天誅
坂井の家は分かっている。
自分よりも力を持たない子供…それも我が子を死に等しい目に合わせた極悪人だ!
ボクの命は後、僅かかも知れない…でも…そんな非道な奴等なんか道連れに…?
イヤ、違う!ボクは地獄に落とされる様な事は何一つしていない。
ボクの残り僅かな命の限りそんな奴等を地獄に突き落としてやる!
このまま死んでしまったら"こんな世の中に産まれて来るんじゃ無かった"等と親が聞いたら悲しませる様な言葉を残して逝ってしまいそうだ。
そう思ったら、せめて極悪非道な奴等を一人でも多く地獄に突き落として、産まれて来た意味を示してやる!まずは"坂井!お前だ"
ボクは未だ昏睡状態にある憲文君を想い浮かべた。もちろん憲文君を見た事は一度足りとも無い!だけれど確信出来る!意も言われぬ理不尽な制裁を受け、苦しんでいる事を…
だからボクは殺る!
この能力こそ最期に神がボクに授けた力なんだ!
ボクがこの世に存在し得る理由なんだ!
坂井の家の前に着いた。ボクは躊躇い無くチャイムを押した。出て来たのは母親の文子だった。
「主人は出ています、多分…近くの酒場にでも…」
だろ?そう言う奴なんだ!ボクは慌ててグラスに注いだビールの泡が溢れるみたいに湧き出る怒りを押し殺した。
益々殺しがいがあるってモンだ。
繁華街の方に向かっている途中、千鳥足でフラフラとフラついて歩くヤツを見掛けた。
ボクは電柱の影に隠れてヤツに向かって念を送った。
"お前の様な虫けらにも劣る命…吸い取ってやる"
坂井は千鳥足のまま、信号のある横断歩道に差し掛かり、点滅し出した歩行者用信号を見て、少し駆け足気味に横断歩道を渡り出した。
するとヤツの左側から猛スピードで一台のセダンが信号を無視して交差点に進入し、坂井をはねた!
セダンは一瞬止まり掛けたがそのまま走り去ってしまった。
遠目ではあるが、道路に横たわる坂井の頭部からドス赤黒い液体が見るみる拡がって行くのが見えた。
ボクは心の中に、混ぜてはいけない何かを混ぜてしまったみたいに、天誅を下したヒーローの様な気持ちと、少しの罪悪感を残してその場を後にした。




