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見舞い

真っ暗な闇の世界の中、少年がポツンと体育座りをして項垂うなだれている。気になって仕方ない思いに駆られ、放っておけなくなったボクは、少年に声を掛けた。

「ねぇ、どうしたの?迷子にでもなったの?」ボクの問い掛けに反応した少年は、ゆっくりと顔を上げた。その顔は涙でグシャグシャになっていた。

「お父さんが…ボクのお父さんが、ボクのせいで死んじゃったんだ。ボクが注意しなかったから…ベッドから落ちちゃったから…だからお父さんは悲しくなって死んじゃったんだ」少年は時折、涙声をしゃくり上げながら、ゆっくりと話した。

「君の名前は何て言うの?ボクは神野 力って言うんだ」ボクの自己紹介を聞いていた少年は、相変わらず項垂れたまま「坂井…坂井 憲文」と相変わらずのしゃくり声で言った。ボクは、この少年を見た事が無かったけど、名前を聞いて、どこかで聞いた事があるなぁと思った。

"あっ!"ついに少年の事を思い出したボクは、全身を汗だくにさせて、ベッドの上にいた。どうやら夢を見ていた様だ。

ベッドから出たボクはシャワーを浴びながら、坂井 憲文君の事に思いをせた。確か、憲文君も山本市民病院に入院していたよなぁ?

シャワーを終えたボクは、身体を拭いている最中さなか、心の中の何かが暴れ出した様に、気持ちがかされる様な感じを受けた。

ボクは着替えを済ませると、直ぐに病院に向かった。


途中、花束を買い、受付で憲文君の病室を聞いたボクは、そっと憲文君の病室の前で様子を覗った。母親の文子あやこさんは、一人息子をいとおしそうに、悲しみを含んだ瞳で見つめながら、憲文君の顔をガーゼで拭いていた。それを見たボクは何ともいたたまれない気持ちになった。そして、勇気を振り絞り、ドアをノックした。


「あの…何方どなたでしょうか?」文子さんは一度だけ顔を合わせた事があったが、ボクの事など覚えていない様だった。

「突然にスミマセン、ボクは今は辞めてしまったんですが、元は市役所の生活支援課におりました神野 力と申します」ボクの自己紹介を聞いても、彼女は今一いまいち、ピンと来ていない様子だった。ボクはさらに勇気を振り絞って「ボクがいた頃に、亡くなられたご主人さんが憲文君を虐待しているのでは無いか、と通報が寄せられまして、その担当をさせて頂いてたんです」ボクは頭の上からゆっくり水を掛けられた様に汗をき出させていた。

「あぁ、何か一度、主人から憲文の事故が起こる前に聞いた様な気がします。そんな事実は無い事は私が一番分かっているので、ご近所の嫌がらせか何かだろうって話てた事がありましたねぇ」文子さんは、過去の記憶を辿たどりながら、と言った感じに話てたくれた。

「はい、ボク達もその後、色々と調べてみて、その様な事情だったんだろうって事になりました」ボクは嘘を付く事で少しでも彼女の気持ちをやわらげてあげようと試みた。

「有難う御座います。私の知らない所で、色々とご迷惑をお掛けしてたんですね」文子さんは座っていた椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。

「あぁ、頭を上げて下さい。ボク達も仕事でした事ですから。それよりも憲文君の容態ようだいはどうなんですか?」ボクが差し出した花束を彼女は丁寧に受け取ると「正直な所、このまま意識を取り戻す可能性は低いそうです。今は人工呼吸器で何とか生きていますが、いつ合併症などを引き起こしてもおかしく無いそうで、そうなると…ウウッ」彼女が言いながら泣き出した姿を見て、後の言葉は分かった。


ボクに…もしボクに力があったら…彼を…憲文君を救う力が…

「あっ!」ボクは思わず大声を上げてしまっていた。その声に文子さんはビクッとなった。

「ス…スミマセン、いきなり大声を上げてしまって。ちょっと思い出した事があるんで、ボクはこれで失礼します」そう言い残して、ボクは病室を後にした。


もし…もしボクの仮説が正しかったら、ボクが憲文君を救う事が出来るかも知れない。ある思いをかかえてボクはある場所に向かった。

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