤んだような気がした。だが、すぐに穏やかな笑顔に戻り、私の採用を決めた。


 結菜が来たのはその半年後だった。両親の事故で孤児となり、親族も引き取り手がなく、施設で暮らすことになった女の子。左肩の痣を見た時、私は強い親近感を覚えた。


「結菜ちゃん、お絵描きしようか?」


「うん! 先生と一緒がいい!」


 結菜は私にべったりだ。同じ痣を持つ者同士、何か特別な繋がりを感じているのかもしれない。


 夕方、送迎の時間になった。


「あら、音羽先生」


 篠原園長が事務室から出てきた。


「ちょっと話があるの。結菜ちゃんのことで」


 私は結菜を午後のお昼寝に付き添わせた後、園長室へと向かった。机の上には古びた写真が一枚。三十年ほど前のそれは、若かりし日の篠原園長と、見知らぬ女性が写っていた。女性の左肩には、見覚えのある赤い痣があった。


「これは……?」


「私の双子の妹よ。三十二年前に難産で亡くなったの。死の間際、生まれた赤ちゃんを『陽だまり』で育ててほしいって……」


 篠原園長の声が震えた。


「その子は私が託児所で育てた。でも、十八で施設を出た後、消息を絶ってしまって……。十年前、交通事故のニュースで彼女の死を知ったわ」


 私の体が凍りついた。


「その人は……私の母ですか?」


「ええ。あなたは私の姪なのよ、音羽さん」


 目の前が揺れた。そして、もう一つの事実が私の胸を刺した。


「それじゃあ、結菜ちゃんは……」


「ええ。あなたの妹よ。妹さんは結婚後、両親と死別。残された赤ちゃんが結菜ちゃん。血のつながった親族がいないと聞いて、私はすぐに引き取ったの」


 窓から差し込む夕陽が、三十年の時を照らし出す。私たちの左肩の痣は、引き裂かれた家族の記憶を繋ぐ赤い糸だったのだ。


「音羽さん、これからはちゃんとした家族として……」


 篠原園長の言葉が途切れる前に、私は立ち上がっていた。保育室に戻ると、結菜は目を擦りながら起き上がったところだった。


「お姉ちゃん……?」


 彼女は初めて、私をそう呼んだ。

このお話から「孤児」と「双子」を取り出して次につなげます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ