実験Ⅰ
街に出たボクだが、何も考えずに出た訳では無い。この首からぶら下げた双眼鏡!コイツがボクの能力の、ほぼ全てを明らかにする事を確信していた。ボクは日曜日でも屋上に上がる事が出来るビルに向かった。
このビルは10階建てで、地上から屋上まで、約30mある。このビルの近くを屋上から十数m下に通る電線には、良く烏が屯する様に群がって来る。特に、この昼下がりの時間帯は、獲物を狙ってか?数十羽は集まって来る。
先ずは、この烏を実験台に半死半生のギリギリを掴む感覚を養う事にした。
屋上に上がってみると、案の定、沢山の烏達が"グヮアー、グヮアー"と五月蝿い位に鳴いていた。ボクは、この中から適当な一匹に狙いを定め、念を送った。すると、その一匹は"ギャー"と今までとは違う鳴き声を上げ、翼をバタバタさせ始めた。周りの仲間達は、その一匹の行動で、一斉に大空へと消えて行った。
当の烏はそのまま電線から地上へと落下して行った。
ボクは一旦ビルを降り、ビルの入口付近まで来た所で足を止めた。人が多勢とまでは行かないが、十数人、集まって何やら騒いでいる。
ボクは、ゆっくりとなるべく自然に、その野次馬達の群れに加わった。「何?これ!気持ち悪い」デートの途中だったのか、お洒落な格好をした若い女が言った。「何だ?このなの見た事無いぞ!烏が生きたまま落ちて来るなんて」日曜日にも関わらず、仕事中だったのか、背広姿の男が言った。
ボクが人混みをすり抜け、ようやく目的に目が届きそうになった時、"うゎー!ぎゃー"と人集りが、一斉に目的物を中心に放射状に拡がった。ボクは突然起こったその波に乗り切れず、その場に尻餅を付いてしまった。
烏は大きな翼をバタバタ羽ばたかせて、苦しそうに"ギャー、ギャー"と断末魔の叫びの様に鳴いていた。それからも、しばらくは翼を羽ばたかせては、止り、全身をピクピクさせ、また羽ばたく、と言った具合いの行動を繰り返した。
烏はやがて、やっとの事で立ち上がると、フラフラした足つきで歩き始めた。通常は烏が地上を移動する時は、ピョンピョンと飛び跳ねる様にして歩くのだから、相当な苦しみを帯びているに違い無かった。
「本当、気持ち悪いわね」「何だったんだろうな?」人々は口々に言いたい事を言いながら、自分達の目的地に向けて散らばって行った。ただボク一人、その烏の行く末を見守った。もちろん、心配しての行動では無い。あくまでモルモットの実験結果を検証する科学者の目だ。
烏は、歩道に沿って植え付けられている植え込みに、自分の姿を隠す様にして入って行った。
その後も2~3分、様子を窺ったが、死ぬ事無く、苦しそうに"キュー、キュー"と鳴いていた。ボクは確信した。電線からは約十数mだが、そこから落下した事を差し引いても、ボクの能力により、この状態になった事を!
ボクは二つ目の実験をすべく、再び屋上へと上がって行った。




