実験Ⅱ
再び屋上に上がったボクは、柵越しまで歩を進めた。そして、そのまま首からぶら下げた双眼鏡を両目に充てがうと、街中を見回した。
この屋上は地上30mあるから、三角関数を使うと、ビルの入口から直線距離で40mの所が、ここから直線距離で50m、100mの所で1kmになる。
そう!ボクの目的は、直線距離での能力の範囲を知る為にこのビルに来たんだ。直線距離で1kmもの距離を見通せるとなると、国内では北海道の田舎の方の平野にでも行かなきゃ無理だ。都会の中で距離を取ろうとすると、どうしても高所に行く必要がある。それと、もう一つの目的は、肉眼で無く、双眼鏡の様な拡大鏡を通しても能力が発揮出来るかを知る事にもあった。
「先ずは50mだから…あのコンビニ辺りだな。おっ!丁度、猫がゴミ箱を荒らしに来た様だ」
ボクは猫に向かって双眼鏡越しに念を送った。すると、猫は何かに驚いた様に突然その場から逃げ出した。すると、走行して来た2tトラックに跳ねられた。見た感じ、多分、即死だろう。
「よしっ!上手く行った」
次に100mだな。これをクリアすれば、恐らくは双眼鏡さえあって、ターゲットを確認出来る場所であれば、遠距離からの殺害が可能な事が立証される。
「100mだから…あの国道沿いのガソリンスタンド辺りかな?」ボクは、しばらくガソリンスタンドの周辺を、双眼鏡で見回っていたが、国道の為か、人通りや車は多いが、中々動物が現れてくれない。かと言って、人を殺す訳にも行かないし…
ボクが苛立ち始めたその時、丁度、犬が…と思った…けど、人がリードを引いている。ボクは動物を飼った事が無いので分からないが、TVなんかで見ると、動物は飼い主にとって家族同然と聞いた事がある。流石に罪も無い人の家族を、動物とは言え、殺せない。ボクもそこまで鬼じゃ無い。
それからも根気良く見ていたら、スッと物陰が動いた。
「鼬だ!よしっ!今だ」ボクは思いっ切り念を送った。
鼬は国道を横切ろうと飛び出し、走行して来たセダンに跳ねられた。鼬を跳ねたセダンは一旦停車して、窓を開けて後ろを振り返った。しばらくして、"何だ!鼬か"とでも言った具合いに走り去ってしまった。
「ヨッシャー!1kmクリア!これでボクは無敵だ」誰もいない日曜日の夕方の雑居ビルの屋上で、ボクは大声の限り叫んでいた。




