誘拐された
次に初が目を覚ましたのは真っ白な何もない部屋だった。初のこの部屋の第一印象は人体実験の部屋だった。ただ白いだけの壁紙に、無機質なドア、部屋上部につけられたスピーカー。どれも映画に出てきそうなものばかりだった。手や足に拘束具などはなく、ギリギリ閉じ込められてるとは思えないぐらいの部屋だった。
『目を覚ましたかい?』
どこで意識の覚醒を察知したのか、突然上のスピーカーから男性の合成音声が聞こえてきた。初はその声が聞こえる方を見上げた。
『突然、こんな対応をしてすまない。別に君に対して悪意があるんわけじゃないんだ』
——そんな文言信じられるわけがない。ここなら魔法が使えるし、どうにかなるか?
『ああ、先に断っておくが、その部屋で魔法は使えない。その部屋はマギ同士が干渉しやすくして意図した波長が伝わりづらいようにしている。気になるなら使ってみるといい』
「いや、いいです」
初は自分の声が相手に聞こえているか分からないまま答えた。
『そうか』
けれど部屋の中で発した声はこの声の主にしっかり届いているらしく、初の言った言葉に合わせた返答が返ってきた。
——この人は一体誰なのだろうか。というか何だっけ、特別魔法犯罪捜査課だっけか。それって果たして公的な機関なんだろうか。もしかしてテロ組織か何かで戦力補充のためとかに誘拐された可能性もある。なんにしろ自分の力でどうにかしきれるものではなさそうだ。ひとまずは大人しく言うことに従うのが利口だろう。
『いまからそちらに案内を送る。それについてきてくれ。シロ、彼を案内してきなさい』
『はい』
スピーカーを通してその会話を初が聞いてから十数分後ぐらいたったころだろうか。部屋の扉が開いた。そこにいたのは最初に杉野と名乗ったあの少女だった。
「失礼します」
丁寧に頭をペコリと下げてから杉野は部屋の中に入ってきた。すぐに初に向かって歩いてきて、ギリギリぶつかりそうになるところで止まった。もう鼻先が初の胸に当たってしまいそうだった。
「手を出してください」
初はその言葉に従い、両手を前に出した。杉野は一歩だけ下がった後手を取り、そこに軍手のような手袋をはめられる。さらに勝手に初が外さないようにその手首に手錠のような物々しい装置が装着された。
「では行きましょうか」
——魔法を封じるんならなぜ口を塞がないのだろうか。意思疎通が難しくなるから? んー、でも魔法が使えるなら僕に損はないからいいか。
先行する杉野について行く形で初は部屋の外にでた。部屋の外は病院を思わせるほどキレイかつ無機質であった。前と左右に何処までも続いていると思うほど奥すら見えない廊下が伸びていて、等間隔に先ほどみた無機質なドアがあった。周りに窓はなく、ただ天井に設置されてある飾り気のないライトが照らしているのみだった。正面の廊下に向かって歩いて行った。しかし、いくら歩いても景色は変わらず、目的地が近いのか遠いのか分からない初はただ無心で杉野について行った。
それからどれぐらい経っただろうか、初の体感としては五分十分経った後、急に杉野が止まった。そこは廊下の途中だった。初には先ほどまで歩いてきた廊下と何も変わらない場所に見えた。杉野は向かって左手の壁に片手をつけてると、もう片方の手の指で何か順番でもあるようにペタペタと至る所を押し出した。すると、ピピピッという電子音の後に、ガチャッと何かのロックが開いた音がした。杉野は一度チラと初の方を見た後、逆側のドアを開けて中に入った。初もそれについて行った。




