家庭訪問
「神野君!少し同行してもらえるかね」朝一から課長に声を掛けられうんざりした。課長の姪で隣のデスクの好子ちゃんと仕事の話しをしながらも、プライベートにまで突っ込んだ話しをする様になり、この部所も悪く無いと思い始めていた所だった。
課長は自動車の運転席からこれから行くトコについて概要を話し始めた。
「3日程前から幼児虐待じゃないかって通報があってね!こう言った件で訪問する場合、複数人で行く事になってるんだ!君も一度こう言った事を経験しておいて欲しいと思ってね…」
なるほど!遂に恐れてた事がやって来たか!ボクはこう言った波風が立つ様な事を出来るだけ関わりたく無いって思って生きて来たのに…
暫くして、とあるアパートの前に自動車は止まった。
「このアパートの二階の一番奥の部屋だよ」
そう言ってついて来る様にボクを促した。
「坂井さん!坂井憲男さん!ご在宅ですか?」
課長はドアを激しくノックしながら叫んだ。すると、直ぐにドアノブが開く音がした。
「何だ!誰だよ!文子なら居ねぇよ」
寝癖と無精髭がひどい、如何にも乱暴そうな男が姿を現した。
「坂井憲男さんですね?初めまして!私役所の小森と申します」
課長は一切動じる事無く名刺を差し出した。
「役所?役所が何の用だよ!税金ならちゃんと免除申請出してんだろ?」
「イヤイヤ!税金の件では無いんです!ご子息の憲文君は居られますか?」
「あぁ?憲文なら学校に決ってんだろ?憲文が何だってんだ?」
男は、全く悪びれる様子もない。
「そうですか?イヤ、実はご近所から通報があったもんですから…」
「通報?何の!」
「お子さんの泣き声やら叫び声が良く聞こえて来ると…」
「あぁ?そんなん躾だよ!近頃のガキは情報ばっか持ってて、親の言う事もろくすっぽ聞かねぇだろ?だからチョイと手を挙げたら大袈裟に騒いだだけだよ!」
「そうですか?分かりました!又、お伺いする事があるかも知れませんが、ご近所様の目もありますので、出来る限り穏便になさって下さい!
それでは失礼致します」
そう言ったきり、課長は踵を返してしまった。
「課長?あれだけで良かったんですか?何か話し聞いてたら虐待の可能性大じゃ無いですか?」「神野君!君も役所勤めも、もう7年だろ?
だったら分かると思うが、ここで私達が市民と揉めても仕方ない!明らかに違法性があった場合、後は警察に任せる!それで良いんだよ」
ボクはボクの人生に波風は立てたく無い!
でも…本当にこれで良いんだろうか?




