本当の能力の意味
「そのまま放っておいたらって、神野さん、何を考えているんですか?」いつもは冷静で落ち着いたトーンで話す山井先生の声も、流石に興奮気味と言った感じに電話の聞き口からボクの耳を突き刺した。
「スミマセン、先生。色々と考えを整理する中で、あくまでも参考程度にって事なんです。教えて頂けませんか?」ボクの泣き声を少し孕んだ言葉を聞いて"うーん"と唸った後、仕方ないなぁと言った風に喋り始めた。
「恐らくは、これはあくまで私の見立てですが、良性から悪転してしまうのに五年、その悪転してしまった癌細胞が転移を広げ、リンパにまで浸潤してしまうのに三~四年、そうなれば初診の時に私が診た状態とほぼ変わらなくなります。詰まりは生存率十年と言った所です」山井先生の声のトーンは、すっかりいつものトーンに戻っていた。
「そうですか…分かりました、またご連絡させて頂きます」そう言ってボクは電話を切った。
あれから帰宅して、色々と調べてみたんだけど、初ミッションで殺った引田 藤蔵は、出所した時に、既に癌に侵されていて、余命を二年と宣告されていたそうだ。だから出所して直ぐに亡くなったにも関わらず、それ程大きなニュースにはならなかったんだ。後は人間の平均寿命を75年~80年と換算して、その他の動物の平均寿命、ボクが殺した時の概ねの年齢を合わせて考えると、大体、145年~150年分の命を吸い取った事になる。そしてボクの寿命が10年程延びた事を考え合わせると、奪った命、1年に対して、ボクの寿命が1ヶ月程延びる事になる。もし、ボクのこの仮説が正しいなら、ボクは他の生物から命を吸い取って延々生き永らえる "モンスター" って事になる。まるで吸血鬼じゃないか?
そんな事はボクが本当にしたかった事じゃ無い。ボクは、只、世の中の苦しんでいる人を救いたかった、悪人共を抹殺したかっただけだ。そう思えたのも、ボクの寿命が後一年だと聞いたから決意出来たんだ。そうで無かったら、ボクは相変わらず人生に出来るだけ波風を立てない様に今も生きていた筈なんだ。こんな能力を持っていても、使わずに生きていた筈なんだ。
結局、ボクが授かったこの能力は、神様から受けた力なんかじゃ無く、悪魔から授かったものだったのかも知れない。
ボクはアサシンバンクにアクセスして、アサシン登録を解除した。
もう、この能力は使わない!山井先生の言う通り、手術を受けて病気を治そう。そして、再就職先を探して今まで通りに普通に生きて行こう。
そんな事を考えながら、いつの間にかボクは眠りに落ちて行った。




