司令官との対面
「やあ、さっきぶりだね」
入ったその部屋は最初に初が目を覚ました部屋とは異なり、よくテレビで見る司令官の部屋によく似ている部屋だった。床は一面えんじ色で踏むと少しモフモフとしていた。正面にいる司令官と思しき人物は、重厚なデスクに両肘をつき、どこか見覚えのあるポーズをしている。そのうえ、スーツによく分からないヘルメットのような被り物をしている。
——なんだ? なんでそんなギャグみたいな恰好をしているんだ。見た目的には女性だと思うけれど、声はさっき部屋で聞いた音声とは別の合成音声なのもなんでだ。
「いやー、こんな格好ですまないね。私の名前はそうだな、セキとでも呼んでくれ。一応ここの司令官をしている」
杉野はなんてことないようにその珍妙なセキと名乗る司令官の横に立った。
「こちらは杉野志乃で私の補佐をしている。私はシロと呼んでいる。お前さんもシロと呼んでやってやれ」
「しれい」
「ははっ。まあまあいいじゃないか」
杉野改めシロはすごい形相でセキを睨みつけるが、まるでいつもそうやっているかのように適当にあしらっている。
「さて、早速だが本題にいこうではないか。小林初いや、『無詠唱の配達員』殿」
「……ん? もしかしてそれって僕のことですか?」
「もしかしなくてもお前さんのことだ。無詠唱の配達員殿。二つ名ってやつさ。ちなみにシロにも二つ名があるぞ。『禁忌の魔女』という」
「その……二つ名、というのは、みな持ってるんですか?」
「いや、最上位の魔法使いにのみ与えられた名誉のようなものだ。今の二つ名持ちはシロとお前を合わせて五人いる」
初はその言葉に一度思考が停止する。しかしすぐに現実に戻される。
——いや、だっさ! 名誉にしては僕の二つ名だけあまりにもダサくないか? なんかシロっていう子は中二病くさいけどカッコいいし。いやでも自分がそうなったらそうなったでかなり嫌だ。なんていうか背中がぞわっとする。この年になって二つ名とか、こう、しんどい。二つ名というだけでゾッとするし、なによりダサい。というか最上位の魔法使い? 誰が?
「ということで本題だ。お前さんはこの組織、特別魔法犯罪捜査課をまず知っているか?」
「いや、知りません」
「当たり前だな。ならそこからだ。ここは特別魔法犯罪捜査課、通称トクマと呼ばれている組織だ。ここは警視庁の組織の一つで、魔法に関するテロなどの捜査などを行う。表向きは我々は警察だが、その実情は違う。秘密組織ってやつだ。まあ、分かりやすく言うなら昔のMI6の魔法特化バージョンみたいなものだな」
「それで、その秘密組織さんが僕に何の用でしょうか」
「そんなもの簡単に分かるだろ。お前さんが欲しいんだ」
「はあ」
セキは被り物のバイザーを上げた。そこからは鋭い目力のある瞳がのぞいていた。
「これも世間には内密な話なんだが……」
「司令」
「ああ、そうだな。その前に返事を聞こうじゃないか」
シロのその一言でセキは思い出したように言う。
——なんとなくこの二人の関係性が分かったような気がする。けれど、僕には選択肢なんてないのだろう。だってバイトクビになっちゃったし。この人が言うことが正しいとしたら警察に追われる身分というのも嫌だ。けれど内容も聞かないというのも怖すぎる。
「具体的に僕は何をすればいいんですか?」
「まあ簡単に言うと魔法を使った犯罪やテロを防ぐお手伝いとか、実際防いだりだとかをしてもらう。具体的な内容は追々だな。安心しろ。給料もたんまり出るし、家賃補助だって出る。休みが多くてボーナスだってあるぞ。あと好きに魔法の研究をしてくれていいし、我々の研究の内容も見れる。あと、自分の研究の報告の義務もない。そこらへんは勝手にや……」
「やりましょう」
セキのその言葉に初はごちゃごちゃ考えるのを止めて、食い気味に肯定した。
——とんでもない待遇だ! 願ってもない!
「……なるほど。了解した。追ってシロに書類を渡させよう」
「ありがとうございます」
「それじゃあさっきの話に戻ろう」
バイザーを閉めて再び両肘をついた。
「今、この国ではとある組織による犯罪が相次いでいる。そしてそれがここ数カ月で過激になってきている。その組織の名前は魔法至上主義党。彼らは自分たちの事を略してMSPと呼んでいるし、犯行に際し柄わざわざご丁寧にそのペイントをしやがる。私たちも情報収集しながらどうにかしているんだが、毎回後手ごてに回っている状況だ。しかもだ。私らの支部に物資や通信傍受対策用の手紙を定期的に送っているんだが、どこで傍受してるんだが分からんが時々邪魔される。お前さんの最初の仕事はこの輸送になる。二つ名通りの働きを期待している。何か質問はあるか?」
「そうですね……」
——質問か。業務内容はとりあえず分かった。聞きたいことは挙げたらきりがないが細かすぎて今言うのは違うと思う。大体のことはこの後、シロさんか別の隊員の人に聞けば良いと思うからここでしか訊けないことを訊くべきだ。
「その、二つ名ってどうしたら変えられます?」
「二つ名の変更?」
「はい。変える機会とかあるのかなって」
「ないな」
初の希望を打ち砕くようにセキは当然の様に言う。
「働くにつれてこう、より特徴的なものが出てきて、みたいな、ありませんかね」
「それならもしかしたらあるかもしれないが、今のところはそんな予定はないな」
「……そうですか」
二つ名はそう簡単に変えられそうにないらしかった。セキは興味ないように言った。
「他はないのか? 色々質問はあると思うんだが」
「……はい。とりあえずは大丈夫です」
失意の中の初は項垂れながら同意した。
「ならあとは細かいところは補佐をやるからそいつに聞いてくれ」
「……補佐ですか?」
「ああ。面倒くさいやつだが悪い奴じゃない。明日の朝お前の家によこすからよろしく頼む」
「はあ……」
「安心してくれ。きっとお前さんと仲良くなれるさ」
セキはそう言って席を立ち初に背を向けた。
「じゃあシロ、あいつを家まで送ってやれ」
「はい」
シロは返事をした後、初の横にきた。
「では私についてきてください」
「あ、はい」
初はシロの後ろについていき、さきの廊下へ戻った。




