初めての出勤
みなみは初が思っていたよりも安全運転でパトカーを運転し、それ以外は特筆することもなく無事に駐在所に着いた。
「おはようございまーす! 初さん確保してきました!」
初の家に来た時と同じように元気よくみなみが中に入っていく。初はその後ろをゆっくりとついて行った。
「おはようございます。二人とも」
すでに出勤していた警察の制服姿のシロが椅子に座りながらそれに応じた。
「おはようございます」
遅れて初が挨拶する。
改めて駐在所の中を見渡すと、やはりごくごく一般的なというか初が想像していた通りのレイアウトで、ここが秘密組織の隠れ蓑になっているなんて夢にも思わないほどだ。みなみはシロの隣の椅子にドカッと勢いよく座りシロに絡もうとし腕を伸ばしたが、みなみが座るのと同時にシロが立ち上がってそれを躱していた。そして後ろにある棚まで歩くと、引き出しから何かの紙を取り出した。
「初さん、これに記入と印鑑をお願いします」
さらに机の引き出しから朱肉を出すと、取り出していた紙と一緒に机に置いた。
「すみません。印鑑持ってきてないんですが」
「え? ああ、そういうことですか……」
そう呟いてシロが視線を送った先には、駐在所に備えてあるであろうお菓子を頬張ろうとしているみなみがいた。すぐに視線に気づいたみなみは首を傾げるが、シロが机の家に置いてある書類を無言で指を刺すと、誤魔化すように視線を逸らした。
「あっとー……、えっとー……、そのー、てへっ!」
「みなみ、今日はおやつ抜きです」
「えー! そんなぁ……。い、今から取って来るのでそれでどうにかならないっすか?」
「なりません。今日中に作成しないと仕事ができないのですから取りに行くのは確定事項です」
「そんなぁ……」
みなみは机に項垂れながらもシロの方を向いて上目遣いで見つめている。
「ほら、早く行きなさい。すぐ戻ってきたら食べていいですから」
「やったー! シロさんだいすきっす!」
「はいはい」
ガバッとみなみは立ち上がってシロに抱き着く。それにシロは驚く素振りはなく、慣れた手つきでその背中を優しく叩いている。シロは初と接している時よりもくだけた、なんだかとても優しいお姉さんのような雰囲気があった。
——なんか良い感じに収まってるけど、僕も取りに帰るんだよな。あと、これからこの二人に挟まれるようになるの? え、しんどくない?
「というわけで初さん、すみません。印鑑をお願いできますか? みなみを自由に使っていいので」
シロは抱き着くみなみをそのままになんてことないように言ってくる。
「あ、はい」
「じゃあ初さん! いきましょー!」
「みなみ、離してください。私は行きません」
「えー!」
そんなやり取りを挟んでまた二人で車に乗り、わざわざ印鑑を取りに帰った。
帰宅してから再び駐在所に戻っても、当然だが中の様相は出た時と何も変わっていなかった。
「おかえりなさい。早かったですね」
「任せてくださいっす! 私にかかればちょちょいのちょいっす!」
ドアを開けるとすぐにみなみは座っているシロのもとへ向かった。初は今日最初に来た時と同じように一足遅れて進んで、書類が置かれている机の正面に座る。そしてペンと印鑑を取り出す頃にはみなみはお菓子をその手に持っていた。
書類の内容はなんてことなかった。一般的にはなんてことない訳ではないのだけれど、初の想像通りの内容の誓約書だったので、やはりなんてことなかった。初は印鑑を押し終えた書類を渡すと、シロは軽く目を通してからそれをクリアファイルの中に丁寧に入れた。
「ありがとうございます。受け取りました。そして初さん、ようこそトクマへ。私たちはあなたを歓迎します」
「歓迎しますっす! はい! これお祝いっす!」
みなみは近くにあったお菓子を初に差し出した。これはみんなのものなのではないかと疑問を抱きながらも初はそれを受け取った。




